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#59“便利なIoT” 灯油タンクのフタにセンサー…残量可視化 無駄なく配達/ゼロスペック株式会社 多田満朗さん #BOSSTALK(廣岡俊光)

 モノをインターネットをつなぐ「IoT」。この技術を使って北海道民の生活をサポートするスタートアップ企業が注目されています。ゼロスペック株式会社。灯油タンクのフタがわりにつけるだけで、センサーが残量を自動計測し無駄なく配達するシステムを提供する会社です。

 代表取締役社長 多田満朗さんに新規ビジネス発想のコツを聞きました。


■灯油残量の可視化…供給会社にメリット 必要ところに正確なタイミングで

――事業内容を教えてください。

 「GoNOW」というサービスを提供しています。灯油タンクに「スマートオイルセンサー」と呼ばれる機器を設置します。給油口のフタを外し、取り付けるだけ。工事は一切不要なので、誰でも簡単に取り付けることができます。

――「スマートオイルセンサー」でどのようなことが可能になりますか?

 センサーからレーザーが出て、タンクの残量をデータ化します。そのデータをクラウドに飛ばし、灯油の残量を可視化できるという仕組みです。

――残量が可視化されることによるメリットは?

 使っている人というよりは、供給している会社にメリットがあります。以前は残量が分からないまま配送していました。必要なところに正確なタイミングで届けるためにこのサービスをつくりました。

――かなり便利ですね。

 長い間現場を見てきました。配送員が灯油というライフラインを維持していて、業務を少しでも軽減できればと思って開発しました。


■挫折経験…アメリカへ留学

――多田さんの子ども時代は?

 札幌市出身です。小さいころはサッカーをしていました。僕が高校生の時にJリーグができたので、Jリーガーを目標に、一生懸命練習していました。

 なかなか強い学校でしたが、高校3年生の時、学校生活で上手くいかないことがあり、夢を途中であきらめ挫折してしまいました。

 夢を見失って自分が何をするべきか悩んだ時に、アメリカにいる知り合いに「迷っているなら、一度環境を変えるためにも来てみたら?」と言われて留学しました。

――アメリカでの生活はどうでした?

 外から日本を見ることで、日本の良さを知ることができました。アメリカの短大を卒業、新たな目標や夢が見つかり、日本に戻って仕事をしたいと思いが芽生え、帰国し仕事を始めました。


■「常識を疑う」起業の原点

――帰国してからどのような仕事を?

 最初に入社したのは広告代理店でした。ただ入社して1カ月後に民事再生になってしまって、ニトリのグループ会社で働くことになりました。

――業務内容はどういったものに?

 最初の1年は広告代理店のような仕事でした。その後は全く異なる仕事を。海外でモノづくり、輸出、新規事業の立ち上げなど、たくさん経験し、失敗もしましたね。

――ニトリのグループ会社ということで、似鳥会長から直接のアドバイスもありましたか?

 入社した時から「いずれ自分で起業する」と周りにも話していました。似鳥会長とお話するチャンスもあって、その時は「40歳までしっかりとニトリで学んでから起業するのがいいのでは?」とアドバイスをいただきました。

――独立したのはいくつの時でしたか?

 39歳の時です。やりがいをもって仕事に臨んでましたし、自分の人生としても満足していたのですが、今踏み出さないと多分やらない気がして。チャレンジしてみようと思って独立しました。

――この業界を選んだ理由は何がありましたか?

 最初は違うことがやりたかったんです。ニトリでいろいろなプロジェクトに携わった中で、数字をもとに物事を決定していくと正しい結果が出ると、学ばせてもらいました。データを取ることでより良い決断ができ、未来がつくれるのではないかと想像していましたね。

 北海道出身ということもあり、灯油タンクを見た時、どういう形で配送しているのか調べていると、現場の人々が大変そうだったんです。

 灯油残量を可視化して遠隔で見えるようにすれば、配送員がもっと楽になるのではないかと。業務を軽減できれば大きな価値を提供できると思い、事業を始めました。

――ありそうでない発想ですよね。どのような視点で物事を見ていると、気づけるのでしょうか?

 元々、常識を疑う性格でして(笑)。仕事やものを見ながら、もっとこうしたら良くなるではと、普段から疑問を持っています。前職で学んだ文化かもしれません。


■「正月休めるように」「残業が減った」配送員の負担軽減

――そもそも、灯油配送業はどんな課題を抱えていたのでしょうか?

 これまでは「定期配送」が常識でした。十分な量が入っているところにも入れに行っていたんです。

 特に冬場の北海道では灯油タンクが雪に埋まっていることもあるので、配送員が苦労して入れに行っていたんです。

 でもタイミングさえ分かれば、必要なときに行けますし、逆に想定よりも早く減っていた場合も入れに行くことができる。お互いにメリットになると思いました。

――実際に導入されている例はどのくらい?

 北海道だけではありません。33都道府県で導入されています。沖縄や九州でも灯油が使われていて、抱えている課題は共通していました。

――導入先の反応は?

 灯油配送は正月も働いているパターンが多いんです。お正月の帰省もあり消費が一気に増えるので、配送しなければいけないケースもありました。

 一部のお客様からは、お正月がゆっくり休めるようになり、お酒を飲めるようになったと言われたり。効率的になって残業が減ったという声も聞こえてきています。時間という新たな価値を提供できて、喜んでいただけているのではないかと信じています。


■「GoNOW」データに基づき"タイミング"判断

――これからの展望は?

 「GoNOW」は灯油配送以外の領域でも使われています。「GoNOW」は新たな計画自体を自動で生成するシステム。データとお客様の実績をもとに半自動で判断するサービスを、センサーとクラウドサービスの両方を合わせて提供しています。

 自動化は10割ではなく7~8割がいいと考えています。7~8割はデータやシステムを活用し、残りの2~3割は現場の状況にあわせて人間が最終的に判断するべきだと思っています。

 「GoNOW」は造語。行くタイミングをデータに基づいて判断しますよ、というサービスを目指しています。

――開発した技術が未来へどのような影響を与えますか?

 無駄な残業は非常に非効率です。仕事もプライベートも充実させるためには、いかに時間をバランスよく確保するかが重要です。

 やらなくていいことは、やらないという文化が根付いたら、日本社会は良くなっていくのではないかと思います。

――最終的に人間がやるべきこと。何が残ると思いますか?

 灯油で言えば、定期配送は「ラストワンマイル」(客が商品を手にするまでの最後の配送区間)。配送が減った分お客様とのコミュニケーションを増やし、新たなサービスにつながります。

 そういうところに時間を使えれば、別の価値が生まれるのではないかと考えています。


■ 取材後記

 誰もが知っている業界の普遍的な課題を見つけて、それをテクノロジーで解決する。まさにスタートアップのお手本のような起業過程です。

 「GoNOW」の機器を見せてもらうと、灯油タンクのフタに代替される、本当に小さいものでした。しかしそれが、配送業に従事されている皆さんの負担を軽減し、さらには家族と過ごす大切な時間をも作っている、と考えたら。

 小さなセンサーが持つ大きな可能性に、頼もしさを感じずにはいられませんでした。


<これまでの放送>

#58【株式会社フルコミッション】代表取締役 山崎明信さん

#57【有限会社アートライフ】代表取締役 澤知至さん

#56【株式会社 夏目】代表取締役 大坂智樹さん

#55 【株式会社Melever】代表取締役 佐藤麻紀さん

#54 【石屋製菓株式会社】代表取締役社長 石水創さん

#53 【札樽観光株式会社】代表取締役 杉目茂雄さん