シストレのススメ第1回 運用目標

資産運用する上で「運用目標」は絶対に必要です。なぜなら運用目標が明確化できていなければ、それを実現するためのプロセス(運用戦略)を考えることができないからです。世の中に存在する殆どの投資書籍は、この最も根本にある課題提起について触れていません。

例えば年利5%を目指すのと年利20%を目指すのであれば、当然売買の対象銘柄や取引スパンも変わります。場合によっては株式以外の投資の選択肢も含まれるでしょう。「とりあえずお金を儲けたい」で始めると上手くいきません。

運用目標は次の3つを明確化しておけばよいです。

①運用資金、②目標利回り、③許容リスク(=許容ドローダウン)

ただしやってみると分かるのですが、運用目標の設定は「ありたい姿」と「現実」の板ばさみにあいます。正しく運用目標を設定することは最も難しい命題の1つとなります。


1.目標利回り

ここではサラリーマン、自営業など手に職を持つ人が株式投資で資産を増やすことを考えます。比較的若い方であれば、「株式投資で稼いだお金で自由気ままな生活を」、比較的ご年配の方であれば、「退職後の資産を少しでも増やしたい」、と考えるのはごくごく普通のことでしょう。

立場上、前者を対象として話を進めたいと思います。運用資金は100万~500万程度になると思います。個人投資家の株式保有額は500万以下が約7割という統計があります。この場合、資産目標はやはり一つの節目である「1億」になると思います。例えば初期資金500万→目標1億として複利運用するとして、何年で達成できるでしょうか。

<投資期間> <目標利回り(年利)>
   5年        82%
  10年       35%
  15年       22%
  20年       16%
  25年       12%

さて、どの辺りが適当な利回りでしょうか。当然ですが株式投資による利益は分離課税制であり、20%税引き後に上記利回りである必要があります。


結論から言うと、どれも現実的ではありません。投資信託等では運用成績を比較するベンチマークとして、株式インデックスの利回りに対するプレミアムを記載します。しかし優れたファンドでも長期的にインデックスの成績を上回ることは非常に難しいとされています。

例えば計算年数にもよりますがS&P500指数の利回り(複利)は、25年以上の長期間で見ると5%~9%程度です。10年程度で見るとバラツキが大きく1%~15%程度となります。現実的な運用利回りはこの程度になるでしょう。ただし、ヘッジファンドの一部は瞬間風速的に大きな利回りをマークします。WSJが選定した2017年のトップのファンドはカナダのMMCAPであり、2017年の利回りは63%、直近3年間(2015年~2017年)の平均利回りは38%です。

個人投資家がプロフェッショナルであるヘッジファンドと同等の成績を出すことは難しいことですが、個人投資家のアドバンテージを最大限に活用すると、全く不可能というわけではないと考えています。許容リスク次第ですが、

「10年以上の長期的な投資期間では5%~10%程度」
「5年程度の短期的な投資期間では15%~30%程度」

以上が妥当な目標利回りと言えるでしょう。

最近流行の暗号通貨トレードは明らかに上記の範囲から逸脱しています。当然ながら暗号通貨トレードは「投資」ではなく「投機」となります。


果たして上記の利回りで満足できる人がどれほどいるでしょうか? 例えば年利20%を達成できたとしても、精神的な効用はそれほど大きくないのでは、と考えます。この傾向は資金が少なければ、より顕著になります。500万円→600万円ではまだしも、100万円→120万円では嬉しくもないでしょう。

年間でこの程度の利益であれば頑張って貯金すれば貯まりますし、投資の勉強やストラテジーの開発、日々の銘柄選定などに掛ける労力や保有ポジションの含み損益に一喜一憂したりドローダウンに耐える精神的ストレスを鑑みれば、費用対効果が非常に小さく感じます。これでは個人で頑張るモチベーションは薄れ、投資信託に丸投げしたり定期的にETFを購入したほうが効率的でしょう。

個人投資を続けていくためには、かなり大きいリターンが必要になってきます。そうなると個人投資家の次に考えることは、「もう少しリスクテイクして利回りを上げよう」ということになります。危険に聞こえますが、実はこの考え方は非常に合理的なものです。なぜなら許容リスクを自由に制定できるのは、個人投資家の1つのメリットであるからです。


2.許容リスク

まずは投資におけるリスクの定義を明確化しておきます。投資におけるリスクとは、「期待したリターンが得られない不確実性」のことです。投資理論では一回のトレード当たりの期待値はリターンの平均、リスクはリターンの標準偏差で表されます。

このリスクはいわば潜在的なリスクであり、これがマイナス側に積み上がると資金が減っていきます。このとき初めて潜在的なリスクが顕在化するわけです。資産運用を開始してからの最大資金に対して積み上がった損失により目減りした最小資金との差がドローダウンとなります。

投資家にとっての顕在リスクとは、すなわち元本割れする可能性であり、ドローダウンをいくらまで許容するか決めておく必要があります。一般的にはパーセントベースでキリのいいところに設定します。運用を開始してからの最大資金に対して10%、20%、30%、50%などです。どのくらいが適当でしょうか?


ドローダウン(以下DD)をどこまで許容するか(我慢するか)ですが、どんなに頑張っても「10%が限界」と考えます。シストレの商材で過去の最大DDが20%程度のものがありますが、これではリスクが大きすぎるので調整したほうが良いと思います。

DDの恐ろしさは2つあります。1つ目はいつ発生するか分からないこと、2つ目は過去に発生した最大DDと運用上想定すべきDDが一致しないことです。

システムトレードでの運用を開始した直後に過去の最大DDを更新してしまうような大きなDDが発生することが多々あります。例えば20%までDDを許容して初期資金500万で運用開始した直後、いきなり20%である100万円を失っても何事も無かったように運用を続けることが出来るでしょうか?システムトレードでは「どんなときでも必ずルールを守る」ことが前提です。逆に言うと「守れないルールは意味がない」ことになります。

許容DDは10%でもキツイかもしれません。5%でも良いと思います。このようにシステムトレードを本格的に運用するときは、得られるリターンが大きく、且つ発生するリスクが小さくなければ継続することができません。リターンとリスクが比例するという投資の大前提と合致しないのです。


個人投資家は高いリターンを要求しますが、そもそもシステムトレードは利回りなど運用パフォーマンスを設計する行為ですので、期待値以上の大きなリターンを得ることはできません。また裁量であれば自分の責任と割り切れる損失も、システムが損失を出すと許し難いものなのです。以上の理由から、個人投資家はシステムトレードを敬遠しがちとなるのです。

長くなってしまいましたが、ここまでをまとめると、運用戦略を策定するために、運用目標の設定が必要不可欠です。運用目標の設定とは、①運用資金、②目標利回り、③許容ドローダウンを明確化する行為です。妥当な目標利回りは、投資期間にもよりますが「5~30%程度」と考えます。妥当な許容ドローダウンは、「大きくても10%」までと考えます。


3.運用資金

ここまで触れていなかった「運用資金」ですが、システムトレードは大きな資金で運用することが非常に重要となります。

運用資金が大きいと、低めの利回りでも利益額の絶対値が大きくなり、また損失が出たときのドローダウン%の割合も小さくなって精神的ストレスが和らぎます。売買代金を上げることが出来るので、ボラティリティの高い新興株を狙う必要がなくなります。また、多数の銘柄を発注できるため、分散効果が働きトレード成績が安定します。

運用資金は1円でも多いほうが良いのです。当たり前の話ですが、「元本が大きいほうが有利」というのが資本主義の鉄則なのです。

これらが明確にできたところで、次回からはストラテジー(トレードロジック)の設計方法を紹介していきたいと思います。

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UKI

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