フクとニクの共通点 〜あるいは鉛筆を知らない人に消しゴムの説明をする方法〜
東京で古着屋をやっていると、基本おしゃれなお客さんしか来ません。
東京と言っても渋谷・代官山でしか店頭に立ったことはないのですが、いらっしゃるお客様は皆それなりにファッションやブランドの知識があり、
ほかの古着屋さん・ヴィンテージショップにも行きなれていて、一般的にどういったものがどのくらいの価格で販売されているか知っている方がほとんど。
お店側としては非常にやりやすい環境なのですが、
東京を離れるまでわたしはその有り難さに気付いていませんでした。
2010年にわたしは10年続けた渋谷のお店をクローズして、どこか別の街、それも東京じゃないところで挑戦してみたいと考えました。
そこで目に留まったのが「川越」
観光地としても注目されている埼玉県川越市。
渋谷から電車で1時間弱。
なぜ川越かと言われると、自分でもよくわかんなくて、なんとなくここでお店やってみたらおもしろそうだなって思っただけ。
友達には反対されました。
「渋谷から埼玉に移転とか意味わかんない」
「ふつう逆でしよ。地方から渋谷を目指すならわかるけど」
それでもわたしには自信がありました。
これといった理由もなく、
なんとなくおもしろそうだからやってみたいという自分の感覚に逆らわず、
なやんでいないで飛び込んでみれば今までみたいに上手くいくかなと…まぁ、楽観的なんですかね。
渋谷の店舗の解約予告期間は6ヶ月の契約でしたので、
これまでの経験から次の店舗を探すのに十分な時間があると判断し、とりあえず先に不動産屋さんに解約予告を出して、それから川越の店舗物件を探しはじめました。
あまり早く決まったら家賃を両方払わなければならない期間が長くなって困るな…と心配したくらいなのですが、
これが思いのほか苦戦しました。
苦戦というか…
とにかく空き店舗がぜんぜんない。
店舗物件をさがすのは不動産サイトなどを使うのもよいのですが、
本気なら人力が一番です。
人気エリアの店舗物件は、引く手あまた。
わざわざサイトに掲載しなくても店頭の貼り紙だけの告知や顧客に連絡するだけで決まるので、サイトに掲載されない場合も多いのです。
みつかるまでのあいだは頻繁に川越に通い、街を歩いて「テナント募集」の貼り紙をさがす。
地域の不動産屋さんに顔を出してコミュニケーションをとりながら本気度をアピール。
ようやく見つかり契約できたのは渋谷のお店と入れ違いでなんとかオープンできるくらいの時期でした。
結果は無駄がなく良かったのですが…焦りましたね。
※わたしの経験ではこういうケースは稀です。後ほど解約予告に関しては詳しく記事にする予定です。
この時に川越に出店するという話を、知り合いのアパレルさんのえらいひとに話したら「よしのさんがそう言うならウチも見に行かせてみよ」
って言ったと思ったら本当にその後すぐ川越に3店舗いっきに出店して…
人生楽しんで成功する人は決断も行動もはやい
ですね。
わたしも見習わないといけないなって思いました。
そんなわけで
川越のお店は2010年の5月1日に無事オープンできました。
ここで冒頭のお話しにもどりますが、
商店街立地ということもあり、川越のお客様は渋谷と違って実にいろんなタイプの方が来てくださいました。
これまで渋谷のお店に来てくれてたようなオシャレ層の若者は全体の40%くらい。
年齢は10代から70代までさまざま。
古着屋に入るのもはじめてという方もたくさんいらっしゃいました。
ファッションの知識がほぼゼロの方もかなり多く
「コムデギャルソンも知らない」
というこれまでの人生で接したことのないタイプのお客様を数多く接客させていただき、とても鍛えられました。
これまでお客様はある程度の知識があるという前提で接客できていたのですが、
これは川越では通用しませんでした。
だれでもさいしよは一年生
だれが何を知ってても知らなくてもぜんぜん不思議じゃない。
会話の中からお客様のファッションへの理解度を探り、目線を合わせたわかりやすい説明を心がける。
どんなに基本的なことだと自分は思っていても、
相手がそれを知っている前提で話しを進めない。
これは接客術というより、ふつうの優しさというか
あたりまえのマナーのレベルかもしれません。
鉛筆を知らない人に消しゴムの説明をする、
しかもその人が紙を知っていると決めつけない。
そのように洋服を説明する。
もし、それが出来ないのであれば
わたしは洋服の、ファッションの、いったい何を理解しているというのか?
この自分との戦いのような日々を続けた結果、
せっかくここまで読んでくださった方には申し訳ございませんが
これといったコツは見つかりませんでした。
先に挙げた心構えみたいなものが出来ただけです。
ほかにも大きな発見がひとつ
それは
良い服の良さは、服の知識が無い人にも伝わる
ということ。
わたしはもうどっぷり浸かっているので
正直、良い服をみてもそれほど感動しないんです。
例えば
バランタインのカシミヤセーターを触っても、
あぁ、バランタインのカシミヤだ。
って思うだけ。不感症。
でも、お客様がバランタインのカシミヤセーターを触ると、
某ニクロのカシミヤとはぜんぜんちがう!
って感動するんです。
知識がなくてもちゃんとわかるんですね。
で
「同じカシミヤなのに何でこんなにちがうの?」
と聞かれます。
その質問には
「高級な焼肉店の牛肉と、スーパーの安売りの牛肉のような違いです」
っていつも答えています。
服の知識の無い人は、
コットンはコットン、カシミヤはカシミヤで、同じ原料のものはまったく同じと思っているという方も多いです。
それをお肉に例えるとそれだけで理解してもらえますし、この段階でそれ以上掘り下げた説明はウザいだけです。
洋服屋さんはお客様よりも洋服に詳しくてあたりまえ。
力士と小学生くらい力の差がある場合もあります。
おもいっきりぶつかったらケガをさせてしまいます。
たのしさを伝えるところから信頼関係を築き、
徐々にレベルアップしていくことが大切だと思います。
〜☆
最後まで読んでくださってありがとうございます。
時系列で並べると
この話の前がこちらhttps://note.mu/uguisu_boutique/n/n13adbd16c4c4
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https://note.mu/uguisu_boutique/n/ne9d71bb976bc
〜☆
川越のお店は2017年にクローズしましたが、
わたしはこの街とこの店で多くのことを学び、成長できたと思っています。
また川越でお店やれたらいいなぁ
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