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「日本語教育の推進に関する法律案」について

日本語教育推進議員連盟総会による議決

昨日(2018年12月3日),「日本語教育推進議員連盟」の第11回総会が開かれ,「日本語教育の推進に関する法律案(イメージ)概要」と「日本語教育の推進に関する法律要綱案」「日本語教育の推進に関する法律案」について,議連の総意として議決されました。以後は議連の中川会長代行に一任するということが合意され,今後は各党の党内調整を経て,年明けの通常国会で成立を目指して動くことになりました。

 総会では,役員のあいさつに続き,衆議院法制局から法律案の概要および法律要綱案について説明がなされました。法律の名前について,当初から,ずっと「日本語教育推進基本法(仮称)」として進んできましたが,最終的には「日本語教育の推進に関する法律」に落ち着くことになりそうです。

 前回,第10回総会(2018年5月29日)で提示された,「日本語教育推進基本法(仮称)政策要綱(以下「前回政策要綱」とします)」から,いくつかの変更,修正を経て,今回「日本語教育の推進に関する法律案(以下「今回法律案」とします)が議論されました。以下では,前回政策要綱と今回法律案を比較する形で,5つのポイントについて見ていきたいと思います。

具体的な変更ポイント

 1つ目は,国内の日本語教育の実施に関して,「外国人」の視点がより強調されたことです。また,環境整備という具体的な言葉を入れたこともポイントと言えるでしょう。

前回政策要綱:我が国に居住する外国人との共生を通じて多様な文化を尊重した活力ある共生社会の実現に資する
今回法律案(第一条 目的 の一部):我が国に居住する外国人が日常生活および社会生活を国民と共に円滑に営むことができる環境の整備に資する

 2つ目は,全体的な表現として,より踏み込んだものになったということです。例えば,前回と今回の「基本理念」の冒頭部分を比較してみましょう。

前回政策要綱:日本語教育の推進は,日本語教育を受けることを希望する全ての者に対し,その需要と能力に応じた日本語教育を受ける機会が確保されるよう行わなければならないこと
今回法律案(第三条 基本理念 1):日本語教育の推進は,日本語教育を受けることを希望する外国人等に対し,その希望,置かれている状況及び能力に応じた日本語教育を受ける機会が最大限に確保されるよう行わなければならない。

 3つ目は,年少者に対する支援では,日本語のみならず母語に配慮して行う必要性を明記したことです。これは,前回の政策要綱には入っておらず,今回の法律案で初めて盛り込まれたものです。

今回法律案(第三条 基本理念 7):日本語教育の推進は,わが国に居住する幼児期及び学齢期(満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから満十五歳に達した日の属する学年の終わりまでの期間をいう。)にある外国人等の家庭における教育等において使用される言語の重要性に配慮して行わなければならない。

 4つ目は,国,地方公共団体,事業主の責務が明記される中で,特に事業主の責務について,家族の支援も盛り込まれたことです。

前回政策要綱:外国人等を雇用する事業主は,国が実施する日本語教育の推進に関する施策に協力するとともに,その雇用する外国人等の日本語学習に対する支援に努めるものとする。
今回法律案(第六条 事業主の責務):外国人等を雇用する事業主は,基本理念にのっとり,国又は地方公共団体が実施する日本語教育の推進に関する施策に協力するとともに,その雇用する外国人等及びその家族に対する日本語学習の機会の提供その他の日本語学習に対する支援に努めるものとする。

 5つ目は,海外在住の日本にルーツのある子どもたちに対する継承語教育への言及がなされたことです。これも,前回政策要綱には盛り込まれていないものです。

今回法律案(第十九条 海外に在留する邦人の子等に対する日本語教育):国は,海外に在留する邦人の子,海外に移住した邦人の子孫等に対する日本語教育の充実を図るため,これらの者に対する日本語教育を支援する体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとすること。

政治の責任と市民の責任

 本来,外国人受け入れに関する法律は,「移民法」「多文化共生推進基本法」のような包括的なものを整備した上で,個別の法律を作るべきです。これは,議連設立時から何度も言われていることですが,実現していません。今回の,入管法改正による外国人の受け入れに関しても,基本的な方針が定まらないまま進んでいます。日本語教育に関する基本的な法律ができることは,日本語教育的には一歩前進かもしれませんが,より大きな枠組みの議論が必要です。政治の責任として,せめて,この法律を早期に成立させるべきでしょう。また,後追いになったとしても,外国人の受け入れと社会統合を目指した包括的な法律の整備を行わなければなりません。

 一方で,私たちは市民としての責任をしっかり果たしていかなければならないでしょう。一連の議論を通して,日本語教育関係者からは,法律の制定を待ち望む声が多く聞かれました。しかしながら,法律ができたら何ができるのか,私たちは法律ができた後に何をするのか,十分な議論が行われているとは思えません。

 今回の法律案作成の議論が進む中で印象的なエピソードがありますので,最後に紹介したいと思います。2018年5月末の「政策要綱」発表からしばらく経った夏ごろ,海外在住の日本語教育関係者によって,海外に在住する日本ルーツの子どもたちの継承語教育について,法律に明記すべきだという働きかけがはじまりました。政策要綱が発表され,ほぼ中身が固まった後の,いわば「まさかのタイミング」での動きであり,俗な言い方をすると「空気を読めてない動き」のようにも映りました。しかし,関係者の粘り強い,そして積極的な取り組みによって,上記のポイント5つ目に記したように,この要望は第十九条として法律に盛り込まれることとなりました。

 今回の総会における質疑応答の流れの中で,馳議員がこのことに触れました。海外の方のお手紙から私たちは継承語教育の状況を知ることができ,十九条として法律案に盛り込むことができました,と言っていました。馳議員にとっても,それほどに印象的なことだったのだと思います。

 情熱を持って動けば変わるし,変える主体は私たちであること。そして,政治を開かれたものにするのは私たち自身であるということを,私自身が強く再認識したエピソードです。

 日本語教育に携わる私たちは,法律をどう活用し,よりよい社会を作っていけるのでしょうか。私たち自身が主体となって,何をどのように進めていくのか,問われているところだと思います。


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