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Google編:(2)デトックス

前回外資系キャリアについて感じていることを書いたら、元Apple同僚(今も中の人)から「見えている世界が違いすぎる・・・!」とのコメントをもらいました。色々書けるのは、自分が既にその世界から抜けているからですね。現役だったら周囲に素晴らしい人がいる一方で”酷いほう”の人たちに対する肌感覚が生々しくて、感謝モード全開にはなれないかも。

わたしのまわりにも、罵詈雑言のレパートリーを試したくなる人が(稀にですが)いました。でも、腐肉で腹を下したような経験も、時に晒されると綺麗に白く抜けるもの。

日本画(趣味)の基礎画材である真白い胡粉(ごふん)も、イタボガキを10年天日に晒して作る。そんなかんじ。

ただひとつ、今回のコラムで伝えたいのは、自分が部署単位で一番長い時間を過ごしたGoogleのFP&Aは、本当に、正真正銘、良いチームだったということです。メンバー各位の個性は強いけれどみんな素晴らしかった。それは胸を張って、風化の力を借りずに言えます。

どんだけっていうことを少し語らせてほしい、今回はそれだけです。

わたしが在籍していた当時、Financial Planning & Analysis(FP&A)はPatrick Pichetteの傘下でした。そのPatrickが皆が認めるスーパーナイスな人でした。トップの性格は組織全体に大きく影響を与えるので、Patrickが2015年にリタイアして、今は部署の雰囲気もだいぶ変わっているかもしれません。

FP&Aは、あらゆるビジネスフォーキャストを司ります。本社機能としては個別の製品予測に特化した分析チーム、各種費用やプロジェクトの予算を扱うチーム、スーパー頭のいいQuontsチームなどがありましたが、そういった同僚たちも(物理的距離が近かったら、政治とか、色々あるはずだと思いますが)私の知る限り、みんなナイスでした。超忙しいはずなんだけれど、出張ついでにちょっと話したいことがあると言えば、みな快く時間を取ってくれました。

組織は、グローバルの下でリージョン(アメリカ、ヨーロッパ、アジアのような大きなブロック)に分かれます。

私が普段、その一員として接するAPAC(アジアパシフィック)の大ボスのMarcoはスイス人でした。背が高くて金髪碧眼で、聡明勤勉真面目で、部下の冗談に微笑むときも精巧な腕時計みたいなかんじの人でしたが、社歴が長く本社からの信頼は深く、チームの皆から愛されていました。

20人+のリージョンメンバーの国籍は10か国以上、うち日本人は2名だけ。日本にもう一人いるアナリストは、アメリカ国籍でした。

とにかく、その全員が、例外なくナイスでした。

頭が良いとか、勤勉とか、高潔とか、誠実とか、親切とか、色々表現しようがあるし、それぞれに個性も、悩みも、弱みももちろんあったのだけれど、非常に優秀な人たちというのは同時に抜群のユーモアのセンスを備え持つ人たちでもあって、腹を抱えて笑った思い出が多いです。

Googleは国境を変えたカルチャーを実現している会社ですが、それでもどの部署にいたか、上司が誰であったかによって、かなり個人の体験は違ってくると思います。

隣の営業部なんかは、所帯が大きい分レイヤーも多くてどろどろしてて楽しそうでした。(スキャンダルって当事者は笑い事じゃないと思いますが横目で見るには飽きないよね)

そのようなビジネスパートナーの感情のゆらぎとも、もちろん無関係ではいられませんが、自分が所属し評価されるレポートラインのモラルを信じられるというのは、素晴らしい心理的安全性の担保です。

そしてSales Financeには「数字」というレゾン・デートルがありました。

数字は何より強力なグローバル・ランゲージ、Factです。具体的に何やっているか知らない人のほうが多い小さいチームでしたが、予算に関わるので他の部署からも一定のリスペクトをもって接してもらえる役割でした。

環境は人を変えるというのは本当です。

わたしはGoogleによって変わりました。転職した直後の1年間はいわば私にとってデトックス、解毒の年でした。

三食のフリーミールは栄養バランスが良いために肌艶も改善して、体重も5キロも増えた…という話ではなく、周りのみなのおかげで自分もナイスにならざるをえなかったのです。

ローカルFP&Aは、毎四半期の売上予算の設定において、Top down(グローバルの意向、つまり前述の本社チームが素晴らしい頭脳と state-of-the-art のAIを駆使して出してくる精度の高い予測)とBottoms up (国内営業の各部門長の思い入れたっぷりの意向)とのすりあわせをおこなう調整弁でした。

その際、大勢の思惑がせめぎあう国内の予算配分のプロセス管理を行い、カントリーマネージャの意思決定を支援するための分析を提供します。

実際は、個人の好き嫌いや裁量で予算をどうにかする権限も意思もないのですが「FP&Aが予算を決めている」と誤解されることもあります。

予算決定後は、随時の着地予想をグローバルに対して説明するため、各営業部門長に対して、なぜ足りない(or 超過している)・どう埋めるということを、毎週毎週、問い続ける仕事でもあります。

相手のほうが役職が上なので、訊ね方には気を使いつつも、職務柄、国としての説明責任を果たすため、筋道の通った解釈を引き出し整理するのです。

前職で同様の仕事をしていた時のプランニング vs セールス の対立構造は露骨でした。上司が戦闘的な性格だったっていうのもありますが、私は最初にそこで仕事を学んで、利害関係の異なる部門のやり取りではテンションがあるのは宿命なのだと思っていました。

予算設定は「自らのコミッションのために数字を下げたい営業(あるいは予算を増やしたいマーケティング)」と、「経営の意向を受けて数字を上げたいプランニング」とのフォースのぶつかりあいだから、プランニングは悪者と言われるけど仕方ない、と。

そのため、議論はロジックで押し切る、剛腕で抑え込む、泣かれても怒鳴られても表情を変えぬ、基本的には嫌われてなんぼの側面がある仕事だと思っていました。

でもGoogleに移ってすぐにその認識が変わりました。

あれっ、みんな、バトルモードじゃないの?(屁理屈いう子供みたいな反応がない!)

数表見せただけで理解してくれるの?(前職で一時間かけてた話が5分で片づく!)

えっ、わたしの事葉を尊重してくれるの?

細かい質問にもサッと答えてくれるの?

・・・私、アーマーを解除していいんですか?!って。

誤解なきように言っておくと、前職でも数字を取ってくるセールスを本質的にリスペクトしていましたが、やはり、プランニングとセールスは対立構造になる組織のほうが世の中には多い気がします。

個々のエピソードを話し始めるとキリがないのですが、とにかく、Googleで誠実で高い職業倫理感をもつ仲間に恵まれ、他部門とも良好な関係を築きながら仕事をするうち、デトックスが進んで、わたしは以前よりも確実に「いい人」度合いが増したと思います。毒が抜けた。

「自分もそうなりたい」と思う具体的な姿が傍らにあれば、人はそれに近づくということを経験しました。

「朱に交われば赤くなる」という諺がありますが、染まるというより、余計なものが瘡蓋になって剥がれて行くような感覚で。

ついぞ愛社精神なんていうものは自分には理解できないlと思っていたわたしが、Googleは大好きって言えるようになったのは、自分がその一員であることが嬉しいと思えるチームで仕事ができたからです。

本当に感謝しています。

当時から、自分が大きい会社に勤めるのは、ここが最後になるかもしれないと感じていました。

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