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青春18切符のご利用には、青春の勢いが必要でございます

昨夜の24時15分。駅の電気が消えた。
無人駅にあっても、遠隔操作できちんと消されるのか。
残る光は、自動販売機の白と、電光掲示板の赤だけになった。

電光掲示板は、つま先がつっかかるようなカクカクした動きで、何度も同じことを言う。

【湘南新宿ライン 遅延】湘南新宿ラインは、台風の影響で、遅れと運休が出ています。
【上野東京ライン 直通運転中止】上野東京ラインは、台風の影響で、高崎線および宇都宮線の列車の、東海道線への直通運転(東京~上野間)を終日中止します。
・・・

ベンチに座ったまま、ため息をついたはずが、途中から咳になった。
あと7時間半をここで凌がねばならない。

場所は、万座・鹿沢口(まんざ・かざわぐち)駅の改札前。
久しぶりの野宿であった。

さて、一日一恥、まさまさのターンです。

自由散策が袋小路に至るまで

2019年9月9日、台風一過の東京は、いい天気であった。
灼熱の太陽は、去る日の栄光を取り戻したかのようだった。

そんな日中、日本橋にある耳鼻咽喉科を受診した。

明瞭な説明に、つつがないオペレーション。多言を弄せず、検査をベースに診断を付けていく様は、まさにプロのお仕事か。Google Mapでの評価は、高評価と低評価に二分されていたので、迷わず☆5を付けた。

喉鼻の炎症が、鼻と耳を繋いでいる耳管を塞ぎ、耳の内圧を狂わせた結果、(メカニズムは忘れたが)液体が溜まり、中耳炎になっている、と。「太鼓の中に水が溜まってるから、いい音が鳴らないんだよ」とのことだった。抗生物質で、喉鼻の炎症を抑える治療方針でゆきましょう、と。

この辺の器官が繋がってることや、感染性なので市販の咳止めでは効果がなかったことなど、しっぽりと理解できた。

薬を貰えばこっちのもんである。
ささっと飲んで、僕は遠出を決意した。

こないだ買った青春18切符の有効期限が、あと2日に迫っていた。

自称中級者が一番痛い目を見る

ところ戻って、袋小路。

デジタル・ネイティブかは知らないが、僕はあまり詳細に旅の計画を立てない。その行く先々の流れの中で、吹いている風に乗って、着くところに、着く。そんなやり方をしている。

こんなことが出来るのも、治安の良さや、スマホによるところが大きい。着地を考えるのは、着陸態勢に入ってからでも、十分に間に合う。

ー都市圏ならば

台風の煽りを受け、乱れたダイヤに適当に運ばれて、途中の分岐をこっちかな、あっちかなとやって、ドンツキまで来てしまった。到着は22:00ぐらいだったと思う。台風の影響で、各路線が遅くまで走っていた。

万座・鹿沢口駅の時刻表

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渋川というところで乗り換え、この吾妻線へ「こっちかな」をやった時に、気配は感じていた。もしかしてこの先、宿ないんとちゃうかなと。

Bookingでの検索には、早々に見切りをつけ、Google Map内での宿・旅館に直接電話をかける作戦に切り替えた。

「ばあちゃんは、もう寝ました」
「今日は一杯ですね…」
「生憎今日は、どうもすみませんー」
etc....

なんという大盛況。どこもかしこも空きがない。
ダイヤの本数と合ってない。

空いてる宿を見つけたらいつでも降りる予定だった電車も、こうして無事、終着駅の万座・鹿沢口駅に到着したのだった。

最後に頼るは、大手のキャパシティ

駅から約7km弱と距離はあるものの、チェックインも24:00まで可能で、20:00以降は「やった値、得だ値、ぜひ来て値!」という素泊まりキャンペーンがあると記載のあった「嬬恋プリンスホテル」が頼みの綱であった。

電話をすると、まずは予約センターを経由し、要望を汲んだ上、現地ホテルとやり取りする流れになる(クレーム対応などに有効なのだろうか)。
「今日これからの当日チェックインの可否と値段」を尋ねた。

現地スタッフに繋がり、チェックインは可能であることと、ツイン部屋の1名利用になるため、値段は11,600円になることを告げられ、検討しますと電話を切った。

あれ、高いな。やったね、とくだね、どこいった。
5,000円ぐらいのハズやけどなぁ。

念の為、Web予約完了の手前の段階まで進めた上で、もう一度電話をして、このまま予約をしていいものか確認する。現地とネットで、条件に差があるというのは、ままある話でもある。

予約センターでは、「出来るのであればそのまま予約して頂いて構わないのですが、一度現地と確認します」と告げられ、再度、現地のおっさんが通話口に現れた。

おっさんは、小さじ1杯分ぐらいの諭すような言い方で、現在のタイミングでは、そのまま予約しようとしても、エラーとなり予約は出来ないはずであること、そして、「お客様歩いてこられるんですか?」の問いかけに「はい。1時間半程度はかかると思いますが、チェックインの締め切りには間に合うかと」と自信ありげに答えた僕には致命的だったのが、

「その道、軽車両のみ通れる有料道路を通過するんですよねー。バイクも125cc以下では駄目でして」と、知らないカードを繰り出す、情報格差。余裕の横綱相撲であった。

野宿が確定した。

すぐおいしい、すごくおいしい

日中の東京は灼熱だったが、山間である、嬬恋・草津のお膝元のここいらは、涼しいと肌寒いの間ぐらいの気候であった。

まずは体力が肝心だ、と駅前に1件あった、セブンイレブンで夜食を買う。

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別売りの温泉卵をトッピングしているのが、大人の嗜みである。(ちゃんと卵が入ってるとは知らなかった)「ふんわりなめらか とろふわかきたま入り」と真ん中に書いてることに今さら気付く。

でも恐らくこれは逆。「大人の嗜み」がしたかった僕は、もともとのカップラーメンに卵が入ってなくても構わなかった。僕は無意識的に、目に入ったかもしれない「ふんわりなめらか とろふわかきたま入り」を無視したのだろう。

改札前に戻る。ここのベンチには、いい感じで座布団が敷いてある。ここで野宿をした人も、過去に幾人もあるのだろう。幸い一箇所、コンセントもあった。

さて9日の月曜日は、一日一恥の僕の担当日だ。

何を書こうかな、まずは読書でもしてみるか。そんな風に本を読んでる隙に電気が落ちた。

抱きしめるものに、苦しめられる

真っ暗になると出来ることはそうないことに気が付いた僕は、まずは、とりあえずちょっと寝ようと試みた。

が、眠れない。このあたりから、咳も止まらなくなってきた。咳にも程度がある。「ごほっ」とか「げほっ」はまだ序の口で十分に耐えられるのだが、これが「ごぉおお」になるとちょっとキツい。連続で出ると、涙目になり、もしかして吐くのかな?と思わせる。

寝てしまえば楽になるハズ。寝よう寝よう、と試みるものの、眠気 vs. 咳の戦いは、10秒とあけずに「ごぉおお」を繰り出す咳が、ついに押し切った。

キツすぎる。思わず起き上がる。どうしたことか。なぜさっきからこんなに咳が出るのか。夜だからか。

ドアを開けて外に出る。寒いが、外のベンチに座っていると、不思議と咳が止まっていることに気が付いた。あれ、これはなぜだろう。

なぜ咳が出るのか、をきちんと考えてなかった。そうか、異物を吐き出そうとしているのだな。チリやホコリ、その他何かしらの微小なもの。

僕がこれを枕にと抱きしめていた座布団が、怪しかった。吸い込んで吐き出して、吐き出した勢いでまた吸い込んで…。

そうして、寒いが咳の出ない「外」と、寒くないが咳がでる「中」を、交互に行ったり来たりして、朝を迎えた。

万座・鹿沢口というステキな町

この町は、
・朝早くから無人駅の周辺や、構内に至るまでを、掃除するボランティアの方々がいること
・朝の少ない本数をめがけて、家から駅まで車で送り迎えして貰う学生が大勢いて、駅で「行ってきます」の声がよく聞こえること、そして彼らの電車までの時間の待ち時間に対応するベンチであること
・山間の朝は美しく、綺麗に晴れた空は、吉日の始まりを思わせること

そんなことを感じた。駅のベンチで佇む僕に、一人「大丈夫?」と心配そうに声を掛けてくれる女性もあった。いい町だなと思った。

かくいう僕は、7時48分の下り電車に乗って、長野を抜けて日本海の予定も、乗った電車で眠りこけ、単線の吾妻線の折返し運転を乗り続け、最終的には全てを諦め、高崎から太平洋側の「熱海行」に乗り、幾度も乗り換え、24時15分に奈良県の地元の駅にたどり着くまで、ひたすら咳と戦い移動し、くたびれ果てた。

自宅のベッドで横になる。咳が出る。

最後に、ここまで読まれた方に3つほど、伝えておきたい。

・「青春18切符」は体調と併せたご利用がオススメです
・「嬬恋・草津」はよいところのようですよ
・山間の宿の予約は「1週間程度前」に行うのがオススメです

これだけのことを学びました。あとついでに、もう一言だけ。

個性とは、強みではなく、弱みの裏返しではなかろうか

(以上)

よくぞここに辿り着き、最後までお読み下さいました。 またどこかでお目にかかれますように。