『ホイットニー』“Always Love You”というより、“I Have Nothing”だったのかも… 公開中
原題:WHITNEY ★★★★☆
今、世間は猫も杓子もクイーン、『ボヘミアン・ラプソディ』、もしくは『アリー/ スター誕生』なのかなと思いますが、
こちらもぜひ見ていただきたい歌姫、ホイットニー・ヒューストンのドキュメンタリーです。
晩年のスキャンダラスな姿はそれまでの輝かしいキャリア、とりわけホイットニーのすばらしい歌声そのものを台無しにしてしまったかのようでした。
本作はそんな彼女の素顔に迫るドキュメンタリー。『ブラック・セプテンバー/五輪テロの真実』でアカデミー賞を受賞、『ボブ・マーリー ルーツ・オブ・レジェンド』や劇映画『ラストキング・オブ・スコットランド』『わたしは生きていける』なども手がけているケヴィン・マクドナルドが監督。ものすごい信頼感。
その彼がホイットニー・ヒューストン財団の完全協力のもと紡ぐのは、グラミー賞に8度輝き、全世界で2億枚以上のアルバムを売り上げた絶対的ディーバ、ホイットニーというひとりの女性の生き様。
デビューして瞬く間にトップシンガーとなり、映画『ボディガード』の世界的成功とボビー・ブラウンとの結婚を境に、薬物問題や家族との確執が表面化、48歳という若さで不慮の死を遂げるまでが描かれます。
初公開となるホームビデオやアーカイブ映像、未発表音源や記録写真とともに、彼女のきょうだいたち、友人、仕事仲間などが赤裸々に語ります。母シシー・ホイットニーも、言葉少ないながらも語っています。
父親が名付けたという「ニッピー」という愛称があっただなんて。
その中で「違うだろ、それ」と語っているインタビューもあったりして。
これはかなり貴重なのでは?
知らなかった事実が次々に飛び出し、正直圧倒されました。
ドラッグ問題の背景には、たいていそれがあるものです。
何より芸能一家の血を受け継いだ天性の才能に、慣れ親しんできたゴスペル、加えてアレサ・フランクリンやエルヴィス・プレスリーのバックコーラスでソロ歌手としてもデビューしていた母シシーの英才教育があり、その才能がいかにして形づくられ、花開いてきたのかは興味深いものです。
そして『ボディガード』ですよ。
あのころは猫も杓子も「えんだ〜いあ~」。映画は劇場に5、6回観に行ったでしょうか。大好きな映画であり、日本でもダブルミリオンとなったサントラもそれはそれは聴きました。
その後ボビー・ブラウンと凋落していく姿にまるで心が離れてしまったことを回顧しつつ、
私も手のひら返しをした大衆のひとりなのだな、と身につまされます。
最近の若い人たちも薬物まみれの、スキャンダルまみれの姿しか知らないと思いますが、その才能とキャリア、その知られざる過去をぜひ目撃してほしいと思います。
なぜ彼女がそれほどまでに苦しんだのかを。
何を探していたのかを。
稀代の歌姫の人生を知ってほしいと思います。
皆が望む姿を、自分自身もそう望んでいたんだと錯覚しながら生きていくのはつらいことです。そうなれば、やはりこの世は生きづらいものとなります。
そんな人たちに響くドキュメンタリーになるのではないかな。
ボロボロの中、短い時間でも“神が降りてきた”というレコーディングのアルバムってどれのことだろう。
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