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2021年、あなたはイエの内側?それとも外側?

今日は、ちょっと古臭い話しをさせてください。ほんとうは、もう少し楽しい記事が書きたいのですが…。

何の話しかといいますと、現代に残るイエ制度のお話しです。良かったらお付き合いくださいね。





受け継がれる言葉

アラ還のわたしは、

あの方、本当によくできた奥様なの。ご主人が出世されただけじゃなくて、お子さんも皆さん一流大学なの。ほんと凄いのよ。

そんな誉め言葉を普通に耳にしてきました。夫や子どもの成功が本人の努力ではなく、妻や母の評価になる、というお話しです。


それは、逆もまた然り。

働いてるでしょう、だからさみしいのよ。母親が自分のことだけって…。かわいそうなのは結局子どもよね。

なんて囁きも聞こえるわけです。子どものちょっとした問題が母親のせいになる、ということ。

他にも…。

お宅は良いいわよ、女の子でしょう。女の子は入れる会社が多いから。でもうちは、ほら、男でしょ。だから就活、ほんと大変なの。


なんて会話も耳にします。もちろん、女子の就活が有利なんてことは決してありません。現実はその反対。女子がサラリーマンになるための就活はほんとうに厳しい。なぜなら、女子の募集の大半は、サラリーマンを補助する側の仕事なのですから。

けれど、たとえそのことが分かっていたとしても、そこには、”女の子はいずれ主婦になる、家に入るのだから”、そんな行間が読み取れたりするのです。今は結婚しない女性も、結婚できない女性も普通にいる時代なのに…。しかも、こんな会話を交わしているのは女性同士なのです。

そう、交わされる言葉が変わらなければ、人の意識は変わりません。交わされる言葉が変わらなければ、日本の女性の意識は変わらないのです。

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少子化ビックリ問題

さて、子どもの数が減ると働く人の数が減る、そんな話しならわかります。でも、こんな話しがあるのをご存じでしょうか。

それは、子どもの数が減ると「伝統家族」が破壊されるという話しです。実はこの言葉は、統計を用いて歴史分析をされている先生が2020年に書かれた本※の中の一文なのです。少しご紹介してみますね。

たとえば、

少子化は…日本の伝統とでもいうべき「イエ制度」を揺るがす大きな問題でもある。

と書かれています。

少子化が「イエ制度」を揺るがす、と。

つまり、この国には、まだ「イエ制度」があるということなのです。もちろん、法律の話しではありませんが。

それがどんな制度かといいますと…イエの継続や、財産や墓地を守り継ぐということ。

文章を拾ってみますと、

※今日、形の上では「核家族」化が進んだように見えるが、盆・正月には本家、あるいは出身地へと帰る多数の人々のため…大渋滞が起こる。普段は「核家族」であっても、盆・正月は「直系家族」に戻るのである。

と書かれています。

年末と夏休み、確かに誰もが故郷を目指します。


で、さらに、こんな心配がされているのです。

イエ制度は、少子化という思わぬ人口統計上の変動によって解体とまではいかないとしても、弱体化するに違いない。日本を支えてきた「イエ」制度のあと、どのような価値基準に基づいた社会に移るのか。

と。

確かに、子どもの数が減り、団塊世代が塊で年を取ると…日本の風景はがらりと変わりそうです。

そんな変化を、先生は、このままでは日本のイエ制度はすたれてしまう…ととてもご心配されているのです。

※引用: 速水融『歴史人口学事始め』2020ちくま書房

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お願いです、保護してください

で、少し想像してみました。「イエ制度」という見えない制度にくるまれたわたしたちの様を。

そのイエとは、戸主が財産を守り家を守る形のことですし、家族は戸主に従うということであり、その戸主は、父親や夫です。

では、それが、現代ではどんなふうに続いているのかといいますと…。

サラリーマンの妻が専業主婦化する。すると、国と企業が手をつなぎ、妻の年金と健康保険料を無償にし、税金を控除します。さらに、企業は主婦手当てを支給します。

そう、見えない制度を作り出しているのは国と企業です。そんな大きな力が、家に居る妻を経済的に保護し、社会全体を包み込んでいる社会、それが現代にも脈々と受け継がれるイエ制度の姿です。

だから今でも、男は外で女は家、そんなイエ制度が続いているというわけです。


けれど、そのイエ制度の始まりには…実は女性側からの願いがありました。

ここで登場するのは平塚らいてう氏です※。彼女は、女性は子供を産んで育てなきゃならない、だから国に女性を保護して欲しいと訴えています。

それに対して、与謝野晶子氏は、母性偏重は女性を家へと戻すことにつながると反発しています。

明治~大正の古い話です。けれど、欧米ではすでに女性解放運動がおこっています。けれど、日本では女性の意見が割れてしまったのです。


ただ、平塚らいてうさんの名誉のために一言添えるなら、国に経済的保護を求めたのは、当時、社会主義など、国家介入主義の思想が世界的に高まりをみせていた、そんな影響があったから。しかも、紡績工場で働く女性の労働環境があまりにひど過ぎて、なんとかそうした人たちを救い出したかったから。

※参考:落合恵美子2000『近代家族とフェミニズム』勁草書房、落合恵美子2007『21世紀家族へ』有斐閣選書


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母性保護論争

この意見の食い違いは「母性保護論争」といわれています。

国家とこの平塚らいてう氏の考えはよく似ていて、国は女性を保護する道へと進みます。

経済的に女性を保護する、これは、とても親切な話しです。結婚後、妻は厳しい環境にさらされなくても、家で安全に暮らせるわけです。けれど、

夫が職を失ったら?

夫が転職できなかったら?

夫に好きな人ができて、その人と暮らしたいと言い出したら?

夫が病気になったら?

夫が死んでしまったら?

夫に暴力を振るわれたら?


守られるという立ち位置は、実はギャンブルのようなもの。しかも、守られるが長期化すると女性はどんどん一人で生きていけなくなります。それが、保護されるということ。

※参考:落合恵美子2000『近代家族とフェミニズム』勁草書房、落合恵美子2007『21世紀家族へ』有斐閣選書


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守られる日本女性

大正5年、日本に「工場法」※ができます。これは、労働法の前身の働く人を守るための法律です。対象は、製糸工場で働く少女や子どもたち

そんな法律ができたのは、日本だけではありません。

欧州でも少し前、同じような法律※※ができています。けれど、日本と欧州のこの法律には大きな違いがありました。

その一番の違いは、欧州では守られる対象が働く人全体であったこと。日本は少女や子どもたちです。

実は、この違いは大きいのです。


『ああ野麦峠』をご存じですか?

製糸工場で、長時間労働と低賃金で働く少女たちを描いた映画です。そう、日本の産業革命で最も悲惨な状況に置かれたのは、貧しい家の少女と子どもたちでした。売られるようにして働かされます。

なぜなら、日本社会には、男性が稼ぎ頭で、女性は父や夫などを補助するために働くという家制度があったのですから。人より家を守る社会。だから女性の賃金が安くても問題にならないのです。

そうして酷使された女性たちの母体は損なわれていきました。さらに、子どもの発育不全の被害も出てきました。そこでようやく国が動き、長時間労働を規制する「工場法」ができました。ただ、その対象は女子どもに限られていました。

ところが、西欧の労働法は全く違いました。このころ既に、集団的保護と集団的自由(ストライキ権権など)の労働法の基礎ができているのです。

これは、日本とは違い、働く人全体を守る法律です。

参考: ※神尾真知子2015年版「働く女性と労働法」東京産業労働局平成27年6月 ※※水野勇一郎2016『労働法入門』岩波書店

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変わろうとしたの?

では、どうして、この国はかわらないのでしょう。どうして、令和の時代に、いまだだにイエ制度があるのでしょう。

そこにはちゃんと理由があります。そもそもの国の形が欧米とは違うのです。が女こどもより大切だったのがこの国です。神の前では平等、そんなベースを持つのが西欧社会です。

しかも、日本でも女性解放運動はおこりましたが、日本には男女が平等に働くための均等法を作ったルース・ベイダー・キンズバーグ氏はいなかったのです。日本には女性を国に保護してほしい、そんな女性の声がありました。

もちろん、アメリカもまた複雑な社会でした。けれど、人々は戦いました。それは人種差別だけではありません。弱者の側に立たされた人たちが声をあげて戦ったのです。

アメリカでは働く内容が同じなら同じ賃金を、という法律ができました。

それから、人種が違っても平等な権利を、という法律ができました。

その後、女性も男性と平等に働ける権利を、という法律ができました。


けれど、日本のイエ制度は強固で、しかも、イエ制度があること自体、今ではなかなか見えない、そんな社会になっています。

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母性保護社会

日本のイエ制度は過去の話しではありません。

戦後、日本はすっかり変わったようにみえますが、本当は変わっていません。なぜなら、「労働基準法」※は、女性を保護する「工場法」をはじめとする、戦前の「労働保護関係法」の集大成ですから。

つまり、男性が働き、女性が家を守る形と相性のいい法律なのです。しかも、年功序列、終身雇用制度は、戦前からつづく制度でもあります。

だからこそ、均等法は骨抜きにされてしまったのです。世界の潮流だった平等など、この国は迷惑でしかなかったのです。

歴史人口学の先生が書かれた少子化問題と令和のイエ制度。イエ制度がなくなったら、日本は一体どうなってしまうのか…そこには、そんな憂いがにじみ出ていました。

けれど、思い出してください。保護されるという生き方は半人前であり、その約束が保護にされたとたん、それは危険な状態になるということでもあるのです。

少子化で社会は否応なく変わります。労働人口が確実に減るのです。それは、裏を返せば、女性たちが一人前になれる時代がくるということでもあるのです。

と同時に、DX時代、企業は変わる社会に適応できる変化できる人を求めています。だからこそ、知識を身に着け、新しい社会に合流できれば、女性にも働くチャンスが増えるのです。労働減少のこの時代、企業はもう贅沢を言っていられません。女でも実力があるのなら採用する、そんな時代が来ます。

戦わず働く権利を獲得する、そんな変化もあると思います。女性の目で少子化を観ると、悪いことばかりではないということです。

今あるイエ制度は、少子化で崩れていくかもしれません。いいニュースではありませんか。そこから抜け出すのは女性自身です。

半人前のままでいいですか?

そして、娘さんにも半人前を求めますか?

選ぶのは私たちの自由です。


チャンスはきっとある、そう思っています。

※坂東眞理子2009『日本の女性政策』ミネルヴァ書房




最後まで読んでいただきありがとうございました😊

#イエ制度



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