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あんときのデジカメ 讃岐の実る田、あるいは讃岐でミノルタ with MINOLTA DiMAGE X

(はじめに)「実るほどこうべを垂れる稲穂かな」という有名な俳句の季節になりました。かつてカメラメーカーとして時代を築いたミノルタ(実る田)で讃岐の稲穂をスケッチしてみましたが、その旅は「兵どもが夢の跡」のようなちょっと感傷的なものになりました。


人里こそ都

 松尾芭蕉の俳句に次のようなものがあります。

里人は稲に歌詠む都かな

 江戸時代中期の俳人・松尾芭蕉の俳諧紀行のひとつが「笈の小文」です。宝永6年ですから1709年に刊行されたもので、江戸を出発して鳴海(現在の愛知県名古屋市緑区あたり)を経て、郷里へ赴き、畿内を経巡る中で、自身の半生を回顧しながら、風雅観や紀行観を述べた作品です。芭蕉俳諧では欠かすことの出来ない重要な作品として知られる俳諧集といってもよいでしょう。

 牡丹や蓮は、都の風流人が詩によむ対象ですが、稲が彼らに顧みられることはほとんどありません。しかし、芭蕉は稲に注視します。

 なぜなら、稲は、高貴な蓮と同じように泥から這い出してきて……いわゆる「法華経」で説かれる「如蓮華在水」ですね……清き姿を顕にします。そしてその姿そのものが富をもたらします稲とは、私たちの食べ物に過ぎない、詩う対象「以下」のものかもしれません。しかし、そのありきたりの日常の暮らしの中にこそ、素晴らしいものが存在すると芭蕉の注目は、私たちに教えているのかも知れません。

 稲という「一物二草」である稲を丹精に育てる里のお百姓さんとは、芭蕉にとっては、まさに稲を題材として詠む歌人となります。その意味では人里こそ「都」なのだと。芭蕉に暮らしに対する注視は、私たちの物事に対する考え方を180度転回するものです。

 これをカントの言う「コペルニクス的転回」にならって「芭蕉的転回」といってもよいかも知れません。

「実る田」としてのミノルタ(MINOLTA)

 芭蕉のお話をしましたので俳句をもうひとつ。

 実るほどこうべを垂れる稲穂かな

 いわゆる「読み人知らず」の一句で、俳句の味わいよりも、その教訓的価値で重宝されている「訓戒」のひとつです。稲が実っている状態をどのように解釈すればよいでしょうか? ピンと立っている稲には中身が薄く、中身が熟した稲ほど実の重みで頭がさがります。そこから、知識や徳を積んだ人間ほど謙虚な人間になることを喩えたものとされています。

 まあ、それはまさにそうですが、そこからヒントを得て、商標にしてしまったのが、実は老舗カメラメーカーのミノルタ(MINOLTA)です。

 「実る田」=「ミノルタ」って話ですね。

 ネーミングって実は、単純な思いつき、あるいは閃きで決着することがよくあります

 例えば、現在でも精力的に光学市場をリードするメーカーのひとつがキヤノン(Canon)ですが、このネーミングは、「観音様の御慈悲にあやかり世界で最高のカメラを創る夢を実現したい、との願いを込めたもの」として由来しています。

讃岐の実る田、あるいは讃岐でミノルタ

 さて、今回、讃岐の実る田をスケッチするに利用したのは2002年3月発売のミノルタ製200万画素コンパクトデジタルカメラ DiMAGE X です。前回の「あんときのデジカメ」で使用したnikonのCOOLPIX2500と同時期のカメラになります。

発売時のフレコミは、“屈曲光学系の内蔵型ズームレンズを搭載した、当時の世界最小・最軽量・最薄のボディ”ですが「ダテ」ではありませんね。COOLPIX2500と比べてみてもコンパクトで(総重量156g、薄さ20mmは現在でも「すごい」)、とにかく起動のほか、シャッターチャージも早く、大袈裟な言い方ですが、現在でも実用の範囲です(とはいえ、液晶は小さいですけどね)。

 では、簡単にスペックを紹介します。撮像素子は196万画素CCD、3倍ズームのMINOLTA LENS(ロッコールじゃないんですよね)は35mmフィルムカメラ換算で37-111mm、マクロモードがなく、最短撮影距離が25cmというのがちょっとつらいところでしょうか。

 軽快に撮影できる分、先に言及したCOOLPIX2500的なスローミーがないのですが、画質が時々「ちょっとやばくね」的なところはあるのですが、そこはニコンとミノルタのマーケットの違い、そして当時の技術的限界と理解してもよいかも知れません。

 しかし、その「差し引き」を勘案しても、軽快によく写るなーという印象批判です。

 2002年といえば、デジカメ黎明期といってもよいかと思いますが、「善戦」している「秀作」といってよいのではないでしょうか?

 ちなみにミノルタは2003年にコニカと統合し、2006年にカメラ事業から撤退しました。なお、この撤退時に「αマウントシステム」がソニーへ譲渡されています。

 なんだか「兵どもが夢の跡」ですね。

 ということで以下作例です。




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↑ 光学広角端37mmで撮影(A)。

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↑ (A)を3倍ズーム、光学望遠端111mmで撮影。ちょっと「滲んでいる」かなあ。

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↑ 稲刈りが終わった田んぼがある一方で、水を豊かに蓄えた田んぼもあります。そりゃそうなんですよね。田植えと一口にいっても3ヶ月ぐらいタイムラグがありますから。

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↑ 夏の終りですね。

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ということで撮影データ。プログラム撮影、ISO100、ホワイトバランスオート、露出補正なし。画像は1600×1200サイズで保存。撮影は9月10日~17日。撮影場所は香川県善通寺市、丸亀市、三豊市。


氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。