古本屋巡りの味わい

 月に1回は京都の古本屋巡りをする。

 特にお気に入りの古本屋は行けるときにはいつでも行きたい。

 古本好きの方にはわかっていただけると思うが、古本屋には新刊書店にはない独特の味わいがある。

 新刊書店はよほどの大型店でない限り、大体どの店に行っても品ぞろえは同じである。今人気のベストセラー作家の小説や自己啓発本、新書、コミック、音楽やファッション、くらしなどの雑誌といったところであろうか。

 その小ぎれいな店舗に、古本屋のような魅力はない。もちろん、最新の情報が得られるのは新刊書店の魅力であり、通勤途中にある新刊書店には、毎日顔を出しているので、新刊書店が嫌いなわけでは決してない。というか好きである。

 それでも、やっぱり、古本屋は特別な存在である。

 まず、店の雰囲気や品ぞろえが、店によって大きく異なる。

 昔ながらの雰囲気で大量の古書が山積みになった狭い店の奥に、不機嫌そうな店主がでんと座っていて、店に入っても「いらっしゃい」もなく無視される。そんな店に入ると「ああ、古本屋さんに来た」といううれしい思いがこみ上げてくる僕は変でしょうか。

古書

 そのような伝統的な古本屋とは違う新しいタイプの古本屋も最近増えてきた。そのような店はたいてい、20代~40代くらいの本好きが高じて古本屋になりましたという店主が多いように思う。

 私のお気に入りの店は京都市左京区、銀閣寺の近くにある古書善行堂である。店の前に立つと町家風の小さな建物に紺地に「古書善行堂」と白字で書かれた看板がかわいい。店の前に100円から200均一本が置かれているのは、他の古本屋と同じだが、一歩店に足を踏み入れるとスピーカーからはジャズやクラシックが流れ、レジカウンターの近くでレコードプレーヤーが回っている。店内は木の雰囲気でこざっぱりとしており、入って右側に、ちくま文庫などの文庫がならび、中央の棚には講談社現代文庫などの文庫類、右側の棚には手前から、クラシック、ジャズ等の音楽関係、詩集、小説の順で単行本が並んでいる。

善行堂

 そして、この店の特徴は一部の新刊書を扱っておられることである。そのうちの1つ、夏葉社は以前も書いたが島田潤一郎氏が1人で立ち上げた1人出版社である。個性的な本を美しい装丁でつくっておられ、今人気の出版社だが、発行部数がそんなに多くないこともあり、どこの新刊書店でも手に入るものではない。僕はもっぱら善行堂さんで買っている。

 そしてもう1つの特徴は、店主の山本善行氏である。

 古本ソムリエとも呼ばれる同氏は、夏葉社でも執筆されているなどエッセイストでもあり、何よりも無類のおしゃべり好きである。

 私は古本屋の店主とこんなに親しくお話できるのは山本さんだけである。

 その知識は深く、おすすめの本やジャズの話を伺っているだけで時間が経ってしまい、うっかりすると店の本をチェックする時間がなくなるくらいである。でも、そのお話を聞いているだけで楽しい。もっと本が好きになる。

 古書善行堂は、そんな稀有な店であり、今、僕の一番のお気に入りの店である。

 とにかく、古本の世界は奥深い。若輩者の僕など、そのほんの一部しか知らない。違うお店に入るたびに、見たことのない本に出会い、こんな本があったのかとうれしくなる。そして、お店ごとの値付けの違いも勉強になる。

 とにかく、古本が、古本屋が大好きである。一歩店の中に足を踏み入れると、そこ僕の知らない本の世界。そして、僕は店の中に充満する古本のあの独特の匂いを胸いっぱいに吸い込み、また新たな出会いを求めて、真剣に本棚と向かい合うのである。


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