見出し画像

あんときのデジカメ 麦の穂をゆらす風 with SANYO Xacti DMX-CG10

(はじめに)気がつけば麦の穂をゆらす風が心地よい季節になりました。カメラといえば四角い決まった形で表象されますが、デジタルカメラには様々なカタチがあります。今回はガングリップタイプのSANYO Xacti DMX-CG10で麦の穂をスケッチしてみました。

なくしたものを探していたら、実は目の前にあった

偶然よ、偶然、なくしたものを探していたら、実は目の前にあった、ということがあるでしょ、それと同じよ。
(出典)監督・小津安二郎『麦秋』制作・松竹、1951年。

学生時代、ドイツ文学科に在学していました。大好きだった講座が「ドイツ文学特殊研究」(だったと思います)です。ただひたすら映画を鑑賞しながら、「近代」という時代の虚構を考えていこうというもので、まあ、昔の大学というのは実に鷹揚だったなあと思います。1990年代前半のことです。筆者は、その10年後、非常勤ですが大学の教員になりましたが、それ以降、そういう「余裕」というものがなくなり、すべてが特定の目的のために設定されてしまうカッチカチの、学問とはほど遠い「勉強」へと変貌したことに驚愕しましたが、「昔はよかった」という単純な話ではありません。余裕のないところには文化もヘッタクレもないというのが事実ではないでしょうか

さて、その講座で出合ったのが、日本を代表する映画監督・小津安二郎、その人です。小津作品のなかでも筆者が大好きなのが1951年に制作された『麦秋』です。男やもめに嫁ぐことを決意する原節子の言葉が冒頭の引用になります。

小津安二郎をリスペクトしながら、麦秋には少々早いのですが、近所のそれを、2009年発売のムービーデジカメXacti DMX-CG10でスケッチしてみました。

白物家電メーカーのピストルスタイル

さて、Xactiです。製造はSANYO、「三洋電機」といったほうが馴染み深い白物家電メーカーです。デジカメ黎明期にはニコンにもCCDを提供しており、並々ならぬノウハウを持っておりました。ただ、経営悪化の末、2011年に暖簾分けされる前の松下電器産業の完全子会社になっちゃいました。先だって、富士フイルムのデジカメの記事の折、国産フィルム製造メーカーで唯一残っているのが富士フイルムというお話をしましたが、シャープが買収されたりする現在、結局は、日本の製造業とは一体、何だったのだろうかとも思ったりします。5月に改元なんかもありましたが、「日本すごい」の虚構を感じるのは筆者だけではないのだろうと推察しております。

ちょっと横道にずれましたが戻りましょう。SANYOの「Xacti(ザクティ)」です。「小型軽量コンパクト」「静止画と動画を1台で」「パソコンとの親和性の高い動画」がコンセプト。デジカメにも非ず、デジタルビデオにも非ず、その両方のいいとこ取りという意味で「ムービーデジカメ」などとも呼ばれましたが、シリーズ終盤期のXacti DMX-CG10なかなかどうしてです。

慣れてしまえば素晴らしいデジカメ

では、仕様について、簡単におさらい。撮像素子は1/2.33型約1,066万画素CMOSセンサーで、有効画素数は720p動画が約828万画素、静止画が約1,000万画素。画像処理エンジンは「プラチナΣ-IIエンジン」を搭載、レンズは35mmフィルムカメラ換算で38mm-190mmの5倍ズームレンズの搭載になります。当時既に広角端は28mmがほぼ標準化した時代で、この時期に38mmで広角かよ!ってツッコミを入れそうになりますが、動画撮影にアジャストしているからでしょうか、非常に広角ではない広角端になっております。まあ、使い慣れれば使いにくいわけでもありません。広角端がワイドではないことがマイナスとすれば、プラスになるのは望遠端でのレンズの明るさ。広角38mm端で開放f3.5と暗めですが、5倍ズーム190mmの望遠端ではf3.7とほぼ変わらぬ値で、容易に望遠端でボケを活かすことができ、これが非常に便利です。

発売当時から指摘されていたのが、動作感の「スローミー」さ。「これが2009年のデジカメかよ!」ってこれまたツッコミを入れそうになるぐらい動作がトロく、シャッターを押してからシャッターが切れるまでのタイムラグの凄まじさといったら、「2001年のデジカメでもこのXactiよりましなカメラがあるんじゃないの?」ってさらにツッコミを入れそうになります。ただ「慣れ」とは恐ろしいもので、そのシャッターラグや広角でない広角端に慣れてしまうと、ピストルスタイルのボディと相まって、意外にもブレにも強いですね。

 さて、拙い写真ばかりですが、讃岐の「麦の穂をゆらす風」をお楽しみくださればと思います。

ということで撮影データ。ISO100、プログラム撮影、ホワイトバランスオート、画像は12Mで保存。撮影は2019年5月1日~7日。

氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。