木内龍(きうちたつる)

高円寺「俳句サロンりぼん」を運営しています。キャッチボールは毎週木曜日12:30から。

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最近の記事

電中日記 アキコ18

呼び出し音はすぐに止まり、アキコが出た。 「もしもし」という元気の無い声を聞いて、泣き疲れたのだろうとすぐに分かった。 10秒ほど、長い沈黙をしてから僕が口を開いた。 「あの、ごめんね。」 受話器の向こうから言葉にならない嗚咽が聞こえてくる。 「ごめん、今メール見てさ、アキコにひどいことしてたんだと思ったんだ。いくらなんでも今日の態度はひどかったよね、ほんとにごめん。ヤリ目で付き合ってるとかそう言うんじゃ無いんだ」 「…うぅ……うん」 動物の鳴き声のような高い音でアキコ

    • 電中日記 アキコ17

       それから学校を出てアキコに会いに行くことが多くなった。週に2,3度会うようになったが会いたいという直接の理由はセックスだ。2回目に会ったときは駅前にあるカラオケボックスで身体を触り合った。3回目に会ったときには、あっけなく童貞を卒業してしまった。  あるとき服を脱いだ状態でカラオケボックスの電話が鳴って「お客様、当店はそういうことをする場所ではございませんので」と言われて恥をかいてから、アキコの家に行くようになった。両親が居ない曜日にはいつもアキコの部屋に上がりこんだ。

      • 電中日記 アキコ16

         付き合い始めて3日後にアキコと会った。僕はその日の放課後、校門を出て駅と反対方向にある大きな公園に歩いて向かった。公園の入口にはすでに自転車のハンドルを握って立っているアキコの姿があった。白のブラウスに紺のカーディガンを腹に巻き付けていた。僕は彼女の制服姿をそのときに初めて見た。  改めて二人で会うというのは恥ずかしいもので、「こんにちは」「おつかれ」なのか、なんて挨拶をすればいいかも分からず近づいていくと、彼女の方から声を掛けてきた。 「あっタツル君」 「おー、久しぶ

        • 電中日記 アキコ15

           小橋から彼女のメールアドレスを教えて貰っていたので、帰りの電車からメールを送ることにした。件名に自分の名前を入れて、本文に「これ俺のアドレス」と送ると、件名の頭にRe:が一つ付いた返信がすぐに送られてきた。「ありがとう、嬉しい」という言葉に笑顔の顔文字が添えられていた。僕とアキコは携帯電話のキャリアが異なっていたので絵文字を送り合うことはできなかったが、カラーの液晶画面にモノトーンで刻まれた顔文字から素直な感情がよく伝わってきた。人に見られるわけでもないけれど、電話帳の名前

        マガジン

        • タヤマの客観的日誌
          12本
        • 自分の日誌
          1本
        • 電中日記
          19本

        記事

          電中日記 アキコ14

           ファミレスを出たのは夜八時過ぎで、アキコが親から連絡がきたから解散することなった。連絡が来なければきっとずっと居ただろう。彼女達は自転車に乗って帰った。僕と小橋は二人で駅に向かって歩いた。 「そいやさ小橋、トイレなげーよ」 「いやそりゃ、せっかく二人っきりになれんだからねえ」 「あーなるほど、そっちがね」 「まあね。ミカはやっぱ可愛いよなー。というか美人か」 やっぱそういうことかと思った。 「まあでも今彼氏いるんだよなー」と小橋は言った。 「あーやっぱ、そうなんだ」と

          電中日記 アキコ14

          電中日記 アキコ13

           僕はそれからもアキコのことを敬遠しつつ、アキコのそばにいるミカには会いたいという気持ちをずっと持っていた。しかしそれはなかなか叶うことではなかった。  二学期が始まって一週間ほどした頃、授業後に小橋と学校近くのファミレスに寄った。上島が途中まで一緒に居たけれども、小橋がミカにメールして合流する予定になったあと「わりい、俺今日塾だった」と笑いながら言って、そのまま帰ってしまった。  私立中学に通う僕たちは、進学のために塾に行く必要性が無いのでそもそも塾通いをしている人は少

          電中日記 アキコ13

          電中日記 アキコ12

           夏休み中に完治という僕の目標は残念ながら達成できず、松葉杖を片方つきながら登校し始めた。  二学期の始まりといえば防災訓練からだった。全校生徒がグラウンドに集まっている中僕はただ一人、ケンカでボコボコにされた不良のような風体をしていた。高校のエスカレーター進学が不可能と決まってから、素行を気をつける必要もなくなったため、髪の毛は黒く染めずに学校に行った。  二学期が始まってから、小橋と上島にもっぱらアキコのことをネタに笑い話をされた。ミカが圧倒的な美人である以上、二人で

          電中日記 アキコ12

          電中日記 アキコ11

           事件があってからも引きこもり生活が続いたが、レントゲンに写ったスネの骨はかなりくっついて、ギプスは膝から下だけになった。  アキコから突然告白されたのは二学期が始まる直前のことだった。その日は塾帰りに小橋から電話がかかってきた。 「おーう!ターツルー?元気ぃー?」 「いえーい元気だよ!こないだ呼んでくれてありがと」 「いやまさかね、ホントにあの格好で来ると思わなかったよ。上島はまさか来ないっしょって言ってたから。さすがタツルだぜ」 「いやあ、だって小橋にあのノリで誘われ

          電中日記 アキコ11

          電中日記 アキコ10

          「お待たせい!」  竹谷は元気よくやってきた。 「おまたせー」  サッちゃんも続いた。サッちゃんは小柄でまっすぐの髪をした女の子だった。  公園の外に自転車を止めて、全員でタコ滑り台に登り中に入った。タコの内部は円形で狭く、4人も居れば窮屈に感じた。天井は低くて立ち上がることができない。電気も無いので暗かったが、公園にある照明や街灯の明かりが滑り台側の穴から差し込んでいて、目が慣れてくればハッキリと分かった。  僕は皆より先にタコに登って入り、重いギプスを巻いた右足を滑り

          電中日記 アキコ10

          電中日記 アキコ9

          公園に行く途中、「ふつうに酒が買えるコンビニ」があるというので一緒に向かった。 店に入るとアキコは慣れた手つきでカゴに缶チューハイとスナック菓子を入れていく。アルバイトらしきレジの店員は、金額を言う前に一度ちらっとこちらを見た後、黙々と会計を進めた。 アキコの自転車の前カゴに大量の缶チューハイとスナック菓子を入れて、タコ公園に向かった。竹谷達はまだ着いていなかったので、僕らは公園の中にあるベンチに腰掛けた。 タコ公園というのは通称で、公園の中心に直径が10mくらいありそ

          電中日記 アキコ8

          彼女は親に見つからないように、家族が寝静まってから家を抜け出してきたらしい。 「タツル君のうちは、親厳しくないの?」 「うーんまあ、大丈夫なんじゃ無いかな、生きて帰ってくれば」 「何それー、うらやましい」 僕の両親は基本的に門限といったことは口を出さなかった。 きっとどこかで心配はしているのだろうけど、そのことを自分が思ってしまうと負けた気がして、考えないようにしていた。 深夜の住宅街をゆっくりと2人で歩いた。100mほど歩いては、腕が疲れて休んだ。アキコも一緒に待って

          電中日記 アキコ7

          玄関を空けると自転車にまたがったままのアキコがいた。 竹谷と先に立ち話していた。 「えーとタツル君?、おまたせー」 アキコの声は少し低くて元気な声だ。夜中なので少し抑えめの音量とはいえ、とてもはっきりと聞こえた。 「おう、よく名前覚えてたね」 「うん、ほんとはさっきタケちゃんに確認したけどね」 3人で小さく笑った。 いつもの「飲み」は近所の公園で行われるらしく、これから段取りを決めるところだ。美人のミカは帰ってしまったけどもう1人別に女の子が来るということだった。

          電中日記 アキコ6

          一旦解散してからその日の夜、竹谷の地元の住宅街にある公園で行われる「飲み」に向かった。 結局ミカは明日仕事がある、と言って帰ってしまった。初めはアルバイトでもしているのかと思っていたが、どうやら芸能関連の文字通り仕事らしい。 ついでに上島は彼女に会うと言って、小橋とミカを「送る」と言ってそれぞれ帰ってしまった。僕はミカのことしか頭になかったので、彼女がいないのはとても残念だった。 竹谷のママチャリの荷台に腰掛けて、彼の自宅に行った。 二人でエロ動画を鑑賞していたら、彼の

          電中日記 アキコ5

          夏休みも終わりにさしかかるったある日の昼過ぎに、小橋から突然電話がかかってきた。 「しもしもー?タツルー?」 勢いがあり、かつ意表を突く第一声に電話越しに吹き出して笑った。 「お、おう……どうしたの!」 「今ねえ、上島と竹谷と遊んでるからおいでよ!」 ギプスでまともに出歩けない患者に対して、これだけ気軽に遊びに誘ってくれる人は見たことが無いし、きっとこれからも出会わないだろう。場所も聞かず、とにかく 「おう行く!」と即答した。 相変わらずつま先から腿まである大

          電中日記 アキコ4

          はっちゃけることの無いまま、溶けるように夏休みは過ぎていった。 お見舞いで貰った大量の漫画を2回ずつ読み通した。 毎年一緒に行った母の田舎への盆の帰省も今年は行かなかった。 家に籠もり昼夜は逆転して、また戻り、また逆転して、一日が何時間だったかも分からない生活が続いた。 怪我をする前には今年の夏休みには髪を染めてみたいと思っていた。夏休み期間に髪を染めるというのは、中学生にとって唯一の合法的な規則への抵抗だ。 しかしギプスをして家に引きこもっていた僕にとって、その行為は

          電中日記 アキコ3

          8月中旬、上島と小橋がお見舞いに来てくれた。 大量の菓子のマンガを持ってきてくれた。 マンガほど暇人をいたわるものはない。最高の差入をしてくれたなと思った。 エアコンを効かせた部屋で男三人で会話をした。 「タツル最近何してんの?」と小橋が言った。 「何もしてねえよ、ゲームして、オナニーして寝てる。あとは病院行ったり塾行ったりしてる」 「えっ塾行ってんの!?タツルが?」 「ああ、うん俺高校受験しなきゃいけなくなったから」 「え、マジかよ!うちの高校行けないのかよ」 改めて