見出し画像

【108】ウィーンフィルの3つの名演 ワーグナー、ブルックナー、フランク 2023.1.30

【103】【105】【107】の記事で1975,1977年の来日コンサートでのベームさんが素晴らしかったことを語りましたが、書いているうちにこんどはパートナーのウィーンフィルのすごさについて語ってみたくなりました。
 
1 世界最高のオーケストラ:ウィーフィルハーモニ

 世界には星の数ほどのオーケストラがあるわけですが、その中で「最高のオーケストラはどこか?」と訊いたなら多分ウィーンフィルがベルリンフィルと肩を並べて最上位にランクされるのではないでしょうか。 
 わたしがウィーンフィルのすごさを体感したのは【103】【105】【107】で取り上げたベームさんの1975,1977年の来日コンサートの放映に接した時でした。本当になんて伸びやかな豊かで音楽的な響きを出すのだろうと感動し、なぜこんな演奏ができるのか不思議にさえも思いました。
 今回ウィーンフィルがどんな楽団かについて少し調べてみて出会った下の記事を読んでウィーンフィルの力の源泉について一端を知ることができました。素晴らしい記事に感謝しています。よかったら参照してみてください。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の魅力【伝統と革新のオーケストラ】 | otomamire

 この記事に書かれているように、ウィーンフィルは楽団員が自主運営している団体であり、他のオーケストラでは常任指揮者を選定しその人が楽団を鍛え上げていくという形をとるのが普通ですが、ウィーンは常任指揮者を置かず、年間のコンサートをどのようなスケジュールで行い、どの指揮者を呼び、どのような曲を取り上げるかなどすべてを楽団員の話し合いで決めているそうなのです。
 その結果、楽団員の方が指揮者よりも立場が上になっているのです。
 ウィーンフィルに呼ばれることは指揮者にとって一流を認められたという証になり大変な名誉とキャリアになるのですが、しかし指揮者にとっては呼ばれてからが大変で、ウィーンフィルは指揮者の指示が納得いかなければいうことを聞きません。自分たちの方がその音楽をよく知っていると見透かされたなら、楽団はその指揮者の指示など無視して自分たちだけでそれなりに素晴らしい演奏をしてしまうのです。ウィーンフィルを指揮するのはとても怖いと述懐する指揮者があるというくらいなのです。   

2 ウィンーフィルが認めた指揮者
 そんな自発性を重んじ指揮者にとって難しいところもあるウィーンフィルは常に名演というわけではなく、平均点でいったらベルリンフィルなどより下位に置かれるのかもしれません。しかしウィーンが心から尊敬できる指揮者と出会ったときの本気の演奏はすごく、こうした時のウィーンは頭一つ抜けた世界一になると思っています。
 カール・ベームとの来日公演は、そんな最高の演奏の一つだったと思います。
 ウィーンフィルが功績を認めた表彰した指揮者が数名います。
  名誉指揮者:ベーム、カラヤン
  名誉団員:バーンスタイン、ムーティ、小澤征爾
 ベームさんは指揮した回数も最も多く、別格で敬愛されていたことがうかがえます。
 もう少し古い時代に遡れば、フルトヴェングラー、ワルター、クナッパーツブッシュ、シューリヒトさんなどもウィーンが認めた指揮者であったのだろうと推察します。

3 ウィーンフィルの名演
 そんなウィーンフィルの演奏で私の心に深く刻まれた名演を3つ紹介しようと思います。

 3.1 ワーグナー ジークフリートの葬送行進曲 ハンス・クナッパーツブッシュ 1957

 ワーグナーの楽劇「神々の黄昏」で英雄ジークフリートが騙され裏切られて殺される場面で演奏される曲ですが、なんの予備知識がなくても、この一曲を聴くだけでもワーグナーのスペシャリストと言われたクナッパーツブッシュの実力そして全力を出して応えたときのウィーンフィルのすごさがわかる名演だと思います。
 この曲のクライマックスで奏される金管の音色が他の楽団と異なり剝きつけの金属音ではなく木管に近い霧のかかったような柔らかい音であることが不思議でしたが、ウィーンフィルが、ウィンナ・ホルン、ウィンナ・オーボエ、ウィンナ・トランペット といった独特の楽器を用いているということを今回知って謎の一旦を少し理解した気がしています。
 ウィーンフィルの最強奏からさらに何の苦も無く吹き上がるゆとりというのも驚異的で他のオケには有りえないものだと思います。

3.2 ブルックナー交響曲第9番 レナード・バーンスタイン 1990 
 最初に第一楽章の終結部の聴き比べの動画を見ていただきましょう。

 最初がアバード/ウィーン2001、2番目がカラヤン/ウィーン1978、3番目がバーンスタイン/ウィーン1990 です。
 投稿者の方がいずれもウィーンフィルの演奏を選んでいることが面白く、
また、  
 Which performance do you prefer?
  My opinion is:
   Abbado : Good
   Karajan : Very good
   Bernstein: Excellent
と書かれているのが私と同意見で面白いなと感じました。
(注)ケリーさんからコメントでご指摘いただいたのですが、アバードさんの演奏はベルリンフィルでした。有難く修正させていただきます。
 半世紀以上前、私がクラシックにはまるきっかけとなったのがブルックナーの交響曲第9番であり、特にこの全世界が崩れ落ちるような壮絶な第一楽章終結部だったのですが、この3人の中ではバーンスタインの演奏が最も心を揺さぶりウィーンの本気を引き出しているように思います。
 バーンスタインはマーラー指揮者という感覚があり、ブルックナーについては他に6番を残しているのみなのです。3,4,5,7,8番などをどう振ったか聴けなかったのが残念でなりません。
 バーンスタインの全曲のリンクを載せます。1時間6分にのぼる大曲ですが、ぜひ聞いてみてください。

3.3 フランク交響曲ニ短調 ウィルヘルム・フルトヴェングラー 1945.1.29

 この演奏を聴いたら多くの人がベルリンフィルだと思い、ウィーンフィルだと聞いたら「ええっ本当?」と驚くのではないでしょうか。
 ウィーンフィルをここまで引き回すことができる指揮者はフルトヴェングラー以外にはいないでしょうし、手兵ベルリンフィル以外でフルトヴェングラーのこの荒れ狂う指揮についてゆけるのはウィーンフィル位でその力は流石だと思います。
 さらにこの演奏会の日付に注目してください。1945年1月29日、第2次大戦末期、すでにドイツの敗戦は誰からも隠し切れない情勢の中、ユダヤの音楽家を擁護するなどナチスに逆らったことが目に余り、当局に疎まれ、ゲシュタポに命を狙われるに至っていたフルトヴェングラーはウィーンで開かれたこの演奏会の後ベルリンの自宅には戻らず、スイスに決死の亡命をするのです。つまりこの演奏会は戦時下のフルトヴェングラーの最後の演奏会になるのです。
 このような緊迫した状況下でフルトヴェングラーがどのような思いでこの曲の指揮をしていたのか、その胸の内に思いを馳せると、聴いていて粛然とした想いにならずにいられません。

4 終わりに
 ウィーンフィルの名演について紹介しました。クラシック作品について書き始めると、次から次と書きたいことが出てきて収集がつかなくなり中々記事にまとまりません。
 この3曲の演奏についてはまたいつか別稿で深堀りしていきたいと思っています。
 感想などをコメントしていただけたら嬉しく思います。
  


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?