見出し画像

快楽泥棒

快楽泥棒(ハリエット・ダイムラー / ヘンリー・クラナック著)

読書感想文

これは富士見ロマン文庫という、1970年代に、いわゆるポルノ小説ばかり出していたところから出ているんですが、この富士見ロマン文庫は、普通の男女がセックスをしているだけのポルノもあれば、とても文学的なポルノ、ビクトリア朝時代の風俗がありありと書かれたものや、果ては人種差別に大いに言及しているものもあり、そのセレクションが多岐に渡り、内容もとても濃いものが多いので、ポルノとはいえ、いつも読んでいてそれ以上の楽しみがあります。そして、なかには内容的にかなりぶっ飛んだポルノもあり、今回読んだこの快楽泥棒も、この濃いめの小説ということになります。

タイトル「快楽泥棒」は、原題「The Pleasure Thieves」と富士見ロマン文庫にしては珍しく原題の直訳で、内容も泥棒の話という、この辺は騙しのない感じです。ただ、表紙には女性二人が描かれていますが、そういったシーンは出てきません。内容はハードボイルドタッチのサスペンスで、あとがきによると、もともとは映画のシナリオとして書き始められたということで、アクション映画的な要素もところどころに出てきます。富士見ロマン文庫は、残念ながら今は絶版ですが、当時はよく売れたらしく、いまでも入手はとても簡単で、ヤフオクやアマゾンの中古で簡単に買うことができます。

「今ではハリーがカントになることもできる。まったく同じように。さかさまにしても同じの、あの漫画の顔。ヒゲが髪の毛になったり、あごが禿頭になったりするあの顔と同じだ。二人の男が、前になったり、後ろになったり、入れたり、出したり。」

さて、この快楽泥棒、なにがそんなにぶっ飛んでいるかというと、小説開始早々、監獄での濃厚なホモシーンから始まります。富士見ロマン文庫自体は至って普通のストレートなポルノ文庫なので、始まりからホモシーンというだけでかなり異例だと思うんですが、このホモシーン、えんえん1章かけてやります。まあ、このポルノがホモ・ポルノであれば特に問題もないと思うんですが、ここからいろいろおかしな方向に進んでいきます。

「電話の相手はキャロル・スタダートだ。彼女は、モダンで不安定な椅子に背をもたせかけている。『Femme』の編集長。想像力の乏しい国じゅうの女性たちに夢をつくってあげる仕事だ。毎月女性たちにささやかな叛乱を呼びかける。『この季節、思い切ってピンク色に』『夜はフォーマル感覚の時』」

この小説の登場人物は主に三人。キャロルは女性ファッション誌の編集長。ハリーは宝石に取りつかれた若い天才的な金庫破り師、フィリップは中年の芸術家肌の泥棒で、キャロルの父。冒頭のホモシーンはハリーとフィリップ。と、ここまで書くと大体わかるかと思いますが、このあと話は流れに流れて、近親相姦+ホモ入り3Pへと突入します。

「良カッタノカ、悪カッタノカ。彼は考える。女中ガ木曜日ニ暇ヲトッタノハ。腹立ちまぎれにだれかを殺すか強姦したくなっていたのだ。(中略)彼は床の上のものに一応目を通した。腕を暖房機に置いて体を支えた。何気なく腕を離し、すぐにまた何か所かに手をふれた。冷たかった。暖房機の裏側に手を入れて、黒いスチールの金庫をとりだした。」

この小説はポルノなので、要所要所でセックスするわけですが、当然その間ストーリーも進むわけで、ハリーとフィリップは監獄から出所後、またいろんな所で宝石泥棒を始めます。この宝石泥棒の描写がなかなかスリリングです。いろんな大金持ちの家にいろんな方法で入り込み、キャロルも女性誌編集長という立場を利用して、この泥棒のお手伝いをします。狙っている宝石の隠し場所や盗み方もなかなか凝っていて、そこは読んでいて楽しい所です。

最終的に、大きな仕事をいくつかこなして、引退したがるフィリップ、まだまだ宝石を盗み足りないハリー、そしてハリーに恋をするキャロル。という関係図のなか、フィリップの制止を聞かずに、キャロルを措いて、ハリーは危険だといわれている大物の宝石を盗みに行きます。そんなハリーの安全を願いながら、フィリップとキャロルが親娘でセックスをする。みたいなところで小説が終わります。

この小説は、プロットもしっかりしており、富士見ロマン文庫ではかなり読みやすい方に入ります。なにしろポルノなので、ものによっては、ずっとセックスしかしてないものや、ずっと鞭しか打ってないものもあるので、そういったものに比べるとこちらの方がストーリー性に富み、ドラマチックです。まあ、親娘セックスが多かったり、ホモセックスがあったり、それ二つがくっついたりと、あまり普通のポルノとしてはどぎつ過ぎるところもありますが。人物描写も素晴らしく、何かに取りつかれたように宝石泥棒をするハリーや、最後の大仕事の前に、フィリップに内緒でハリーを手助けするキャロルのいじらしさなども面白く、読み応え十分です。ただ、あとがきにあるようにセックスを無くしても楽しめる作品かと言えば、それはちょっとよくわかりません。この異常なセックス観が作品を支配しているといえばしているので、それがあってのこの作品という気がします。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?