【台本】吸血鬼(男)と吸血鬼(女)【かけあい】

吸血鬼(女)
吸血鬼(男)

***

女:はじめて見たときにね、絶対にイケメンになると思ったの

男:生まれたての赤ん坊でわかるもんですかね

女:わかるわよ。だてに長生きしてないわ

男:にしたって、忌み子だと言われている赤ん坊を拾うなんて、あなたも本当に物好きですよね

女:忌み嫌われるということなら、あたしだって負けてないわよ

男:そこ、張り合うところですか

女:いいじゃない。嫌われ者同士、仲良くやりましょ。
それにほら、あたしの目に狂いはなかったわけだし。
ふふ、やっぱりイケメンだった

男:ご期待に添えましたかね

女:もう、ばっちりよ。
あたし好みのイケメンに育ってくれてうれしいわ

男:それはよかった。
でもほんと、いきなり喉元に噛みつくのはどうかと思うんですよ。
あなた、そんなことしなくても血を吸えるでしょうに

女:普段はね。でも“儀式”のときは直接いかないとダメなのよ。
直接、あたしの牙を使う必要があるの

男:だからって、断りなしに噛みついてくるのはどうなんです? 
それとも、おれが拒否するとでも思ってたんですか

女:思ってないわ。
言ったでしょ、だてに長生きしてないのよ

男:だったら

女:でもね、あたし決めてたの。
あなたに儀式をするときは、あなたのここに、噛みついてやるんだって。
だってほら、見上げるとちょうどいい場所にあるんだもの。
あんなに小さかったのに、いつのまにか大きくなった生意気な子どもの躾には、ちょうどいいでしょう?

男:躾もなにも、逆らえないように育ててきたのはあなたでしょう

女:ふふ、冗談よ。
ただここがあんまり色っぽくて、噛みついてやりたくなった、それだけよ

男:そんな理由で、おれは人間をやめるはめになったわけですか

女:そうよ。不運だったわね。
あなたが思ったよりもイケメンに育たなかったら、ここまで色っぽくならなかったら、
あたしは生涯の伴侶にあなたを選びはしなかったわ

男:そうですか。
なら、おれの努力も無駄にはならなかったわけだ。

女:それってどういう

男:そのままの意味ですよ。
おれは、あなた好みの男になったでしょう?

女:……まったく、生意気な子だこと

男:勝手はお互い様ですよ。
さあ、そろそろここを離れましょう。
さすがにこれだけの人数じゃ、すぐに騒ぎになります。
ようやく腹もいっぱいになったことですし

女:まさか村人全員、吸い尽くすとは思わなかったわ。
よほどお腹が空いていたのね

男:自分でもびっくりですよ。
いくら食っても、満腹にならなかったんです。
でもようやく、最後のひとりになったときに、もういいかなって。
これで全員、ですもんね

女:そうよ。あなたを忌み子だといって捨てた村の人間は、これで全部

男:あっけないもんですね、人なんてものは

女:そうよ、だから気にすることないのよ

男:気にしてませんよ、べつに

女:そう? 
じゃあ、もうここに用はないわね。行きましょうか

男:まずはどこへ行くんです?

女:あら、そんなこと決める必要、あるかしら

男:……いいえ、ないですね

女:でしょう?

男:ええ、あなたとならば、どこへでも


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