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あんときのデジカメ  「太陽はうんざりするぐらい照っとる」讃岐の夏空 with CASIO Exilim EX-S2

(はじめに)「さあ、いよいよ待望の夏休みがやってきた」ということで、夏らしい空を2002年のカシオのデジカメでスケッチしようと考えたのですが、なかなか夏らしい空に巡り会えません。さて、これ、いかに?

さあ、いよいよ待望の夏休みがやってきた。


さあ、いよいよ待望の夏休みがやってきた。と言っても、ぼくたちの場合、クリフ・リチャードが《Summer Holiday》で歌ったように、「太陽が明るく輝いて、海が青い」ところへ出かけて行って、カテリーナ・バレンテみたいに「ためいきの出るような」《恋のバカンス》を楽しもう、なんちゅうのでは全然ない。わざわざ出かけていかんでも、瀬戸内海に面した南国の田舎町だから、太陽はうんざりするぐらい照っとるし、青い海だって近くになんぼでもある。何万リットルもある。そんなんではない、勤労するのである
(出典)芦原すなお『青春デンデケデケデケ』河出文庫、1992年、43頁。

 大人ですから、夏休みなんてものはありません。たっぷり夏休みのある大人の方がうらやましく思えます。しかし、せっかくだからと気を取り直し、夏らしい空をスケッチしようと考え、8月1日からの通勤の往復路でカシオの2002年製の200万画素のコンパクトデジタルカメラを取り出してみました。

 今年は梅雨が長く、ようやく7月の終わりに夏らしい入道雲を時々みかけるようになりました。しかし、意外なことに8月になると、夏らしい入道雲を見かけることが実は「稀」で、被写体を探すのに苦労したほどです。

 その意味では、キーワードとしての「夏休み=8月=入道雲」というテンプレって、実は、そのひとがそう思い込んでいる……それを哲学では臆見(ドクサ)といいますが……ひとりよがりな世界認識かも知れません。あるいは、前回の「あんときのデジカメ」でも取り上げましたが、そうした認識の結果もたらされるのは、事実と自己認識の錯誤といったものとでも言えばいいでしょうか。

 観察や確認という大切な手順を経ずに、「そういうものだからまあそういうもの」という理解が現実の実際と乖離しているという話です。

 で、「まあ、ムキになって大人げないこといいなさんな」などと苦言を呈されそうですが、ときどき、そういう手順を経ることは大切にしたいと筆者は考えています。

 もちろん、日常生活とは「あらゆる誤解の総体である」と言ってしまえばそれまでですが、そういう自己理解を確認はしておかないと、誤解であることを気づかに終わってしまいますからね

 しかし、“「太陽が明るく輝いて、海が青い」ところへ出かけて行って、カテリーナ・バレンテみたいに「ためいきの出るような」《恋のバカンス》を楽しもう”なんちゅうのなんてありません。ひたすら勤労の日々です。

未だに市場を牽引するカシオ

 さて今回紹介するのは、2002年9月に発売された名刺サイズのスリムなコンパクトデジタルカメラCASIO Exilim EX-S2です。スリムなデジカメの「走り」とでも言えばいいでしょうか。筆者は同時代的には、本機にご縁がなく、まだフィルムカメラのCONTAXのTVSを使っておりました。

 数年後、勤務先の上司が「使わないから」ということでS2の前身となるS1を譲ってもらいましたが、「いまさら130万画素かあ」と思いつつも、その動作の軽快さは、まだまだ実用範囲という感で、何かを写真で記録しておくという意味では、携帯電話に搭載されているカメラよりも……そしてその携帯電話搭載のカメラの画素数の方がはるかに高いにもかかわらず……使い易いかなという記憶があります。

 思えば不思議なものです。

 何が不思議かと言えば、デジタル市場の開発ベースとその市場対決というのは恐ろしいもので、次々と老舗カメラメーカーが撤退するなかで、純正なカメラメーカーではない会社が生き残っているのも事実であり、栄枯盛衰といいますか、結局はその商品にどういうリソースを注いでいくのかによって、未来が分岐してしまうのかもしれません。ちなみにデジタルカメラの未来を拓く普及機を初めて発売したのもCASIOであり、windows95時代に、QV-10を使っていたことを懐かしく思ったりもします。

 しかし、そのCASIOも、商売にならないということで2018年にコンパクトデジタルカメラ事業から撤退すると発表しました。ああ、無情ですね。

「写ルンです」をデジタルカメラにしたらこんなかんじ

 では、簡単にスペックを紹介します。撮像素子は1/1.8型CCDと大きなもので、有効画素は、200万画素と黎明期コンデジの標準的な仕様です。レンズは絞りがf3.2、焦点距離が35mmフィルムカメラ換算で36mmで固定された単焦点になり、光学ズームは出来ません。フォーカスはパンフォーカスとなり、被写界深度のはいったものをテキトーに切り結ぶ仕様ですから、フィルムカメラ時代のファミリー向けコンパクトカメラみたいない使用感が面白い特徴です。

 コストの面でパンフォーカスを選んだのだと思いますが、それでも最短撮影距離は1mで、とにかくシャッターだけを押せばなんとなく写真になっちゃいますSDカードをフィルムと思えば、まさにフィルム交換式の「写ルンです」みたいなもので、仕様が似ていることを勘案すると、まさに「写ルンです」のデジタル版とでも言えばいいでしょうか。

 実際に使ってみると、ピントを合わせようとか、ズームしようとかそうした一切の「邪念」がないゆえでしょうか、どんどんシャッターを押して撮影できるその「軽快さ」には驚きます。そしてその切り結ぶ画像もそのまんま「写ルンです」的な写真になります。

 日常のできごとあるいは出会った光景を一瞬の下に撮影することを「スナップショット」といいますが、ポケットにいれたたまま、町を歩けば、これほどスナップショット向きのデジタルカメラというのは、他にはないかも知れません。

 そしてどこか懐かしい写真に仕上がりますから、言うことなしですね(汗

 さて、最近、作家の芦原すなおさんの『青春デンデケデケデケ』を読み直しているのですが、懐かしい写真と甘酸っぱい思い出というのはワンセットなのかも知れません(え!

 海の家の中ほどにある無料休憩コーナーのところで、「ちょっと待っとってな」と言って彼女は小走りに駆けてゆき、脱衣小屋にあずけてあったバスケットを持って戻ってきた。
 「どこ行こ?」と彼女は言うが、バスケットを持った水着姿の女をどこへ連れてゆくのがいいのか、ぼくにはさっぱり分らなかった。
(出典)芦原すなお、前掲書、165-166頁。




ということで撮影データ。オート撮影、ISOオート、露出補正なし、ホワイトバランスオート。画像は1600×1200で保存。撮影は8月1日~8月12日。撮影場所は香川県善通寺市、三豊市、仲多度郡琴平町。






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氏家法雄/独立研究者(組織神学/宗教学)。最近、地域再生の仕事にデビューしました。