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マイ・ワーマタ・デイズ ~vol.1 呑兵衛からの卒業~

酒と酒のある空間が好きな、東京在住30代前半の総合職の女です。仕事も、経験を積むほど面白さが増しているこの頃。その結果、この歳になっても、夜中の3時まで飲んで朝8時には元気に会社でPC叩いている、という日がしばしば。主人も免疫というか容認というか本音は諦めというか。仕事もオフも落ち着きが無い女にとって、マタニティライフは新生活。待ちわびていたその日々がスタートしました。

vol.1は、妊娠5週目から7週目の妊娠初期前半。身体の変化に心がついていけなかった頃のログです。

ー妊娠5週目ー
【木曜日】

妊娠検査器の小窓に、くっきりと赤い二本線が浮かんだ。

いわゆる妊活期間、何度もトライした排卵検査器は体質なのかダンマリばかりだったので、焦らすことなく瞬時に染まることに驚き。新生活のスタートを切るその線は、残像として脳裏に焼き付いている。

【金曜日】

烏龍茶オーダーに対する周りの反応は想像以上。

この日は六本木に20人程、社外の同業仲間が集合。幾度と朝まで語り合ってきたパワフルな仲間たち。まだ検診前で話す段階ではないものの、飲めない理由を取り繕っても簡単に見透かされる始末。素直に現状を話した。すると仲間たちは、「ようやくか!」「おめでとう!」と、中には少し目を潤ませながら、一同に優しい笑顔を放ちまくってくれた。私は初めて受けるお祝いの言葉に戸惑い、上手い反応もできなかった。いつもの六本木交差点は、今宵もきらきらと眩い光に全方位から囲まれて、賑やかに人々が行き交っている。つい1ヶ月前はこの交差点を、当然二次会へと上機嫌に横断していた自分が、今日は渡ること無く、一同とここでお別れ。見慣れた景色に寂しさと新鮮さが入り混じる。気さくで温かい仲間たちは、見守るような目で、「これからは大事にするんだよ」と声をかけてくれる。まるで親戚のおじさんとお姉さんのよう。人の優しさがやたらと沁みた夜だった。

【土曜日】

趣味の総入れ替えスタート。

妊活期間からお世話になっている産婦人科の先生に診ていただき、一安心。となると、次に気になるのは生活の変化。私の趣味は、クロスバイク、バレエ、ジム、そしてお酒・・・。総じて、暫くの間距離を置くことになった。

【日曜日】

趣味の解約手続きに出向く。

2年半バレエとジャズを習い続けたダンススクール。受付の明るい挨拶と、スタイルも姿勢も美しい女性たちが行き交う、いつもと変わらないロビー。その空間に暫くはもう入れないと思うと、ぐっと切なくなった。

【月曜日】

即刻、風邪引いた。

普段と変わらず出勤したら、午前中に早速キャッチ。この時期は12月半ばともあり、風邪が流行る時期だが、いつも比較的薄着で体力に自信があった自分なだけに、免疫力の低下を実感した。念の為にと上司に明日のテレワーク勤務を希望し、定時で速やかに退社。帰りに内科を尋ねると、看護婦さんにも先生にも「いちばん大事な時期なのに・・・!」と、大層心配されて驚く。鼻水が止まらず喉がイガつくと言う、大してだるくも無さそうな私の様子を見て先生は、「妊娠時の服用も認められている薬はあるけれど、仮にあなたの家族ならば、薬は飲ませなくないな」と仰った。どうやらそれ位、妊娠4週から8週頃は最上級に気を遣う時期らしい。社内でマスクすらしていなかった、認識の甘い自分を恥じた。

【火曜日】

“働き方改革”とやらに感謝。

テレワークが浸透していて助かった。明日の社長説明のための資料を抱えて休めないというか休みたくない今の私。会社の制度整備と、働き方改革を叫ぶ今のご時世に感謝する。深酒が予想される次の日に設定していた数か月前のテレワークとは、有り難さが全く違う。

ー妊娠6週目ー
【木曜日】

飲み会続々キャンセル。

部内の忘年会も当然来ると思われていたようだが、マスクで鼻じゅるじゅるの私には何の不自然さも無かったよう。

【金曜日】

緩み始めた下腹。

短足貧相な自分の身体の中でも、今までお腹のシルエットだけは気を付けたくて、バレエで縦に伸ばしジムで横に搾り、大事に育ててきた。服も、身体の線がぴたっと出るシンプルな黒ニットが好きだっただけに、切ない。そして何だか、くしゃみや咳をすると下腹に響く、慣れない感覚が身体に生じている。

【土曜日】

ちいさくて少し早い、心臓の音がきこえた。

検診のカメラについたマイクから、自分のものより明らかに早いピッチの鼓動。モニターでは小さな小さな心臓がぴくぴくと動いている。神秘的だった。身体の調子はというと、眠りがいつも以上にディープで、やたらと食欲旺盛。体力は常に不足気味。ちいさな心臓に、全身で沢山のエネルギーを送っているんだと理解した。

【日曜日】

初めて、主人の仕事に迷惑をかけた。

今までは、主人が出張と聞くと、気ままに飲みに行くぞと心の中で小さくガッツポーズする位だったくせに、今の私は何かと心細い。そんな心理が働いたのか、最近のエネルギー不足が祟ったのか。私は主人の出張を見送りに行った東京駅で突然貧血を起こし、自宅へ連れて帰るためにとキャンセルさせてしまった。何とも迷惑なこと。今回は他の同行メンバーに任せられる出張だからと言ってくれたが、仕事が好きな自分としても人の仕事に支障をきたすことは心から嫌だし、申し訳なくて仕方なかった。この急な連絡に応えてくれた、主人の上司の温かいコメントに夫婦で潤んだ。

【月曜日】

通勤恐怖症。

昨日の恐怖も加わり、明らかに体力が落ちて通勤がしんどい。深すぎる眠りから起きるのも辛いが、電車で真っ直ぐ立っていることすら辛い。でもまだ職場に話す時期でも無いので、平日は妊婦マークを着けるのを躊躇う。オフィスでは自席にいることが長いので、思いのほか身体は持つし集中力も然程欠いていないのだが、帰りもまた不安に晒される。

【火曜日】

着れる服が少なくて悩む、毎朝。

まだお腹が大きくなる時期では無いが、食欲の旺盛さと、腹筋まわりのトレーニングを止めたことが原因で、腹囲が巨大化し始めている。ウエストをキュッと締める、タイトなスカート陣が一斉に履けなくなった。

【水曜日】

体力が蘇った日。

事務局を務める、会社の祝賀会当日だった。体力は辛いものの、遣り遂げたかった。コストの関係からほぼ内製なので、事務局総出で会場設営からリハまで完了させ、本番は撮影班として最前列で一眼レフを覗き込む。不思議なもので、何度もしゃがんだり立ったり、長く動き回っていたけれど、気が張っているからか楽しいからか、身体は終始調子が良かった。祝賀会終了後、役員からの飲みの誘いにも相変わらずの如く、喜んで参加した。しかし、良く飲む女とインプットされているので、ひとり白桃ジュースを注文する様子にそんなに風邪が深刻なのかと心配され、まだ正直なことを言えないもどかしさで申し訳なくなった。今までは風邪を引いたってアルコール消毒だとか言って飲んでいた自分のせいである。

ー妊娠7週目ー
【木曜日】

心も身体も、色々と不安定。

昨日は久々に遅く帰ったので体力を心配したものの、むしろ改善しているくらいで、沢山動いて笑った効果という気がした。波がある食欲もこの日は旺盛だったので、他部署の気の合う女性の先輩をランチに誘った。ひとつ上の役職に就いている先輩なので、妊娠に関する上司への申告について相談したかった。頭の回転が早いその先輩は、他の産休前の社員がどのくらいのタイミングで報告しているかとか、人事を決め始める時期とか、言い方のアドバイスまでくれた。初めて会社の人に話して、少し気持ちが軽くなった。この日は夕方まで身体の調子が良かったので、仕事帰りの主人と待ち合わせて、お腹まわりが楽ちんな服を探しに行くことにした。すると、いつもはじっくり隈なく見て回る大好きなZARAなのに、見始めてすぐ体調が陰り始め、早く出たくなった。近隣で夕食を取るにも、椅子に座れるまでしんどくて、食べ始めたら回復した気がしたのに、途中で物凄くお腹が張ってお手洗いに急いだ。帰宅後は結局ぐったり、横にしかなれない。そんな時、最近の嫁の様子から家事を今まで以上に頑張ってくれている主人に、私の何の気もない些細な一言が刺さり、久々に拗ねられてしまった。こちらも身体が辛いのと、でもフォローしてくれている気持ちも理解しているつもりだし、ただ悲しくて涙が出てしまった。結婚以来、泣くことなんて殆ど無かったのに。色々不安定である。

― 妊娠初期中盤の〜vol.2 乗り切れツワリ〜につづく

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