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3月10日

6:22
口の端にフカフカしたものが当たって、ふんふんふんふんと熱心に匂いを嗅がれているのを感じて目が覚める。外は明るかったけど、スマホを見たらまだ6時半にもなってない。まだ寝ようと思ってしばらく反応せずにいると、そのうち猫の小さい前足が私の胸に乗ってきて、右、左、右、左、とリズム良く順番に踏みしめられ、それが実は少し痛い。面積の小さい足に4kgの猫の重みがしっかり乗るから刺さるんだ。
猫はふみふみしながらだんだん前のめりになって、そのうち完全に私の上に乗っかり、徐々にリズムを落として、やがて私の上で伏せようとした。私の目はずっと閉じたままだったけど、動きと位置的に顎に肛門が直撃しそうなのがわかったので、猫の後ろ足が畳まれる直前に少しだけ顔を左に向けて避け、腿のフカフカを感じながら、そのまま寝た。



7:35
目覚めたら猫は右隣にいて、私の頬に尻をつけて寝ていた。顔を右に向けると、ちょうど尻尾の付け根くらいの位置に鼻が当たる。顔ぜんぶを毛皮に埋めて何度も何度もそこで深呼吸した。猫は微動だにしない。なんでだろう、湿気た生暖かい空気が毛にこもるの、嫌じゃないのかな。私が同じことを髪の毛でされたら嫌だけど?
私がベッドから降りると、それまで微動だにしなかった猫もバッ!と起きて、ナーンと喋りながら後をついてくる。律儀にトイレの外で待っていた猫は、尻尾を高く立てて私を空っぽの餌皿まで案内した。本当に「はぐはぐ」と音を立てて朝飯を食べる猫を尻目にカーテンを開けると、思いの外綺麗に晴れた空が広がっている。今日は休みだ。やりたいことは特にないし、前日に少し気分が重くなる出来事があったから、あんまり動きたくなかった。ベッドに戻ってスマホを眺めてたら居間から猫がトイレ砂を一生懸命掘っている音が聞こえて、食って即出してんの可愛い〜と思った。



13:20
決定的なダメージを負う出来事があり、ただただベッドで天井を眺める。しかし現状解決のためにやれることがひとつしかないことはハッキリしていたので、30分もそうしているうちにだんだん吹っ切れてきて、落ち込みながらもどこかすっきりした気持ちになってくる。と思ってもやはり落ち込んで泣いて、を繰り返しているうちに猫がベッドまでやってきて、枕の端っこにドデンと寝転んだので、今日はもう何もしなくていっか〜と思ってまた寝た。



15:35
目が覚めてもまだ同じ場所に猫がいた。私が動くのに合わせてうっすら目を開き、しばらくするとまた閉じるのを繰り返す。猫のお腹を支えにしてスマホを立てて、小さめの音でYouTubeを見る。猫は特に気にもせず寝入るので、そのときの深い腹式呼吸でスマホが揺れていた。
 



17:05
YouTubeを見ながら寝ていたらしい。猫はまた私の顔に尻を向けていた。本当に一日中なにもせず過ごしてしまったことに遅れて罪悪感が来て、とりあえず洗濯機を回しに行く。
ベッドに戻り仰向けでスマホをいじっていたら、ずっと枕元で寝ていた猫がむくっと起き、なぜか私の胸の上に移動し姿勢よく座る。目の前にグレー色のもこもこでっかい山ができた。可愛い。前足がみぞおちに刺さって痛い。マジで痛いので、痛い〜とツイートしたらその瞬間に猫は胸から降り、私が履いていたスウェットパンツの紐を引っ張ったり食べたりして遊んで、5分もした頃に飽きてまた寝ていた。



19:25
猫は引き続き寝ていたけど、一日何も食べていなかった私の方が限界を迎えた。寝室に猫を置いて居間に行き、出前館でCoCo壱のスクランブルエッグカレー海老カツトッピングを注文する。到着まで50分かかるらしい。我慢できずにキュウリをかじって食べていたら、猫がおもちゃを咥えてソファまで走ってきた。食って寝て遊ぶ、健康で非常によろしい。
35分後、私は思ったより早く届いたカレーを片手で食べながら、もう片手で猫じゃらしを振り回していた。おもちゃに飽きた顔をしたから止めたらおねだり、の繰り返しをされて、カレーが来るころになってもなんか全然飽きてくれなかったのだった。文字どおりの片手間の遊びになったが、猫は気にしちゃいなかった。



22:40
日中どんなに寝ようが夜もしっかり寝たい。猫は私より一足先にソファで寝ていたけど、今までずっと一緒にいたのに!?と思って寂しくて、無理やり抱きかかえてベッドに連れて行った。
猫は何も言わず私が置いたままの体勢でそのまま寝続けていて、なんでそんな優しい!?と思ってびっくりした。猫は猫としてそこに生きてるだけなんだけど、勝手に救いを見てしまう。ごめんね、可愛い、好き、一生離れないでくれ……を毎日繰り返している。何気なく猫の脇の下に耳を当てていたら、トトトトトトト、とえらいテンポの早い音が聴こえてきた。聞き慣れた自分のよりも早すぎて一瞬なんの音かわからなかったが、猫が寝入った瞬間のフー、スー……という呼吸と共に少し遅くなり、それが猫の心臓の音だと気付く。一日ずっと一緒にいたけどコイツに流れる時間は私の倍以上の早さで、同じ一日って訳じゃないんだ〜と、置いてかないでくれ……と泣いて、あ、今日やばいなと思い、日課のネットサーフィンをやめて早々に寝たのだった。

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