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幻想的な時間と雪の物語。誰もが持つ一度は戻りたい思い出の世界。ウルトラマンコスモス「雪の扉」

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ウルトラマンコスモスとは

ウルトラマンコスモスは2001年に作成されたウルトラシリーズの1作品です。
2001年はウルトラマン生誕35周年であり、かつ円谷プロダクション創始者円谷英二氏の生誕100周年と言うとてもめでたい年に作成されたウルトラ作品になります。

ウルトラマンコスモスの特徴として重要なものが、怪獣を駆除ではなく保護する対象として描く作品であると言うこと。
初代ウルトラマンから基本的に怪獣は街を壊し退治する対象でした。
しかし35周年を記念とする本作は「優しさ」を全面に押し出し、ウルトラマンコスモスの基本形態となるルナモードにはボディカラーを優しさを象徴するような青が採用され、戦闘スタイルも決して相手を傷つけないような流す殺陣が採用されました。
怪獣保護という観点も、主人公春野ムサシが所属するチームが、怪獣保護を任務とするチームEYESですし、怪獣を保護・観察するために怪獣が住む島も設定として用意されています。
また、怪獣保護だけだと倒すべき敵がいないため敵を倒すというカタルシスがないことから、それをクリアするためにカオスヘッダーという作中を通してコスモス及びチームEYESの敵となる存在が設定づけられます。

そんな35周年を記念とする作品は、当時基本的に4クールで作られていたコスモスは1クール延長され、令和の今でも破られることがない65話というロングランを記録しています。
当時ウルトラマンコスモスの”優しさ”が受けいられるか分からず、作成していた制作陣でしたが、このように当時のメイン視聴者である児童には多く受け入れられたという作品となっています。

本エピソード雪の扉は、ウルトラマンティガで脚本家デビューした太田愛さんの手がけたエピソードです。
筆者はこのウルトラ作品における太田愛さんの脚本エピソードが本当に大好きで、この雪の扉もその類に漏れずとても大好きです。
太田愛さんが描く”ウルトラマンのいらない”物語、ウルトラマンでなければ描くことのできない幻想的な美しい物語が本エピソードの雪の扉になります。もう本当に雪の扉における幻想的な雰囲気が筆者は大好きです。

また、監督は脚本家太田愛さんとタッグを組んでいくつもの幻想的なウルトラ作品をこの世に送り出した原田昌樹監督です。
筆者が大好きなウルトラマンダイナ「少年宇宙人」も原田昌樹監督と太田愛さんのタッグであると知って、この御二方のタッグの作品をもっと見たかったと今でも非常に思います。

「雪の扉」大まかなあらすじ

初夏、中学時代最後の陸上地区大会で敗れてしまった暁少年。
周りの同級生が受験に向けて勉強をする中、暁少年は日課としているランニングを欠かさない。
そんな毎日の日課の中で、ある日出会ったのが街の公園で不思議な行動をとるトマノ老人。トマノ老人は「雪の扉」が描かれたカードを両手高々にあげ、音楽をきかせるのであった。
少年と老人の奇妙で不思議な交流から暁少年が感じとることとは?

考察・感想

中学生の暁少年とトマノ老人の交流を通して「今を生きることの大切さ」を教えてくれるエピソードです。
本エピソードの主人公は紛れもなく暁少年です。エピソード全体が暁少年の視点で描かれており、エピソード内でも終始暁少年の心情がセリフとして書き起こされています。
その証拠に本来のウルトラマンコスモスの主人公であるハルノ・ムサシ(ウルトラマンコスモスは)は本エピソードが始まって12分が過ぎた頃に初めて登場します。

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このエピソードで主軸となる暁少年は中学生であり、陸上の短距離走をやっており、0.2秒という時間の世界で競い合う世界に生きていました。
対してトマノ老人は過去の思い出の世界をもう一度体験するために過ぎ去る時間を必死に追いかけていました。
この二人の対比が本当にとても良い。

トマノ老人を演じるのは、昭和の仮面ライダーシリーズの死神博士で名演技を披露されました天本 英世氏です。天本氏の演技が本当にお見事。本エピソードに対して、味わい深い演技で印象強くしてくれています。
特に、筆者がお気に入りなのが暁少年の地区大会の話を聞いて、悔しがるシーン。あれだけ視聴者に”悔しい”という感情が伝わる演技は今まで出会ったことがありません。

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お話も御伽噺のような”グラルファン”の伝説を主軸に進んでいきます。
グラルファンは思い出の世界を司り、雪の扉が開くと思い出の世界へ連れていってくれます。
まだ愛する妻がおり、子供もいてバイオリンも弾くことができた思い出の世界。誰もが持っているはずの帰りたい思い出です。おそらく藁にもすがる思いでトマノ老人は過ぎ去ってしまった時間を取り戻そうとしたのでしょう。
しかしトマノ老人はこの思い出の世界をみて察する時の暁少年とのやり取りが良い。

トマノ:「こんな風に見て初めてわかりました。あれはみんなあそこにいる私。あの時の私の物なんです。あの時間をもう一度生きることはできない。一度きりです。」
暁少年:「一度きり・・・」
トマノ:「そう。どんな一瞬も一度きりです。」
(暁少年の陸上の地区大会の回想)
暁少年:「一度きりだから忘れない。一度きりだから空っぽになるくらい何かに本気になったりする。」

まだ中学生の暁少年が学ぶ”一度きり”という言葉。
こういう掛け替えのない経験を筆者も10代でしたかったなぁ・・・・

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ウルトラマンコスモスのもグラルファンを元の世界に戻すために最後一瞬だけ登場します。ムサシの変身も非常に静かです。ぶっちゃけ、ウルトラマンが登場しなくても成立してしまうのが、本エピソードの凄いところ。
もうウルトラマンの描写が邪魔である可能性すらある幻想的なエピソードに仕上がっています。。

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雪の扉を開いた代償に消えてしまうトマノ老人。この時の暁少年との会話も非常に印象的です。

暁少年:「これ。」(雪の扉のカードを返そうとする)
トマノ:「そのカードは君が持っていてください。お別れです。」
暁少年:「お別れって?」
トマノ:「扉を開けたものは、この世界の時間から消えなければなりません。覚えていてください。私が幸福であったということを。誰に知られることもない、平凡な一生でしたど、精一杯生きた。心から寂しいと思えるほど大切なものを持つことができたんです。」
(静かに握手をする二人)
暁少年:「忘れない。」
トマノ:「ありがとう。」

雪の扉のカードを受け継いだ暁少年は、いつか雪の扉を開いてしまうのでしょうか。そういった含みを持たせた上で終わらせる手腕は見事。
エピローグの暁少年のアナウンスもとても良いです。

暁少年:「僕は思い出を作るために生きるわけではない。でも、いつか僕がこの世からさっていく時、精一杯いきた。そう思いたい。僕は走る。ゴールが見えなくても、一番でなくても。僕は大人になる。」

暁少年は、トマノ老人から雪の扉のカードを受け継ぎましたが、おそらく今後雪の扉を開くことはないと思います。

このエピソードを見るたびに一度きりの人生を後悔ないように歩んでいかないとなと考えさせられます。EDの”心の絆”も良すぎるんですよ。
誰もが一度は戻りたくなる思い出の世界。
そんな思い出の世界を題材にして、幻想的な映像美で彩った素敵なエピソードが雪の扉でした。

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