令和元年八月十六日ライトーンSS_きらめいて_私の手をすべり落ちて_表紙hanabi2019842031_TP_V4

SS「きらめいて、私の手をすべり落ちて」

 あの男ががほざいたことによると。
 男という生き物は、打ち上げ花火のように生きるのが一番よい。
 高く、高く、どこまでも高く上がっていって、空に到達したとたん。
 大きく弾けて輝いて。
 消えてしまうのがよい生き方だと。
 はあ。
 ため息をもう一度。冷や酒をもう一杯。
 あいつは男のダメなところを詰め込んだ男だったが。そういうところが、もっともダメなところだった。
 きゅうりの浅漬けを一口囓る。ざっくりと歯形をつけて嚙みきってやる。蹂躙。口紅がわずかに切断面に残る。
 そういう風に生きたかったのであろうし、そういう風に生きたつもりなのだろう。
 笑止。
『各地でお盆休みを満喫する子供たちの姿が』
『はなび。はなびきれいです」
 テレビ画面に映る閃光。
 回転花火。またの名をねずみ花火。
 何が打ち上げ花火なものか。貴様の人生はあちらであろう。
 くるくるくるくる這いずって、地べたをのたうち回って。
 逃げ惑う弱者に嘲笑され。
 嘲笑する弱者を追い回し。
 てんで言うことを聞かず。踊って踊ってすり減って。
 きらめいて、きらめいて、我を見よ。命燃やしてきらめいて、無様に無様にきらめいて。
 いきなりぱすんと消えてしまった。
『こちらはお墓参りの帰りだそうです。いかがでしたか?』
『いやあ、暑くてたまらんです。まあ、でも、これでお父さんらも安心して帰ってこれます』
 あの男は帰ってきやしないがな。
 日頃は呼びつけないと来ない。
 自分から帰ってくるときは、きまって火の粉でひどい有様だった。
 生き物は肉体がなくなってしまえば、どこも傷つきようがないのだ。
 故に、決して帰ってこない。
 あの、いかにもすねたような顔で。別に言わなければ叱られはしないものを。
 暴れ回った傷もそのまま。手当てなんてしてやるはずもないのに。まるきりそのまま。
 玄関の前で座り込んで、刀をすがるように抱きしめて。
 じろっとこちらを上目に見る。
 とっくにいい歳をして、見目良く強くなったというのに。
 いつまでも、いつまでも、私に叱られるために帰ってきた男。
 回転花火。
 地面で悲痛に跳ね回る、君の光はうつくしかった。

  了

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