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日常の平穏はあなたの知らないところで誰かが努力して保たれている_20180805小倉記念

私の家は私道にある。
人がすれ違うのがやっとの私道に6世帯が相対して軒を連ねている。
私の家はその真ん中にある。
そんななか、入り口の1軒にたった一人の80代の住人がいたのだが、病気退院直後に養老院へ入ってしまい、この家は産廃業者が取り壊すことが決まっていた。
その前に、遠い親戚とおぼしき人たちが必要なものを物色しに来ていた。

ある土曜の午後2時ごろ、その家の大きなドアが外れ、向かいの家の壁に倒れ掛かっていた。大きなドア窓は見るだけでも恐怖を感ずるほど鋭角なガラス片となってあたりに散らばっていた。
そこはもうジャンプしても通れる状態ではなかった。
しかしその出来事に気がつき、その光景を目の当たりにしたのは私と母だけだった。
82歳になる母は何のためらいもなく、ほうきで片付けようとしていたのを私は遮った。
「外出する用事がなければ、しばらく放置しておこうよ。外出しなければならない奥の人たちが気づけば、掃除せざるを得ないから。だっていつも何かあったらウチが片付けているんだから。それにこの暑さだから熱中症になりかねないよ」と提案し、しぶしぶ母は従った。


以前から、みんなで使用する私道で何かあると、私の両親が処理してきた。
夏はゲリラ雷雨で下水が詰まり、みんなの玄関まで水たまりができたときも両親がマンホールを開けて、雨水は引いて行った。
冬は東京でも数年に一度は大雪が降ったりする。玄関のドアが開かなくなるほど積もった時もあった。その時も両親がその私道をすべて雪かきした。
私も会社勤務から自宅フリーランスとなってからは一緒に動いた。

しかし、そういうことを率先してやる住人が誰一人としていない。
というか、そういうアクシデントが起きた事実さえ知らない人たちばかりだ。


ドアが壊れて30分ほど経っただろうか。
ガラスの音がする。
「誰か気づいて片付けてんだろう」と私は母に言うと、母は「もしや・・・」と言って、父の部屋の覗きに行くと、父はいなかった。すると母が玄関を開けた。
母の予想通り、片付けていたのは父だった。
「危ないよ、軍手でもしないとケガするよ。どこか行くの?」と母が聞くと、「花火あっからよ」と父は答えた。
「花火って、こんな時間から行ってどうすんの。夕飯食べてからでも間に合うでしょ」
「いやあ、それじゃあだめなんだ」と父は大きなドアを持ち上げ、横にして壁に立てかけた。
「熱中症になるよ」と言っても聞かない。

父は認知症の進行を薬で緩和している。
一度言ったら頑として聞かない。
父は昔から花火となると、まだ日も沈まぬうちから出かけた。
祭りになると、午前中から出て行くし、浅草のサンバ・カーニバルには朝から出かけていく。

もう父に何を言ってもだめだ。むしろそこまで好きなら好きなようにさせよう。
父はすべてを片付けたわけではなかったが、なんとか通れるようにはした。
そしていそいそと出かけて行った。

私は2世帯住宅の2階に戻り、ラジオを聞いていた。
夕方5時半、ガラスの音がしたので誰か片付け始めたなと思い見に行くと、ほうきでガラスを集めている母の姿があった。

結局・・・

「待ってても誰もやんね」と言いながらガラスをつかんでいる。
私も加わって掃除を始めた。
するとそこへ奥の住人の50代の奥さんが帰ってきた。
事の顛末を推測できたのか、いつもの仏頂面から打って変わって満面の笑みで「ありがとう!」と言って、通り過ぎて行った。

母は彼女が玄関に入ったのを見届けると「あんな笑顔見たことない」と言った。
以前、母は町会の仕事で土曜の10時に家の玄関でブザーを鳴らすと、あの奥さんに「こんなに早く他人のウチに来ないでよ。ゆっくり休みたいんだから」と怒鳴られたそうだ。
その時同行していた町会の会長さんはびっくりしていたらしく、母は「色んな人がいますからね、気にしないで」と会長さんを慰めていたそうだ。

その彼女が笑みを浮かべて「ありがとう!」と言ったものだから、母も驚いたのだろう。
手伝ってくれはしなかったが、ここでドア窓が割れて、ほかのだれかが片付けてくれたという事実を知ってもらえただけで、私の両親には十分だった。

◇◇

さて、本日は小倉記念。
②レイホーロマンスを狙う。
この小倉記念はハンデ戦。ハンデ戦は胴元が日常の平穏を壊そうとしているレース。
ならば人気馬なんて買ってられん。穴馬レイホーロマンスが最後に突っ込んで予定調和を壊すだろう。

(勝馬投票は自己責任でお願いします)
[今年の当たり]
◯安田記念 アエロリット 5人気2着
◯高松宮記念 ナックビーナス 10人気3着
◯阪神大賞典 サトノクロニクル 4人気2着
◯弥生賞 ワグネリアン 2人気2着
◯京成杯 コズミックフォース 2人気2着

#エッセイ #コラム #競馬 #umaveg #日常 #平穏 #町会 #花火 #掃除

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