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抱っこと負んぶ、両方したい【滲み】1800字



抱っこと負んぶ、両方したい


息が白い、痛い耳が。
ヨースケ君のお家に毎朝寄って、
10分ぐらい待って、
ヨースケ君が玄関から出てきて、
「おはよ」と私が声をかける。
ヨースケ君はこちらを見ずに「ん」とだけ言う。
私たちはふんわりと手を繋いで、中学校に歩いていく。


「元旦って絶対に晴れじゃない?」

霜柱は日陰に蔓延り、寒さと冷たさの巣窟。

お年玉は日向のイメージで、暖かく明るく、

暖かいストーブの前で何枚入ってるか数えたい。

お雑煮なんて完全たる日向のイメージ。

のびる餅なんてもはや真夏のイメージ。

寒さなんて、負。 負のイメージ。

思わず冷たいものを触っちゃって、ひゃっ!
あれ一番きらい。



ザクザクと霜柱を踏みながら歩くヨースケ君は、

心地いいからなのか、だんだん足取りが速くなる。

私は手が離れないように、ぎゅっと握った。

するとヨースケ君は、ふと足を止め、

こちらを一瞥してから、
ぎゅっと握り返してくれて、
また歩き出す。

ヨースケ君の指と手は、いつもとても冷たい。


「うん、晴れの記憶しかない。」


霜柱は、日中に陽があたり、氷が溶け、

昼頃までは道がぬかるんでいる。

夕方までに乾いたり乾かなかったりして、

次の日の朝、またザクザクになる。


丘の下に中学校のグランドが見える。

日当たりの良いグランド。

雲ひとつない快晴。

とても好きな空気と時間帯。

痛い耳が気持ちがいい。

繋いでいる手の、左の手首の下の方が、

やけに疲れてきた。いつもこの辺でそうなる。

ヨースケ君は疲れないのかな。

チラリと見る横顔。
少し見上げる感じ。
顎やら目尻。

神社のヨコの石の階段60段を降りる。

繋いだ手を離した方が
いいのかどうかいつも迷う。

だってすごく降りにくい。

少し濡れた落ち葉と、少し汚い土が、

私の靴の裏でイタズラした。

まさに、すってんころりん。

残り20段ぐらいを転げ落ちた。

ゴロゴロ回転しながら、これ絶対大怪我、そう思った。

地面に叩きつけられる。

コンクリートが頭蓋骨に痛い。


「大丈夫か」
ヨースケ君が駆け寄ってきた気配がする。

私は恥ずかしさと痛さと驚きと嬉しさで、
頭はパニック、というか群を抜いて恥ずかしい。



「抱っこと負んぶどっちがいい?」

「え」

「抱っこと負んぶどっちがいい?」

「。。。。え?」

「だから、抱っこと負んぶどっちがいい?」



ヨースケ君から予想だにしない発言すぎて、
頭の中は白く、見上げる空は青く、
後頭部はたぶん血で赤い。




滲み_抱っこと負んぶ、両方したい




「あたま、が、、痛い。。」

「じゃあ負んぶだな。」

ヨースケ君は私を負んぶしようと、
私を起こしてくれる。

まさか、負んぶされるなんて、
嬉しいけど恥ずかしさが酷すぎる。

負んぶされて中学校まで行くってこと。。

昭和から続く伝統表現、
すなわち鼻血が出てしまいそうだ。




いや、でもちょっと待てよ。




「あの、でもちょっと待って。」

「どした?」

「やっぱり、、、抱っこがいいかも。」

「。。わかった」


一瞬ヨースケ君の顔が曇った気がした。

私は正面からヨースケ君に抱きついた。

私は怪我人で救護されている人なんだよ感
を醸し出しつつ、抱きついた。

「やっぱり負んぶにしようか。」

ヨースケ君が言う。

顔面の全てが熱く赤くなる気がした。

きっと私が重くて持ち上がらなかったのだろう。

その場から逃げ出したくなった。

頭も痛いからすぐにでも家に帰って、

暖かい布団に埋もれたい。


「ん。のって。」

しゃがんで両手を後ろに突き出して、

負んぶスタンバイ完了しているヨースケ君。

早い鼓動に合わせて後頭部が痛い。



恐る恐る背中に体重を預ける。

どういう態勢が一番体重を感じないか、

それを考えながら牛歩作戦のごとく

ゆっくりと背中に乗る。

ゆっくりと立ち上がるヨースケ君。

ゆっくりと歩き始めるヨースケ君。



乾燥した空気とマフラーに巻かれた私は、

ヨースケ君の首に私の腕を巻きつけた。

恥ずかしくて恥ずかしくて
ぎゅうっとするしかない。

それが弱い私を誇示していて、
もっと恥ずかしくなってやるせない。

泣きたい。

震えた声で、「重くてごめんね。」


一本の車が通る。

道の脇に寄る、ヨースケ君とその背中の私。

恥ずかしくてマフラーに埋もれる。

濡れるマフラーが冷たい。負。


「抱っこは弟専用なんだ。」

ヨースケ君の整髪剤の青リンゴみたいな香りが、

鼻から後頭部に抜けた気がした。

少しずつ登った太陽が、私の頭を温める。

ずり下がってきた私を、
よっこいっしょ、とおぶり直した。


マフラーは私の涙と鼻水を
どれだけ吸い取ってくれるだろうか。


中学校まであとどのくらいだろう、

体全体で感じるザクザクを

ずっと仕舞っておきたかった。







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