【台本】あなたの話を二時間ほど
ここでこうしてぼくが話しているのを、君が知ることはないだろうね。
未練がましくレコードに録音なんてしているけど、録り終わったあとに処分してしまうつもりなんだ。
自分で聞き返す気もない。
ただ、一度形にしたという、その事実が欲しいだけなんだ。
いい話ではないのは、流れているこの曲からもわかるだろうね。
でもぼくはこの曲、とても好きなんだ。
だって、どこまでも不安定なうつくしさに満ちた曲だろう?
今日という日に、今という時間に、とてもふさわしい。
そうは思わないかい?
そろそろね、太陽が沈んでいく時間だ。
この時間になるといつも、君の言葉を思い出すんだよ。
覚えているかな、君は海に沈んでいく夕陽を見ながらこう言ったんだ。
「太陽が、海に溶けていくみたいね」
君にはたくさんの言葉をもらったけれど、どうしてだろうね、いつも思い出すのはこの言葉なんだ。
たったひとりでいるのに、ここからは海は見えないというのに、それでもいつも思い出すんだ。
君にもらったものはほかにもいろいろあるけど、コーヒーを淹れるのがね、いくらか上手になったんだよ。
教えてもらった淹れ方だって、ちゃんと覚えているよ。
さっき淹れたのを飲み終わったら、そうだね、おかわりをもう一杯淹れようか。
懐かしい思い出話をするには、コーヒー二杯分くらいがちょうどいいと思うんだ。
君から譲り受けたサイフォンの音も、きっとすてきなバックミュージックになるだろうね。
さあ、なにから話そうか。
たとえ終わりの物語でも、最初は君との出会いから、が、いいのかな。
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