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すべての催眠は自己催眠である

ヒプノセラピー(催眠療法)はその有効性の割にあまり世に知られていません。資格をとったからには少しずつでもそれが何ということを説明していく必要がありそうなので、まずは、その浸透しない理由について考えてみました。

(1)「催眠」という言葉が喚起する、よくわからないイメージ

(2)「前世」という、証明できないコンセプトを扱ううさんくささ

大きくはその二つかと思いますが、今回はその(1)に対して、怖いものではないという説明を試みます。

先の投稿で「ヒプノセラピーは、催眠を介して潜在意識から言葉を引き出す」と説明しましたが、

Q. 潜在意識ってなに?

わたしたちの意識は、おもに二つの領域「顕在意識(Conscious)」と「潜在意識(Subconscious)」とで構成されています。

加えて第三の領域「超意識(Super Conscious)」というコンセプトもありますが、それは別の機会に

ざっくりいうと、「〜すべき」「〜が良い」などの理屈や判断を司っているのが顕在意識。一方で、感情や想像、あるいは肉体反応(涙、汗、体温など)とダイレクトに結びついているのが潜在意識(フロイトが無意識と呼んだものに近い)です。

生まれたての赤ちゃんは潜在意識のかたまりです。成長に伴い、環境に適応するために顕在意識を発達させ、おおよそ8歳くらいからその二つの領域の間に「門番(Gate Keeper)」とでも呼ぶべきフィルタを設けるようになります。

顕在意識も門番も、わたしたちが「今、ここに生きる」ために欠かせない大切な心の機能です。大人たるものは顕在意識のおかげで、まっとうな会話をしたり常識人としての仕事をしたりできるのです。門番のおかげで、潜在意識の領域でふわっと浮かぶ空想や感情をそのまま表に出したら「変な人」と呼ばれます。

しかし、本来の意識領域全体を考えると、実は潜在意識の占める割合のほうがずっと深く広くて、意識全体の8割以上と言われています。わたしたちがどんなに理知的であっても、顕在意識に忠実であろうとしても、その大きな潜在意識の影響を全く受けずに生きていくことは不可能です。

例えば「あっ、無意識に〜してた!」「夢中になって、気がついたら〜が終わってた!」「ダメだと思ってるのに、また〜しちゃった!」「考える前に体が動いた!」というのは、この潜在意識の働きです。

Q. 催眠ってなに?

催眠とは、言わば、その顕在意識と潜在意識との間の門番を一時的にとりはらった状態です。門番がいなくなるので、普段はおさえられている潜在意識領域のイメージやデータに容易にアクセスできるようになります。図を描いてみました;

門番をとっぱらうだけなので、顕在意識もずっとそこにいるというのがポイント。ヒプノセラピーは、この状態に入ったクライアントが、催眠師の問いかけに対して、自然に湧いてくるイメージを言葉にしていくことでセッションが進みます。でも、顕在意識もそこにあるので、そこで話していることはすべて普段と同じように自覚できます。

この点が誤解されがちですが、催眠下のクライアントは、自分が言いたくないことは言わなくて良いので、望まない秘密が暴かれることはありません。

忘れていた記憶やイメージに遭遇して、思いがけず激しい感情が溢れることはよくあります。

たとえば、催眠下で幼少期のトラウマの記憶を思い出しても、その詳細を共有することがためらわれる場合、クライアントは「今は言いたくありません」と伝えて良いのです。それでも心の中で対話を進めてもらうことでセッションの継続は可能です。

そして催眠から醒めたあとにも、そこで行われたダイアログは、むしろ目を閉じて集中していた分、はっきりと記憶に残るものです。

これが、催眠と睡眠との大きな違いです。眠ると顕在意識がシャットダウンされた状態で、寝言は自覚できないし、もし奇想天外な夢をみても、目が覚めたら概ね忘れてしまいます。

催眠に関する誤解の原因になっていると思うものが、マジックショーの催眠術(ステージ・ヒプノといいます)で「犬になれ」と命令されて「ワン」というようなやつ。あれも催眠術をかけられている本人は、実は自分が何をしているかをわかってやっています。衆目の中で何を期待されているのか、どうしたらみんなが喜ぶのか。マジシャンはそれに応えたいという被催眠性・被暗示性の高い人を見極めて舞台にあげるのです。催眠下の人は、本人がそう望むならば嘘をつくこともできます。

ヒプノセラピーにおいては、そのイニシアチブを握っているのは、終始クライアント本人です。催眠師は、催眠への導入の手法やその世界の安全な歩き方を知っているガイドです。いわば、すべての催眠は自己催眠です。それをしたい(自分の潜在意識領域に深く入ってみたい)というクライアント本人の意思があってこそ成立するものなのです。

Q. どんな人が向いてるの?

「意思の弱いコントロールされやすい人が催眠にかかりやすいのでは」というよくある誤解ですが、私がヒプノセラピーをおすすめしたいのは、実は、生きるためのヒントを自分の中に見つけたいという強い意思を持つ人です。そして、そのセッションは目を閉じて自分の潜在意識に集中し、イメージを言葉にしていくというものなので、集中力があり、想像力が豊かな人にこそ向いています。

ずっと昔に読んだものなので精確に引用できないですが、確か「風の谷のナウシカ」オリジナル漫画の終盤で、森の人の案内でナウシカの精神が腐海の深部を旅するシーンがあります。その豊かさに驚くナウシカに、森の人が「これはあなたの世界ですよ、わたしはただのガイドです」的なことを言うんです。あれは潜在意識的な世界観を描いていたんだなって思います。

※ ヒプノセラピー関連のblogはこちらのマガジンにまとめています。

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