なんたる星大賞 のおまけ評

迂回がなんたる星大賞の個人的まとめ書いたけど入りきらなかった回の続きです。
前のは自分とか星のことばっかり書いたので、ここは頂いた応募作で言い切れてないとことか全て終わってから言えそうなメタメタしいことなどを書いていこうかなと思います。
なお誌上で発表されてない作品については未発表作となるので、それらについて具体的な歌の内容には触れないようにしております。

まずこちらの選考結果に出てる、僕の上位選考5作品に触れておきたいです。触ろう。

☆1位:「力を合わせたくない日」(雀來豆)
 全員の選出作に順位順にポイントつけたりすれば間違いなく2位ぐらいに入りそうなのに最終候補止まりだったという、最も「選考会」というものにやられた作品といえるかもです。1位に挙げておきつつ推しきれなかった僕、という構図でもありますが…。今回採点の比重として 好きさ>完成度>その他要素 くらいの感じで進めたので、言葉選びとか言い回しなどの好きさで推したけど、気になる人からのツッコミにうおりゃと弾き返しきれなかった部分強し、です。おもしろさの作り方の距離感がばっちりはまっただけにもう一本ッ連作としての筋に説得力があれば、ばば。

 熊島に住むもの 飛べぬ熊 力のない熊 その恋人の熊(雀來豆)

☆2位:「ペンギンづくり」(大嶋航)
 語の豊富さとか組み立て方とか、読み心地としては1位とちょっと似てるんですが、味わい方にコツがいるというか初見だとムズい感じに見える作品でしたね。近景だと悲劇で遠景だと喜劇、みたいなお題を前提に押したり引いたりして作った連作 と捉えていて、上手くいってると思ったんですが個々の歌と構成でそれぞれ微かに引っ掛かりがあった、ということのようです。最終的に大賞推すにあたってもかなり迷ったんですが、大賞としてバーンて出したときに押し出しのある色の見えやすさ って所で劣ったかなと判断しました。5首連作でこれだけ濃く詰め込まれたら相当なもんだと思うのですが、やや煮詰めすぎたのかなぁ。

ペンギンを創るときだけ面白いシーエムだったんだよと神様(大嶋航)

☆3位:「パンノアクラウ」(御糸さち)
 大賞作品のひとつです。完成度ナニソレって態度の歌たちなのに、きっちりまとまってて独自色をばばんと打ち出すことに成功してる連作。楽しそう!って短歌でなかなか作れないんですよね。かつ、あざとくない・わざとらしくない表現にする っていうのは創作で引っかかりやすく直しにくいポイントで、そこを避けるのにも成功してる。4首目「3番と~」でそこに引っかかったんじゃないかと感じてたメンバーもいましたが、個人的には「楽しい!」の強さがそこまでで振り切れてたので問題なしでした。賞レースの大賞ぽくはないけどオーラ十分の作品だったと思います。

走ってるときよりかるいラパンノアクラウン黒塗りの高級車(御糸さち)

☆4位:「終わること等」(パラドクス)
 唯一僕の選出作で最終候補いかなかった作品ですねー。大喜利界隈からの参戦はいしゃどうもよく言ってますが本当に嬉しいです。
「あなた」と過ごす閉鎖的な空間時間、の雰囲気。でした。他メンバーの評価だと語の効かせ方の甘さ、韻律、短歌としてのまとめ方の拙さみたいな部分が突っ込まれつつ、センスと雰囲気のまとまりが評価されてた感じです。僕としてはそういう短歌ぽくない韻律のまとめ方と作品世界がマッチしてる風に見えて、読み返したときに評価上げて4位入りした作品でした。単語一つ一つにその単語以上の意味を持たすのもしんどいので適度に飛び道具ぶっこむのはアリだと思うし、そうして撒いたものの処理をどうするか、て辺りを単語バランス韻律展開とかでやれれば、なんというかよく切れそうです。

☆5位:「星だったはずだった」(しま・しましま)
 なんたる星メンバーのスタンスを選考会でわかりやすく可視化した作品といえるかもしれません。あるある、て言葉が使われてましたけれど、僕はその技法の活用はかなり賛成派で、いまさらバファリンの半分と言い出す奴をレーザーメスで焼くことに異議はありませんが、ある程度多数に固着したものごとのイメージを利用するって王道ながら読み手を刺すには必須で、そこを突破口に何を捩じ込むか、という所が表現の葛藤のしどころになってくるんじゃねぇかなと。勿論作られたままのイメージそのままをポンと置いたんじゃ焼き直しにもならないので、それがもう相手の頭にある、ってところをどう踏み台にするかですよ。ですよ。その辺を踏まえた、容赦なく読み手を抉る作品だったと思います。

じゃあ死にたてに触ったことはあるの と聞かれるままにうんと答える(しま・しましま)

あっめっちゃ長くなった。さらっとしようと思ったらめっちゃ長くなりましたが続けますよ。選考会までは行ってないけどみんなの評価が良かった作品とか、気になる作品なんかを紹介しますよ。

◆蟹かいたい(有村桔梗)
 はだしが5位で選んでる作品。ですが軒並み高評価 に見えました。人を喰ったタイトルからは想像できない精緻な言葉選びと世界観の構築、魅せ方、が5首すべてに行き渡って、歌の完成度からは文句ないレベル。選ばない、の理由付けのためにちょっと無理矢理批評したところはありました…。これが取られないというあたり、今回はみんな「短歌じゃない」を期待してた所があったんだろうなと思います。

◆夜にだけ呼べる名前で(大葉れい)
 伊舎堂が3位で取ってますね。これもかなり完成度の面でみんなから評価されてた作品です。「パンノアクラウ」で述べた楽しそうさ の面も持っている作品で、短歌エンタメとして高品質だったと思います。一歩なんかが違えば賞に食い込みうる作品と思いましたが、エンタメとして良いだけに「わかりすぎた」って所で今回はじかれた部分があるかなぁ。そっちもこっちも極めてほしくなる力感じました。

◆彼女の得体(塩ビ羊)
 スコヲプが5位で取ってます。僕もかなり5位以内いくかどうか競ったやつでした。これ僕は間違いなく笑い・大喜利の方法論で作られた作品だと思ってて、言葉選びとか言外に何を感じさせようとしてるかとか、短歌じゃないんだけどすごい馴染みある感覚がありました。誰なんだろうと大喜利アカウントのTLをじっと眺める僕は少しだけ見当がついたかもしれないと思っています。短歌的良さを排除した大喜利的連作 を作ろうという試みは僕もなんたる星本誌で何度か挑戦しているのですが、それの王道があるとしたらこういうのなんだろうなぁという感覚でした。新鮮。

◆とはうらはらに、僕はいつも命令にしたがっています。情けないです。でもどうしようもありません。みじめです。でも優越感があります。ほんとうはさみしいけれど、この優越感は捨てたくはありません。つまり (工藤吉生)

 選なしの作品ですがもうタイトルで不穏さが表現されすぎてて思わず一回改行挟みました。これタイトルも書いちゃいけないやつかな。と思いつつもちょっとこれは書いておきたい。内容はほぼ意味の取れない単語群造語群オノマトペで構成され、微かに構造が見えるかも、というあたりに配置された短歌のような何か でした。みんな結構取っ組み合って評を書いてます。
語の散らし方とかもしかしたら特別賞「夏へ、菜食生活」との類似が思われるかもなぁって雰囲気なのですが、それとこの連作との差異って結構重要で、なんたる星が重視するものの正体が見えかける気もします。それはもしかしたら「夏へ、菜食生活」を書いたのがめちゃくちゃうるさいあしか であったこと、己を人間だと宣言しなかったこと、とかに端的に表れてる、かもしれない。
工藤さん今回もありがとうございましたぬらっ。

作品紹介は以上です長い!
全体で見渡すとやっぱり「なんたる星」へ応募!であるためか星をテーマにしたり詠み込んだりしてくれた作品も多かったのですが、なにせ星はもう既に詩情すぎるので、かなりひねって調理してやらないと厳しい評価になる場合が多かったみたいですね。「なんたる」テーマがあったらちょっと面白かったかもしれない。

また開催されるのかどうか、「第一回」と銘打たれたこの賞ではありますがまだまだ未定、楽しみなような怖いようなですが、TL上の言葉など見ているとうわーやりたいやりたい、となります。ぐぐぐ。
評をするというのは自分のやりたいことを作品以上にストレートに言わないといけない部分があって実はそれほど好き・必須とは思ってないんですけれど、こういうバチバチのぶつかり合いは燃えるところがありますので、今度はより深く強く自分のやりたさと質の兼ね合いを衝突衝突。の思いでいきたいな。いきましょう。

それでは長々だらだらと書きましたがまとめも以上です。今後ともなんたる星をよろしくお願いします。バウムクーヘンを半ホール食いました。

迂回のnoteのもくじ:https://note.mu/ukaian/n/n0ca4348dacb3


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