1%のお肉と99%の脂肪


   ところでお腹も空いたしちょっとご飯を食べようかなどと言って定食屋に入り、出されたエビフライだの海老天だののしっぽをポリポリと齧っていると、知ってた?海老のそこってゴキブリと同じ成分なんだよね〜などと言ってくる人がいる。嫌な性格の人間もいたものである。


   すみっコぐらし、という単語をご存知だろうか。かの有名なリラックマを発売しているサンエックスという会社が2012年に売り出した、部屋の隅っこでこぢんまりと過ごすことが何よりも落ち着くという5匹のキャラクターの総称である。キャラクター界の中では新参の部類に入るため、あまり詳しくは知らない人の方が多いかもしれない。彼らの内訳は以下の通りだ。

① しろくま。白熊は本来北の地域の生き物だが、このしろくまは寒さがとても苦手なため雪国の生活に馴染めず、温かい場所を探して逃げ出してしまった。

 ② ねこ。太っていることを気にしている恥ずかしがり屋の猫だ。スリムな猫に憧れてこっそりダイエットをすることもしばしばである。 

③ とかげ。トカゲを名乗っているが実はそれは真っ赤な嘘で、なんと恐竜の生き残りだという秘密を背負っている。バレたら捕まってしまうため、周囲には隠しているのだ。

 ④ とんかつ。トンカツの中でも1番端っこの部分で、お肉は身体のほんの1%。残りの99%は油っこい衣であるため、残されてしまったのだ。いつか食べてもらうことを夢見ている。 

⑤ ぺんぎん?  何故疑問形なのかと言うと、自分が本当にぺんぎんなのか自信が持てないからである。身体は緑色だし、好物は魚じゃなくてキュウリ。随分昔には頭の上にお皿があったような気もするし、僕って本当は別の生き物なの……?と試行錯誤する日々だ。            

  このように周りと同じ生活が出来なかったり、どこかネガティブな要素を持っている彼ら5匹が仲良くほのぼのとした日常を過ごす、それがすみっコぐらしの特色だ。ファンからは見ていて癒されるといった声や、後ろ向きな性格に共感したといった声が続々と上がっている。私がすみっコぐらしを好きになったのも、元はと言えば人見知りが激しい自分と重なる部分があったからだ。

    とは言え残酷なことに、彼らは商業的な目的を持って売り出されたキャラクターである。すみっこでひっそりするのが何よりの幸せなのだという彼らの悲痛な叫びは掻き消され、あっちとコラボしこっちとコラボし、時にはファミマのスイーツに擬態することを余儀なくされ、果てには5匹の人気が売上の差という形で表れる。人気度ランキング、これほど心ないランキングがあるだろうか。だが断腸の思いで発表すると、断トツ人気なのはしろくまだ。ねこととかげがその後を追う。不人気キャラの座に定着して久しいのがとんかつとぺんぎん?で、ぬいぐるみコーナーではまだ救いようがあるものの、ハンドクリームのパッケージやなりきりパーカーにおいては、何故かこの2匹だけ除外されることも珍しくない。恐らく不人気の原因はそのビジュアルで、とんかつは元々が油物であるためにどうも小動物的な可愛さが劣っている。また、ぺんぎん?は他の4匹と比べて唇が分厚く、更には足の辺りが膨張して見えることが多い。それがファンの目にはブサイクに映ってしまうらしいのだ。(それでも、ぺんぎん?はまだいい方だと私は感じている。とんかつに至っては近年のファミマとのコラボで、5匹中1匹だけ商品化されないという露骨な扱いを受けたのだ。人間関係に例えて考えてみてほしい、私がとんかつならお布団に籠って泣いてしまうし、他の4匹と会うのが怖くなる)

   私はすみっコぐらしの中でとんかつが1番好きである。それは5匹の中で最もすみっコぐらしらしさというものを持っているからである。前もって言っておくが、他の4匹が嫌いなわけではない。1番最初に好きになったのはとかげだし、今もとんかつの次に好きなのはねこである。だが敢えて辛辣な言い方をさせてもらうと、しろくまやねこやとかげ、彼らは一体何なのか。人見知りで恥ずかしがり屋で人間に見つかりたくないから部屋の隅が落ち着くなどとぬかしながら、愛らしい顔立ちとフォルムを活かしてしれっと人気度ランキング上位に入り、グッズの売上も好調。これではテストの当日に「やべ〜全然勉強してね〜」と言いながら結局高得点をとる野郎、「男の人苦手なんだよね……」と言いながら何故か合コンに出てあざとい仕草を連発している女子大生、彼らと本質は同じではないか。それに対し、とんかつはどこまでも真面目で正直で生きづらい。食べ残されてしまったけれどいつかは誰かの口に……と夢見ながらも、隅っこでぼんやりとしているうちにランキング下部に転がり落ち、ファミマとのコラボにも乗り遅れ……。彼ほどすみっコぐらしのコンセプトに相応しい生き方をしているキャラはいるだろうか。否、いまい。

   とんかつが最もすみっコぐらしらしいということは、サンエックス側も別の角度から認めている。どんなにとんかつが不人気でもすみっコぐらしから外すことは考えていないらしい。それは元々とんかつが、しろくまやねこといった小動物だけではリラックマやたれぱんだといった同社の他のキャラクターとさほど見た目が変わらないため、何かちょっと変わったもので差をつけたいということで生み出されたキャラクターだからだ。すみっコぐらしの地位を確かなものにするために誕生し、露骨な格差を受けながらも今も控えめにひっそりと存在するとんかつ、言い方は悪いが勝手な事情で生み出され勝手な事情で出番を削られた彼の境遇を、私は愛さずには居られないのである。

   だがそのとんかつの地位にも、徐々に変化が生じてきている。その理由は、みにっコであるえびふらいのしっぽの登場だ。みにっコとはメインのすみっコぐらしに対するサブキャラのようなもので、えびふらいのしっぽの他にざっそうやふろしき、ほこりなど、バリエーション豊かな生き物が存在する。ストローで上手く吸い上げられずに残されてしまったたぴおかなどは、その設定になるほどと納得する人も多かろう。

  固くて喉に引っかかるために食べてもらえなかったえびふらいのしっぽは、揚げ物同士ということでとんかつと仲が良く、常に一緒に行動している。そして何よりも特筆すべきことは、とてもとてもビジュアルが愛らしいのだ。サブキャラでありながら、メインを凌ぐ勢いでファンたちから大人気。チョンと生えている赤いしっぽがうさぎの耳を思わせるおかげで、とんかつには出せなかった小動物的愛らしさも無事クリア。とんかつはこのえびふらいのしっぽと言うみにっコとセットならばそれなりの売上と人気を確保出来るということで、グッズやコラボ商品も増えてきた。しかし逆に言えば、単体でのとんかつを見る機会が激減してしまったのだ。

    私はこの構図に、普段は無口で控えめな子がクラスで1番美人な子に懐かれてしまったために半引き立て役として人前に出ることが多くなったという現象を連想してしまう。別にえびふらいのしっぽが嫌いなわけではない。可愛らしいとも思うし、商品が出ていたら買いたいとも思う。しかし、不人気だったキャラが人気のキャラと仲良くなったために商品化される機会が増えていく状態は、商品化される機会が少なかった頃と比べると、ある意味残酷だな……という感情も両立して存在するのだ。えびふらいのしっぽにお前の成分はゴキブリと同じだなどと暴言を吐くこともなく、無邪気に語らうとんかつの姿に涙が出そうになるのも無理はない。 

   とんかつは今後、貪欲に利益を求める大人たちの思惑により、ますますえびふらいのしっぽ無くしては表舞台に姿を表さなくなっていくだろう。誰よりもすみっコぐらしらしくありながら、単体で商品化されることを許されなくなってしまった。今までは5匹平等に商品化されていた最後の砦とも言うべきぬいぐるみコーナーにまでも、とんかつとセットにされたえびふらいのしっぽが進出を果たしたことは記憶に新しい。

    これを読んだ人が、とんかつのことを少しでも心に留めてくれると幸いである。えびふらいのしっぽのペアのすみっコとして認識するのではなく、とんかつとして認識する機会を増やして欲しい。そして最後に、しろくまやねこやとかげに対して心無い言い方をしたことをお詫び申し上げる所存であります。

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