DSC_0796_公園

推測(ショート小説)_20190602安田記念

私は独身貴族の男性でマンションに住んでいる。午前中にネット系のフリーランスの仕事をし、夕方、家の近所の大きな公園で池の魚や鳥たちを眺めながら、ベンチで読書をするのが息抜きとなっていた。

きょう午後4時、私はいつもの公園にやって来た。砂利道を歩くと、夏の日差しかと思うような照り返しがまぶしい。入口からずっと歩き、公園の中央付近のベンチに腰を下ろした。池のコイを眺めながら、手提げカバンから本を取り出した。
向こうのベンチでは、おじいちゃんとおばあちゃんたちが4人、子供連れの若いお母さんと、めがねをかけた馬ヅラで髪の長い中年男性も座っていた。
のどかな公園の中で、私は本に夢中になっていた。
30分、いや1時間近く経っただろうか。本に落とし続けていた目を上げ、ふとあたりを見た。
公園の中央で高校生2人が対峙し、なにか話しているようだった。
片方は背が低く、色白で鼻の横に大きなホクロがあり、白い半袖シャツにグレーのズボンをはいている。もう片方は色黒で薄いブルーの半袖シャツにグレーのズボンをはいていた。どうやら異なる高校の制服のようだ。
その背後のベンチには薄いブルーの半袖シャツを着た高校生2人と、Tシャツにスエットというカジュアルな格好の同年代風の若者と黒のサングラスをした若者が2人座り、目の前で話し合っている高校生たちを注目していた。
いつのまにか、おじいちゃんやおばあちゃんたち、子連れの若いお母さんがいなくなっていた。めがねの馬ヅラをした中年男性も高校生たちの様子を伺いながら、そそくさと帰り支度を始めた。
「バチッ!」
ブルーのシャツが白のシャツの左頬を殴った。殴られた方がよろける。ブルーのシャツはもう一発殴ろうとゆっくり白シャツに迫った。白シャツは後ずさりする。近過ぎず離れ過ぎず、間合いを取る2人。ブルーシャツのほうはケンカが強そうだ。白シャツのほうは優しそうで抵抗する気もないようだ。それもそうだ。ブルーシャツの取り巻きしか近くにいない。白シャツのほうが負けるのは明らかだった。

めがねの馬ヅラをした中年男性がベンチを立ち、足早に出口のほうへ向かった。
私は白シャツを助けたいと思った。しかし、相手は取り巻きも含めると5人もいる。面倒なことにかかわりたくない気持ちが勝り、私も本をカバンにしまい、ベンチを後にした。
木々の上には大きな夕陽が傾いている。振り返ると、近過ぎず離れ過ぎず、2人が間合いを取っている。
――どうせすぐ終わるだろう。子供のけんかだ。
私は振り切るように公園の出口に向かった。しかし、白シャツが叩きのめされ、横たわっている姿が脳裏をかすめる。
公園を後にして、足早に家へ向かう。
交差点の交番に差し掛かり、机に警官が座っていた。
私は公園の高校生同士のけんかを伝えようか迷った。
警官と目が合う。私は目をそらした。
――もう今頃、終わっているかもしれないし。
私は伝えることなく、交番を通り過ぎた。向こうの空には大きく真っ赤な夕陽が目に入った。

晩御飯を食べ、シャワーを浴びて、あとは寝るだけとなった。
なにか心がもやもやしている。あのあと、どうなったのか。
テレビをつけてみた。
なんと、ニュースで真っ暗な公園がライトで映し出されていた。あの公園だ。高校生同士の殺人事件が起きたと報道されている。殺されたのは「鈴木翔一君」で、胸を刃物で一突きされたようだ。犯人は「少年A」と画面に文字が表示されていたが、2人の顔写真は映し出されていなかった。
私は下唇を噛んだ。ブルーシャツの色黒の高校生を憎んだ。弱者を殺すまでけんかするなんて。
と、同時に自分も責めた。
――なぜあのとき、止めてやれなかったのか。なぜあのとき警官に話さなかったのか。
私は寝床に入ったが、なかなか寝付けなかった。
ホクロが印象的な白シャツの高校生の顔が浮かんだ。とても優しそうで無抵抗の高校生を助けてやれなかった後悔の念がいつまでも心に残った。

翌日午前、仕事を終わらせ、昼ご飯を済ませ、普段より早くあの公園に向かった。本は持っていかなかった。
公園の出入口にロープが張られ、報道陣も外からカメラを向けていた。
現場検証が始まっているようだ。
私はふとロープの中で刑事と話している男性が目に入った。男性はめがねをかけ、馬ヅラで髪が長かった。きのう私の一歩先に公園を去った人物だ。
声が聞こえる距離なので、ロープの外から私は彼らの話し声に耳をそばだててみた。
馬ヅラの男が刑事に話している。
「刺した高校生は正当防衛だと思います。周りには相手の高校生の仲間ばかりでしたから」
――ちょっと待て。嘘をつくな!殺された白シャツの高校生に仲間なんて誰もいなかったはずだ。なんで犯人の味方をするんだ。この馬ヅラの野郎もブルーシャツの高校生たちのグルだったのか?
私は憤りを感じた。目撃者が嘘をつくなんて信じられなかった。白シャツの高校生が浮かばれない。
――私が本当のことをしゃべろう。
ロープの外にいる警官に自分も目撃者であることを告げた。
警官が私をロープの中に連れ込み、別の担当刑事を呼んでくるからここで待つように、と言われた。公園の中のずっと向こうの木々の後ろから刑事らしき人たちが姿を現した。
そのなかにひときわ背の低い少年が立っているのが目に入った。少年の鼻の横には大きなホクロがあった。


◇◇
さて、本日は安田記念。
④サングレーザーを狙う。
黒いサングラス・・・黒枠のサングレーザーが追い込んでくる。


(勝馬投票は自己責任でお願いします)
[今年の当たり]
〇ヴィクトリアマイル クロコスミア 11人気3着
〇大阪杯 ワグネリアン 4人気3着
〇中山記念 ラッキーライラック 6人気2着
〇フェブラリーS ユラノト 8人気3着 
〇共同通信杯 ダノンキングリー 3人気1着 
〇日経新春杯 ルックトゥワイス 5人気2着
〇中山金杯 ウインブライト 3人気1着

#ショートショート #ショート小説 #競馬 #umaveg #推測 #思い込み #殺人事件


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?