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褒められて「そんなことないですよ!」と言ってしまうあなたへ

 ここ二日連続で、「自己肯定感が低くて、褒められても全力で否定してしまう」という話を聞いたり見たりした。
 私はどちらかといえば自己肯定感の高いほうの人間だが、それでも、自分の短所だと思っているところを褒められたりするとむずがゆくなることはある。「そんなことないですよ!」と反論したくなるときに、私が使っている魔法の呪文があるから、その話をさせてほしい。


褒め言葉を否定してしまうからくり

 まず、そもそも、どうして褒められて全力で否定してしまうのだろう? 自己肯定感が低いから? でも、低かった自己肯定感が褒められて少し上がった、みたいな経験が全くない人もいないだろう。褒め言葉を受け取れないのは「自己肯定感が低いから」というだけではないだろうと、私は思う。

素直VS演技

 褒め言葉に対して「正直な」反応を返そうとすると、喜べないこともあるのは当然のことだ。しかし、相手は少なからず、こちらに「喜んでほしい」と思って褒め言葉を口に乗せているはず。そして、こちらが本当に喜んでいるのかどうかは、「こちらが反応に出さない限り」相手には伝わらない。
 それなのに褒められて全否定してしまうのは……そう、「素直な感情を表に出さないといけない」と思っているからなのだ。
 本気で喜んでも、嘘をついて喜んでいるふりをしても、相手には「喜んでもらえた」と伝わって、相手が満足する。相手が満足すれば、会話は円滑に進む。素直に全否定してギスギスするくらいなら、演技でも喜んだそぶりをしてさらっと流してしまうのが吉だと思うのだが……どうだろうか。

魔法の呪文

 そろそろもったいぶらずに、褒められて否定したくなったときの魔法の呪文を書こう。それは、

「え~~そうですかねぇ~~?? ありがとうございますぅ~~」

 だ。

唱えるときのコツ

 この呪文を唱えるときにはコツがいくつかある。
 まず、表情と声音を嬉しそうなものにする。具体的に言うと、声は高め、目を細めにして目じりをやや下げ、眉をちょっと持ち上げる。マスクで隠れていることも多いが、音色にも少し影響するので口角も上げるといい。
 さらに、ボディランゲージも駆使する。あなたにも嬉しいときにしがちな動作があると思うが、それをこれでもかとやる。ちなみに私の場合だと、ちょっとクネクネしながら胸の前で手を合わせたりする。頬に手を沿えてみたり、頭を軽くかいてみたりする場合もある。
 もっと言うと、この言葉のすぐ後に、別の話題をすかさず振るといい。相手を褒め返すのがいちばんやりやすいかと思う。

解説

 この魔法には、ちゃんと理屈がある。

 まず、言葉選び。「そうですかねぇ?」という言葉には、「自分はそうは思っていない」「あなたがそう思ったことは事実なんですね」「でも将来的に私自身がその視点をもつかどうかはわかりません」というメッセージがマイルドになって入っている。直接的に言ってしまうとかなり攻撃的だが、このくらい厳重にオブラートに包めば安全だ。
 褒められて嬉しくないのに「ありがとうございます」と言うのは嫌かもしれないが、そういうときは、「この人は(内容はさておき)わざわざ褒めようとしてくれた」という事実に対しての感謝だと思えば、少し言いやすくなる。

 そして、表情・声音・ボディランゲージ。こんなものはしょせん、相手に対する「記号」である。褒めてくれた相手が「褒めてよかったな」と満足して、円滑に人間関係を動かせるよう、俳優になったつもりで「演技」をするのだ。嘘も方便、会話をギスギスさせないためには、演技も必要、というわけだ。

 他の話題を振るのは、もちろん、その「褒められて嬉しくない褒め」の深掘りを避けるためだ。相手を褒め返したり、あるいは、相手が話したいであろう話題をそれとなく振ってあげれば、すぐにそっちに移っていくだろう。人間の気分なんて流動的なものだ。

 ……解説すればするほど、ひとのこころがない、ヒューマノイドみたいな言い分になっていくことには気付いている。だが、まあ、「素直でない」反応を生み出す理屈について話しているのだから、そうなってしまうのも致し方ないだろう。

ほめられ上手のすすめ

 というわけで、今回は褒められて嬉しくないときの魔法の呪文を紹介してみた。最初は抵抗があるかもしれないが、何度かやってみて会話が円滑に進むことを実感すると、これもアリかもしれないと思えるはずだ。

 あなたも、気持ちよく褒められる褒められ上手、目指してみませんか?

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