【台本】DV彼氏より逃げ出して

DV彼氏より逃げ出して1

とりあえず……血は止まったかな。
瞼のとこ、わりとぱっくりいってる……目に入ったりとか、してない?
……そ。
消毒するから、ちょっと我慢ね。

……割れた瓶投げつけられた……って、なにそれ。
彼女にそんなことする奴が彼氏なわけないだろ?
それだけじゃないだろ。
この腕の痣だって、この前はなかったはずだ。
前のとは変色の度合いが違うからわかるんだよ。
もう転んだとか……そんな嘘でごまかされないから。

手をあげるのだって許せないのに、お前これ……
下手したらこの傷、目に入ってたかもしれないだろ。
そしたらどうなるか、想像できないわけじゃないだろ……ッ?

……なんでお前、あんな奴庇うんだよ。
かわいそうな人だとか、そんなの関係ないじゃん。
それがほんとでも、お前が傷つけられていい理由にはならないだろ?
お前がそんな風に耐えなきゃいけない理由にはならないだろ……!

平気なわけ、ないじゃん。
そんな傷だらけでさ、痛くないわけないじゃん。
そうやって、あいつに思い込まされてるだけじゃないのかよ……!

……なあ、もう戻るなよ。
戻ったらだめだ。
あそこにいたら、いつかお前……ッ。


DV彼氏より逃げ出して2

……ッおま、え……っ。
どした、こんな時間に……
ひとり、だよな?
とりあえず、中入れ。

どうした、またあいつになんか……
って、お前、これ、なんだよ……!
これ、手の甲……
煙草、の、痕……ッ?
なんでこんな、いくつも……!

……悪い。
大丈夫だ、落ち着け。
ここにはおれしかいないから。

……触られるの、嫌じゃないか。
ん、大丈夫だから。
ゆっくり、な。息、吐いて。

……これ、あいつにやられたのか。
こんな、何回も……っ。
……灰皿……?
なかったから、って、……ふざけんなよ……ッ!

……熱かっただろ。
怖かったよな。
……うん、我慢しなくていいから。
大丈夫、大丈夫だ。

……よくここまで来れたな。
えらいぞ。
もう心配しなくていいから。
……一回このまま眠っちまえ。な。
寝てる間に手当、しとくから。

大丈夫。
心配しなくていいからな。

なんで……
なんでおれはあのとき帰しちまったんだ……ッ!


DV彼氏より逃げ出して3

ん、おはよ。
目ぇ覚めた?
あ、まだ起き上がんないで。
熱あるみたいだから。
……たぶん、痛みからきてる。

一応手当てはしたけどさ。
まだ痛むだろ、当たり前だけど。
寝られるなら、寝てな。
ここにいるから。

……携帯なら、電源切ったからな。
ほら、起き上がんない。
……あんなの、切るに決まってるだろ。
どれだけ着信くるんだよ。
通知もやべえことになってた。
あ、中は見てないからな。
……見たくもねえよ。

……でもごめん。
携帯は見てないけど、……見た。
楽な格好に着替えたほうがいいと思ってさ。
でも途中で……やめた。
……見てられなかった、ごめん。

……お前さ。
ほんとにこのままだと……ぶっ壊れちまうぞ。
……なんだよ、それ。
傷だらけ、なんて……やさしいもんじゃないだろ。
お前、女なんだぞ。
見えるとこからはほとんどわからないように、なんて……最低にも程があるだろ。

いつから、なんだよ。
すこし見ただけでも、かなり古そうな傷もあった。
お前、ほんといつからこんなのに耐えて……

……ッ、お前が、泣かないからだろ。
見てらんねえんだよ。
なんでもっとはやく……っ

気づいてやれなかったおれ自身にも、情けなくて腹が立つんだ。
こないだだって無理やりにでも、お前のこと縛りつけてでも止めるべきだった。
そうしてれば、こんな……ッ

……ッ、悪い、とまんねえや。
かっこ悪いな、おれ。
でも、お前にこんなことした奴より何万倍もマシだろ。
彼女に、好きな奴にこんなことできるのが……信じらんねえよ。
……お前だってそうだ。
なんでこんなのに耐えてんだよ。
逃げ出せばよかっただろ。
おれは……こないだまで知らなかったんだ。
お前が転んだだのなんだのって言うのを鵜呑みにしてさ。
……おかしいなと思いつつ、追及しなかった。
なんでお前……笑ってられんだよ。
お前がなんでもない、大丈夫だなんて言って笑うから……。

……だから、そんなのは関係ないことだろ?
どれだけかわいそうな奴でも、それは誰かを傷つけていい理由にはならない。
お前が耐えなきゃいけない理由にもならない。
……お前だって、もう限界だろ?
だから、おれのとこに来たんじゃないのか。
おれは……お前が頼る先をおれにしてくれたことだけは、よかったと思ってるんだ。
ほんと……よくがんばって来てくれたな。

……悪いけど、もうあいつのとこに帰す気はないからな。
……っ、まだ起き上がんな。
寝てろ。
携帯も、おれが預かる。
……誰が帰すかよ。

ほら、まだ熱で朦朧としてるだろ。
寝とけ。
次に起きたら、お粥でもつくってやるから、な。


DV彼氏より逃げ出して4

一回起きられるか?
寝たままでもいいけど、ついでに着替えたほうがよくないか?
熱もすこし引いたみたいだし……ん、じゃあ替えの服とタオル、これな。
包帯とかガーゼ用意してくるから、まず着替えといて。
ひとりで大丈夫か?
……ん、わかった。

手、かして。
まず右手な。
あ、悪い、痛かったか?
消毒もちょっと染みるかもだけど……我慢な。
……なんか、包帯巻くのうまくなってきちまったわ。

次、そっち、左手かして。
こっちも消毒、我慢な。

……これ、たぶん痕残るぞ。
見る奴が見れば……煙草の痕だってすぐわかる。
……べつにいい、って……よくないだろ。
なにがいいんだよ。
こんな、手の甲なんて目立つところにそんな痕が残っていいわけ、

……ちょっと待て。
……これ、指の痕じゃないのか。
これ、首のところ……隠すな。
手にばっかり気がいってて気づかなかった……
お前、これ……首を絞められたってことじゃ、ないのか。

……ッ、お前さ……!
……おれに言うこと、あるんじゃないのか。
今までそれとなくはぐらかしてきて、怪我だなんだって言ってごまかして、
おれがどれだけ聞いても答えなかった。
でも今回は、もう無理だって思ったからおれのとこに来たんだろ?
もう限界だって思ったから、逃げ出してきたんだろ……?

……言えよ。
お前が言ってくれたら、おれだって動けるんだ。
お前が望まないなら、おれがどれだけしてやりたくてもだめなんだよ。
おれがどれだけ思ってたとしても……

……だから、言えよ。
ずっと言いたかったんだろ?
でも、言えなかったんだよな。
言わせてもらえなかったんだよな。
でも今ここには、おれしかいない。
お前のほかには、おれしかいないんだ。
だから、

……ッ!
……当たり前だろ……!
なんで、なんでもっとはやく……!

……いや、いい。
いいんだ。
ようやくお前の口から聞けたから、いい。

……大丈夫だから。
おれが、なんとかしてやるから。
だから心配しなくていい。

今まで、よくひとりで耐えてきたな。
でももうがんばらなくていい。
我慢もしなくていい。

おれが……いるから。

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