見出し画像

カルチャー・ギャップ

先日ドレス・コードについて思うことを書きましたが、わたしが講師としてビジネス・マナーを扱うときに脳裏をよこぎる体験について追記します。

文化による名刺のわたしかたの、ちがい

日本は名刺の使用頻度が世界一高い国です。ビジネスの場では、初対面の会議の冒頭に、あいさつ代わりに、ボスを筆頭にカルガモの行列のように名刺交換をしますが、米系文化では特にそのタイミングは決まっていません。会議で一通り話した後、別れる前に「やり取りの必要がある」と感じた相手とのみ交換するというのがわたしの経験則です。(米系企業でも西海岸と東海岸ではまた違うかもしれませんし、日本人との仕事に慣れている外国人は、そこは日本式に従うイメージです)

今は違うかもしれませんが、10年以上前のAppleでは、日本のお客様を本社のエグゼクティブ・ブリーフィング・センターにお連れして、最新事例をエンジニアやマーケティングの人から話してもらうような場合は、あらかじめ「小ぎれいな服着てきて、名刺交換は最初に全員と、必ず両手を使ってお願いね」と言っておく必要がありました。

でないと、短パンとサンダルできて、机に方尻のせたまま片手で渡されちゃう、みたいな。

メールの書き方も、ちがう

ビジネス・メールの日本のマナーも、ユニークです。

例えば、アップルストアの直営店が日本に入ってきたのは2005年の銀座店が最初でしたが、当時、その準備やオープニングスタッフの採用はすべて米国本社管轄で(日本子会社にそのノウハウはないからね)、初期トレーニングも、クパチーノで実施したんです。

すると、1か月ほどの研修を終えて戻ってきた店舗のメンバーは基本下の名前で呼び合うようになっていました。ローカルのApple同士で同じ顧客をフォローすることもあるわけですが、日本法人の担当者に送られてくる店舗担当者のメールは

「Hi, Taro-san XXXの件、OKです!Thanks、Hanako」ってかんじで。(※山田太郎さんは部長だったりします)

LINEとかMessengerのやりとりってそんな感じだからスマホ・ネイティブ世代には伝わりにくいかもしれませんが、日経企業で仕事をする人はこれはギョッとします。社内でも、国内のお客様とやりとりをする営業部には衝撃が走っていました。

しかし、わたしもそれを笑える立場ではありません。最初の仕事は社内業務で本社とのやり取りが多かったので、まず先に米系の社内メールに馴染んでいました。そして3年目に営業部に移ってから、何が一番難しく感じたかって、実はこの日本のメールのマナーです。

ビジネス英語の表現は口語も文語も ”Short, Sweet and to the point(短く、優しく、端的に)” が良いとされています。それに対して、日本語メールは用件の前後に「お世話になっております」とか「どうぞよろしくお願いいたします」とか、余計な文章をいっぱい書くでしょう。

日本語だから意識すればできるのですが、そんな作文に頭を使うことが不合理に感じました。

日本人であれば、ジョブレベルが上の人に対してファーストネームで呼びかけるのには抵抗がある人がほとんどだとおもいますが、それも環境次第なんですね。Googleでは日本国籍ではない人も多いので、そこで偉い人を2人並べてメールをするのに「”John、山田部長」とかって書くのは、なんか変でしょ。「John-san, Taro-san」あるいは「John, Taro」になります。

社内で通じ合っているピア同士だと”Dear”や”Thanks"も省いて、本当に用件だけの1~3行メールでやり取りみたいなことも多かったです。

社内イントラの個人ページも基本グローバル対応で英語のみ、そもそも相手の漢字名を確認できるインフラがないのて、その調査に時間をかけるのは無駄だと思うようになるわけです。

このへんは、ITの進歩に伴う国境を越えたコミュニケーションが加速していく中で、今後ゆるやかに変わってスタンダードかもしれません。

でも。私自身についていうと、稀に外部の方とやり取りをする際には、そこはストレスなく相手に失礼でないように切り替えて作文できるようになっていたので、3年間という短い期間ではあっても、営業部にいた経験は役に立っていると感じています。

ビジネス・マナーとは万事カルチャーに依存するもので、そうなっているのには背景や理由があります(時には、それっていつの時代ですかっていうような昔からの慣習ということもありますが)。

郷に入れば郷に従え。新しい環境で仕事をするときは「自分は何も知りません」という前提で、そこにいる先達がどうしているかを観察して、それに合わせるのが、自分の本質的な価値をスムーズに発揮するためのTipsです。

もちろんそれが譲れないポイントなら(たとえばわたしの場合、コンサルで関わるプロセスの要点なんかであれば)アサーティブになる労も取りますが、人様のマナーを変えるのは研修以外ではわたしの使命ではないので、そこでいちいち「自分はこう思う・・・」というのは、誠に無駄なエネルギー。

とか言いつつ、日本企業とやり取りをしている中で、いまだに全く想像もしなかった”慣習”にぶつかってずっこけることもあるんですけど…その失敗談は生々しすぎるので、またいずれ時効を迎えたら、また。

結論、ビジネスマナーとは円滑なコミュニケーションのためのものなので、その状況に合わない(相手から見てそぐわない)ならば柔軟に型を崩し、変容させてよい。しかし基本を知っていたら、いちいち考えなくて良い、迷えばそれに立ち戻れば良い省エネのツールということです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?