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白いあぶく(エッセイ)_20190804小倉記念

冷房を切り窓を全開にすると、ムッとした熱気が顔をなでた。
スーパーやコンビニのレジ袋であふれかえった乱雑な部屋を掃除しはじめる。
まるで高度経済成長期の汚染された多摩川に浮かぶ白いあぶくのようだ。

<貯めるのは 二千万より レジ袋>

こういう思いで、俺の部屋はレジ袋がポコポコと増殖し続けていた。
掃除が苦手な俺は、今しかないと思い立った。きっかけとなったのは、楽天が片づけコンサルタントのこんまりちゃん(近藤麻理恵さん)の株式過半数を取得し買収した、とのニュースを見たことだ。こんまりちゃんに叱られそうな部屋だった。
1か所片付けが終わるごとに集中力をなくし、「きょうはこのへんにしといたろ」のセリフが頭をよぎる。ダメだ。俺の性格からして、当分、全部完了気分が頭を支配すること間違いない。だましだまし,集中力をつなぎとめる。

あごからぽたぽた汗が落ちる。
古新聞を片付け終わり、ひもをかけた。上下を反転しながら、ひもの先端を結ぶ。
ふと、前面の記事が目に飛び込んできた。
筆頭株主のヤフーがアスクルの創業社長再任に反対し、社長が退任したらしい。
片付けの手が止まり、新社長の顔写真を見る。
――ダメだなこれ。人徳が薄そうな顔している。創業社長を退任させるのは危険だろう。アスクルは売りだな。

俺は古新聞を玄関に置きに行き、洗面台でぞうきんを濡らした。ティッシュも持ってくる。今度はプラスチック製の収納ラックを掃除する。ラックの下のほうの引き出しを開けると、赤い番号枠の年賀状が折り重なっていた。だいぶ昔の年賀状だった。年賀状をひとまとめにし、引き出しの底をぞうきんで拭いた。ぞうきんは真っ黒になった。手に持った年賀状の殴り書きのような文字が目に入った。
「〇〇さんは続いていますか」
ある翻訳者からの年賀状だった。当時、会社を経営していた俺は、翻訳者である彼に仕事をお願いすることがあった。彼は喜んで受けてくれた。信頼関係が築かれたころ、彼は自分が抱えているお得意先企業〇〇さんを俺に紹介してくれた。彼は忙しくて手に負えなくなったと言っていた。じかに〇〇さんと取引して、他の翻訳者に仕事をお願いしてほしい、と俺にお願いしてきた。俺は言われるまま〇〇さんと取引を開始し、イギリス人翻訳者に仕事を依頼した。俺に会社を紹介してくれた彼は仕事が忙しそうで、私からの他の仕事も断りがちになり、疎遠になっていった。
この昔の年賀状は、そうして数年後の年賀状だった。彼は気にしていたのだろう。俺も疎遠になり、その後の経過報告を怠っていた。たしか、この年賀状をみて、彼に電話で続いていることを報告した覚えがある。
そんな彼はこの数年後にがんで亡くなった。
あっけなかった。
その後、俺は会社を畳んで、自動翻訳の会社に就職しても〇〇さんのお仕事は手放さなかった。フリーランスになった現在も、個人事業主として〇〇さんのお仕事に携わらせていただいている。〇〇さんからお声がかからなくなるまで、こちらから断ることはしない。
お客様にも仕入れ先である翻訳者にも恵まれた人生だったと思う。
100ページの文章の中で、1か所誤字が見つかると、もう全体が否定される。木を見て森を見ずのこの業界の大手企業は、一度のミスでダメ翻訳者のレッテルを貼り、もう二度と仕事を依頼しなくなる。翻訳者なんてポコポコと増殖し続ける白いあぶくくらいにしか思っていない。切っては捨て、切っては捨てのあぶく。
俺はそれが嫌だった。翻訳者は財産だと思った。ミスをしたら教育すればいい。縁を大切にしようと思った。

あごから滴る汗が手に持っていた年賀状の「〇〇さんは続いていますか」の文字を濡らした。
あごを肩でこすり、俺は汗をぬぐった。Tシャツが体にへばりつく。
――おかげさまで〇〇さんは続いていますよ。ありがとう!
ティッシュで文字の上の汗をぬぐった。


◇◇
さて、本日は小倉記念。
②アイスバブルを狙う。
あぶくはゴール前ではじける。
人気薄からは④アウトライアーズと⑥ノーブルマーズを推す。好調が続いている。

(勝馬投票は自己責任でお願いします)
[今年の当たり]
〇ヴィクトリアマイル クロコスミア 11人気3着
〇大阪杯 ワグネリアン 4人気3着
〇中山記念 ラッキーライラック 6人気2着
〇フェブラリーS ユラノト 8人気3着 
〇共同通信杯 ダノンキングリー 3人気1着 
〇日経新春杯 ルックトゥワイス 5人気2着
〇中山金杯 ウインブライト 3人気1着

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