小さな政府=総予算や税額の少ない政府、という考えは間違っている

 ネットサーフィンをしていると、ベーシックインカムについてどうにも気になることを書いている記事を見つけてしまった。

「ベーシックインカム=小さな政府を実現」の虚妄…現実的にデタラメだと証明

 どういう内容かを簡単に書くと、「BI(ベーシックインカム)を導入すれば小さな政府になるというが、間違いだ。BIを支給される国民はより多くの支給額を常に求め続け、政府の財政規模は決して小さくならない」と言うのだ。
 似たような制度である「負の所得税」に関連してフリードマンのこういう話も書かれている。

フリードマンは社会保障の行政事務が簡素化されることを負の所得税のメリットの一つと考えた。ところが皮肉なことに、もし簡素化できた場合、コストの増大に拍車をかけることになる。それまで面倒だった給付金の申請手続きがしやすくなり、申請者数が増えると見込まれるからである。負の所得税やベーシックインカムは、机上の計算では収支が成り立つかもしれない。しかしその計算は、民主主義における政治の圧力という重要な要素を見逃している。
じつはフリードマン自身はこれに気づいていた。負の所得税には「政治的に大きな欠点がある」として、次のように書き添えている。負の所得税は一部の人々から税金を取り立て、それを別の人々に与えるシステムである。与えられる側は政治的関心が高くなるから、議会で多数派になり、少数派に税金を強いることになりかねない――。

 だが、あえて書く。それの何が悪いのか? そもそもこれを問題だという人は、小さな政府というものを勘違いしているのではないか?

 小さな政府というのは、予算規模の小さな政府のことではない。というか、そもそも、政府とはなんのために存在するのか?

 世の中には「政府なんか不要だ」というアナーキストやリバタリアン、アナルコ・キャピタリズムと呼ばれる自由主義者達がいる。政府なんかなくして、全部民間でやればいいのだという、いわゆる「神の見えざる手」信者の人たちだ。
 だが実は、今の国際社会の現状は、すでにそういう「無政府」社会なのだ。国民国家を最高の権力体制としており、その国家間の貿易や条約締結などのやり取りは自由だ。国家同士を規制する権力機構は、今の社会には存在していない。国際連盟は一種のクラブのようなもので、安保理決議も実効力がそれほどないのは、すでに皆が承知している事実だ。
 グローバル経済は自由なやりとりで成り立っている。その自由さ故にタックスヘイブンという存在が生まれ、好きな様に税制を変えることで資本家の歓心を買い、彼らの国籍や居住地を変えさせ、近年拡大する一方の格差を、ますます拡大し固定化させる要因になっている。経済に対し政府の権力が及ばないからこそ、世界規模の格差拡大に歯止めが効かなくなっている。
 では、国民国家をなくせばどうなるか? 自分はますます資産再分配の機能は低下し、格差は拡大していくだろうと考える。

 そもそもこれまでの社会である程度の平等が実現していたのは、資本家が多くの均質な労働者を必要とし、資産を積極的に・平等に分配することが資産家の利益を最大化させるのに有効だったからだ。つまり、労働集約型産業こそが資産を最大化させる最善の手段だった。
 だが今や資本集約型(知識集約型)産業へと、世界全体が移行しつつある。有象無象の労働力など不要であり、一部の優秀な人間の活躍が資本を最大化させるようになって行ってる。以前のように多くの労働者に平等に資産を分け与えるより、一部の優秀な人間に集中して資本を投下したほうが儲かる。単純作業はロボットにさせる方が良い。

 産業構造が変化していくことにより、資本家への資産再分配の圧力は弱まっていく、結果、格差は拡大していく。これ自体はまさに、自由な経済の当然の結果だろう。

 庶民は、産業構造がどう変化しようが、ロボットに雇用を奪われようが、生きなければならない。だが資本を持つ側に、再分配のインセンティブが存在しなくなってきている。
 この状況で再分配を強いれる権限を有するのは、もはや政府以外に無い。政府以外にというか、民主主義の理念以外には存在しない。いわゆる神の見えざる手とか、適者生存の考えでは、産業構造の変化によって職を失った庶民など、今後の社会のお荷物・排除すべき存在にしかならない。

 産業構造の変化が、自由な経済において必然的に少数派に資産を偏らせ、格差を拡大していく。これが今まさにグローバル経済で進展している現実の事態だ。
 自由にさせたら格差が拡大しているのだから、是正するには、政治の力を用いるしか無い。つまり、強力な、だが効率的な小さな政府に、税金を徴収させ資産を再分配させる。こうして資本家が資産を再分配する必要性を感じない(分配しても自分らの利益を拡大させない)庶民にもお金を行き渡らせる。

貧富の格差増大、上位62人と下位36億人の資産が同額

 このニュースでも明らかなように、世界経済はますます、少数の人間にその資産を偏らせていこうとしている。であれば、先ほど引用の最後にあるように「少数派に税金を強いること」になるのは、当たり前ではないか?

 これは問題ではなくて、当たり前の帰結なのだ。

 本能的で自由な経済活動によって自然に・当然に発生する格差・偏りを、基本的人権や生存権という自然とはいえない理想論によって必要とされる政府が、均す。そこにこそ政府の存在意義があるのである。

 小さな政府とは、決して財政規模の小さい政府を指すのではない。無駄な雇用創出(公務員創出)に税金を使わず、税収のほとんどを資産再分配に回すトンネルのような、経路としての政府、それこそが、本当の意味で求められる小さな政府なのだと、自分は思う。

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