りの 様「ライトハウスへようこそ!」の感想

作品URL: https://sutekibungei.com/novels/3ce611cb-6f7d-4fde-bfb6-d1cf80731a29

 この作品に対しては、あまり気の利いた感想を書けないと思います。分析的に読みたくはないけど、好き。そんな作品ですので。
 ちなみに。ネタバレはほとんど無いと思います。連作短編ですので、この感想を読んだ後に本編に飛んでいただいても全然問題ないと思います。

 ただ思ったことをつらつらと語るだけなのも申し訳ないので、少し前に二次創作を書いたんです。この作品に対する愛情を示すならば、これがいちばん分かりやすいかと思いましたので。

 作品本編とは違った角度からライトハウスを描きました。この二次創作を読んで頂ければ分かると思いますが、私はホクトさんが大好きです。(あの人は本来的に裏方なので、この二次創作では表立っては出てこないけれど。裏で活躍してもらったのだ)
 二次創作を書いたのは初めてですが、私の中では全く違和感なく書けました。この「ライトハウスへようこそ!」の3人は、すごくキャラが立っていて、私の中で完全に生きている人間になったので。
(二次創作の中のカノンさんとホクトさんに違和感があるか、本人に聞いてみたいところではあります)
 そういうキャラクターを書けるのって凄い。というのが、この作品を読んでいちばん強烈に感じたところです。

 以下につらつらと、読んで思ったことを書きます。

【3人のキャラクター】
 この3人が私の中で完全に生きた人間になった理由って、「強いところ、弱いところ、ダメなところ、好きなもの」それらすべてがリアルに描写されているから。
 外観をなぞっただけ、のようなキャラクターは誰でも書けるけれど。一般的な小説だと、ホクトさんもミナミさんも強さ側にフォーカスが当たってしまいがちなんですよね。「こういうキャラクターは、こうでなくてはいけない」という思い込みが、キャラクターから個性を奪ってしまいがちなのです。
 私は、多数側or少数側に関わらず、カテゴライズすること・されることがあまり好きではないのですが。こういう、ともすれば変にカテゴライズされがちなキャラクターを、生きている人間として、奥行きを持って描くことが出来るのは完全に作者様の強みだと思います。それは、世界を、あるがままに受け止めることが出来る力。これってけっこう大変なことだと思います。

【あなたを導く光でともす】
 私はこの作品を、角川つばさ文庫みたいなレーベルで出してほしいと思いながら読んでいました。小学校中学年から中学生くらいまでに読んでもらいたい。
 これは児童文学ではなくてヤングアダルト向けなんですよね。
 そのいちばんの理由は、先ほども書いたように「人は完全ではないよ」ということ。親のような絶対的な存在がいて、そこに着いていけば守ってくれる。絶対に間違わない。って、世界はそんなんじゃないよね。
 ということが描写されているんです。
 結局、最後はあなた次第。ラジオに出来るのはパーソナリティの目から見たアドバイスだけ。あとはあなた次第で、人生はいかようにでも変えられる。良い方向に向かうことが出来る。
 っていうのが、この作品のメインテーマだと私は思いました。

 だけど。決してそれは、突き放しているわけではなくて。
 リスナーの人生にはある程度以上関われないし、その人の大変さも本当の意味では自分には見えない。分からない。ってことを知っているからこその、真摯な態度であると思うんですよね。
 だからこそ、出来る限りリスナーの心に寄り添って、自分の目線で、リスナーに進んでほしい道を指し示す。
 灯台の灯りは、自分の肩をかすめて、行くべき場所を明るく照らし出す。その時に照らされるのはゴールだけじゃない。自分自身の今の姿も。
 それは、ゴールを示すことが目的の地図には出来ないこと。進む先を照らす懐中電灯には出来ないこと。

 道に迷った人が必要としてるのって、実はゴールを照らしてもらうことじゃないんですよね。そもそも、灯台が照らす範囲ってどんなに頑張っても40kmそこそこ。遠くを目指す船のゴールを照らすことなんて無理な話で。
 必要なのは、寄り添って自分の話を聞いてもらうことであり、そのことで自分の立ち位置を見つめなおすことであり。動けなくなった自分を再び歩かせてくれる存在なんですよね。
 だから、究極的にはアドバイスなんていらなくて。寄り添ってくれさえすれば良い。
 カノンさんがやってるのってそういうことだから、こういうラジオであればお悩み投稿したいなーと思いました。投稿できるお悩みがあるかは別問題だけど。


【ラジオという媒体】
 私はラジオという媒体が好きです。
 誰しもがパーソナリティのもとに、ゆるく集っている。真面目な話をする人もいれば、ネタ投稿ばかりする人もいる。初見も常連もお久しぶりの人も、全てが同じように、何も臆することなく集まっている。それはSNS全盛の時代には無いコミュニケーションの形。
 最近ではVTuberの配信がかなり近いところにいると思いますが、それもやはり、人間関係の濃度が高くなりがちであり、断絶を超えるには相当のパワーを要すると思うわけです。配信側も視聴者側もね。

 ラジオが他の媒体と比べて優れている点は、コミュニケーションが双方向であること。何かアクションをすれば時々何かが返ってくる。時には、この作品のお悩み相談のように、パーソナリティが時間をかけてしっかりと向き合ってくれたりもする。自分はコンテンツの一部となり、だからこそ、番組に対する帰属意識が出来る。
 でも聴取者は多いから、離れたり別の場所に行ったりする。ゆるいつながりとはそういった意味。
 そもそもラジオとは、スキマ時間の穴埋めという立ち位置を絶対に超えられないものではある。通勤・通学の間、夕飯を作っている間、勉強で疲れたときの気分転換。だからこそ、「いてくれたら嬉しいけれど、いなくなるならお元気で」が成立するわけで。そのゆるさが魅力でもある。

 この作品に話を戻すと、「ラジオ」というメディアを使っていることの魅力はそのゆるさにあると思っていて。
 相談者は道を見つけて灯台から離れていく。でもそれは当然のことであり、パーソナリティたちはそれを見送ることが最初から定められたメディアであること。
 パーソナリティは本気で相談者に寄り添って、行く末を案じているけれど。別に返事をする必要なんて無いし、アドバイスに従うも従わないもすべて自分の意思に任されていること(その後どうなったかを教えてくれると嬉しい、とカノンさんは言っているけれど)。
 そして、何よりもスタッフの人たちがそのゆるさを体現していること。

 お悩みに対して道を照らす。そんなコンセプトではあるけれど。「何かをするべきである、何かであるべきである」とは誰も言わない。パーソナリティもスタッフも、ラジオという媒体も、作者様の姿勢も。
 そんな自由で明るい空気が、この作品のいちばんの魅力なのかもしれません。

 この作品の中で、そのメッセージがいちばん分かりやすい形で出ているのが29、バレンタインの話ですね。
 相手が誰でも、気持ちだけは伝えればいいでしょう。ということ。
 結局、自分がやりたいことをやりたいようにやるのが一番。ただし、後悔のないように。
 私も、それが良い生き方だと思います。

【3人のキャラクターの魅力】
 ここまで書いたうえで、もう一度、3人のキャラクターの魅力について。

 ・ミナミさん
 3人の中でいちばん大人そうに見える……というか、いちばん真面目な人ではある。ディレクターという立場もあって、番組を実質的に回しているのはこの人だし、任せておけば多分大丈夫という安心感もある。
 けれど、真面目さが変な方向にいくこともあるのは……まぁそういうこともあるよね、と。
 優先順位のいちばんは番組ではなく、お気に入りのホストであり、男子との出会いであり。そのためにそれっぽい理由で番組を私物化するのは。まぁディレクターなら許されますね。うん。
 あと、じつは夫婦漫才はミナミさんがいらんことを言って始まるパターンが多いので。世話焼きは時と場所を選ばないと酷いことになる、という好例でもあります。

 ・ホクトさん
 いつも寝てる人。って思うと、表紙画像のホクトさんもどことなく眠たそうに見えてくる不思議。
 寝てるように見えて番組の内容はしっかり全部聞いてるし、デリカシーが無さそうに見えてカノンさんへの助言は的を射ているし。基本的には凄く出来る人ではある。多分、3人の中でいちばん物事を深く考えて、その上で必 要な行動がとれるのはこの人。必要な時だけはしっかりと動くのだ……。
 多分、眠いのは毎日実務に忙殺されているからなのでしょう。お偉いさんが来ると、(実態はどうあれ)ホクトさんと話しているくらいだから。信頼はあるはず。多分。きっと。
 自分への好意には気づかないというのも。多分、自分に無頓着だからなんでしょうね。服とか選んでもらってるくらいだし。

 ・カノンさん
 3人の中でいちばんの下っ端。年下だし。そもそもプロデューサーとディレクターに挟まれるとか辛すぎる立場。
 ゲストからのお悩み相談に一人で真っ向から立ち向かうというとても難しい立場。まだ人生経験もそこまで多くないし、お悩み相談のベテランというわけでもない。けれど、だからこそ必死でリスナーに必要なアドバイスを与えようとする意識が凄いと思うわけです。
 究極的にはアドバイスなんてどうでも良くて、リスナー的にはそれよりも「自分の言葉を聞いてくれる人がいる」「自分の立場で物事を見てくれる人がいる」「自分のために必死で誰かが考えてくれている」この心強さのほうが大事なわけで。全力でそれをやろうとしているカノンさんは、お悩み相談の相手としてはこれ以上ない存在。
 自分を照らしてくれる、暗い海を照らしてくれる。そういった意味合いで、カノンさんはまさにリスナーにとってのライトハウス。
 思い通りにいかなかった時期があって、人の痛みが分かるからこそ。そんな人になれたのかもしれませんね。カノンさんの姿勢、私は大好き。


【最後に】
 取り留めのない感想になってしまいましたが。
 私はこの話、とても好きです。自由で、明るくて、誰もが他の誰かに対して良くあろうとしていて。
 特に、悩みながらも必死で道を示そうとしつづけるカノンさんの優しさと力強さは、読んだ人に勇気をくれると思います。
 カノンさんに相談すればきっとどうにかなる。そんな安心感もあるし。
 
 この3人は、誰が欠けても上手くいかない。そんなバランスで成り立っています。そういう意味合いでは、3人ともが他の二人にとってのライトハウス。全員の力があって、初めてラジオ番組は成立する。
 だから。
 もしかすると、誰もが他の誰かのライトハウスであるのかもしれない。
 そう思わせてくれる、優しい作品でした。

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