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【妊娠中の胎児発生解説note】②人生で最も重要な時、原腸形成

前回は受精のプロセスを詳説したので、今回は受精後に細胞分裂(卵割)を行い、ヒトの形づくりが始まる最初のプロセスについて解説したいと思います。

●あなたの人生で最も重要な時は、誕生でも結婚でも死でもなく、原腸形成である

発生生物学者ルイス・ウォルパートによる名言です。発生生物学を学んだ人しか知らないと思いますがw

原腸形成がうまくいかないと、生命はそれ以上発生することができません。受精後14日、まだ妊娠に気付くか気付かないかという時期に、胚は人生で最も重要な時を迎えています。妊娠中は「10週の壁」、「16週(安定期)の壁」、「22週の壁」などとよく言われますが、最初に立ちはだかる壁は原腸形成です。ゆえに「人生で最も重要な時」と言われます。この記事を読んでくださっている人も、お腹の赤ちゃんも、生まれた子も、みんな原腸形成の壁は乗り越えた! えらい、すごい!

どんな動物も1つの受精卵から始まり、細胞分裂(卵割)を繰り返します。

注)写真はマウス胚、ヒトも同様に発生

ある程度細胞数が増えると、将来胎盤になる細胞(緑)と、将来胎児になる細胞(青)に分かれ、緑の細胞が一層になり胚のなかに空洞を作ります(初期胚盤胞)。この頃、子宮に着床します。

注)写真はアカゲザル胚、ヒトも同様に発生
注)写真はマウス胚、ヒトも同様に発生

着床後、さらに細胞分裂が盛んになり、新たに胎盤になる細胞(橙)ができ、内部細胞塊は胚盤葉上層(青)と胚盤葉下層(黄)に分かれます。

そのうち増えた細胞が動いて管を作り、身体の外側と内側を分けます。この最初にできる管のことを「原腸」と呼んでいます。大人の腸とは、直接は関係ありません。

原腸形成の方法は種によって異なるのですが、ヒトの場合はこのような作り方をします。
・尾側から原始線条が伸びる
・胚盤葉上層(青)のうち、原始線条付近にいる細胞(赤)が胚盤葉上層と下層の間に落ちていく
・三胚葉(外胚葉;青、中胚葉;赤、内胚葉;黄)に分かれる

注)図はヒト胚の場合

この三胚葉に分かれるプロセスこそが原腸形成! 外胚葉からは皮膚や神経、中胚葉からは血液や骨、筋肉、内胚葉からは内臓ができ、三胚葉がヒトの身体を作る元になります

原腸形成のプロセスに関わる遺伝子、すなわち生命を作る最初期に使われる重要な遺伝子を働かなくすると、発生は進みません。この記事の読者の方には化学流産のご経験がある方もいらっしゃるかもしれませんが、染色体異常などで原腸形成に関わる遺伝子が働かなくなっていると初期の流産の原因となります。この段階の流産は母体の責任が全くなく、たまたま卵子と精子の持っていた染色体(遺伝子)に不都合があっただけ、と捉えるしかありません。
なぜ「母体の責任が全くない」と言い切れるかというと、まだ母体ときちんとつながってないからです。子宮に着床したというだけで、母体と胚をつなぐ管や胎盤はできておらず、胚は独立して発生しています。実際に経験された方は、理屈では解決できないつらさがあると思いますが……ご自身と胚の状態について理解する一助になればと思います。

なお、医療機関で確認された妊娠の15%前後が流産になり、妊娠した女性の約40%が流産しているとの報告もあり(気付いていないケース含む)、多くの女性が経験する疾患です。周りに妊娠報告をする時やSNSで妊娠に関する投稿をする時は、自分とは違う立場の人がいるかもしれない、と気を配らないといけないなと思います。

流産・切迫流産|公益社団法人 日本産科婦人科学会 

●胚の前後が決まる -元々は全部しっぽになる運命?!-

胚盤葉は元々全体にnodalという遺伝子が発現しています。少し時間が経つと、頭側ではnodalを抑制する遺伝子(cerberus, lefty)が発現するため、nodalが減ります。nodalの濃度勾配により頭側としっぽ側が決まります。

注)図はヒト胚の場合

●胚の背腹が決まる -元々は全部おなかになる運命?!-

胚盤葉は元々全体にBMP4という遺伝子が発現しています。少し時間が経つと、背側ではBMP4を抑制する遺伝子(chordin, noggin, follistatin)が発現するため、BMP4が減ります。BMP4の濃度勾配により背側と腹側が決まります。

最初は全部しっぽやおなかと思うと面白いですね。笑

●妊娠6週のヒト胚

※この後、胎児の写真が出てきます。苦手な方はページを閉じてください。





原腸形成が無事完了し、外胚葉、中胚葉、内胚葉が順調に細胞分化を進めると、徐々にヒトらしい形になってきます。ヒトらしい形ができるプロセスはまた別の機会に紹介しますが、妊娠6週ではここまで発生が進んでいます。サイズはまだ1.5cm程度です。

妊娠6週目のヒト胚と胚盤

この写真がどう撮られたのかはわかりません。妊娠初期に事故などで亡くなった妊婦さんから摘出されたのでしょうか……。
この胚は目や脳、手、足、背骨(の元)などがきちんとできていることが写真からわかります。原腸形成を無事完了し、三胚葉に分かれ、正常に初期発生を進めたられたのですね。

今回の記事はちょっと難しかったと思うのですが、これでもだいぶ単純化しましたw プレママさんが健診でエコーで胎児を見て順調と言われていれば、少なくとも原腸形成は完了し細胞分化が進んでいます。こんなややこしいプロセスを細胞が勝手にうまくこなしてると思うと、改めて細胞はすごい、ヒト胚はすごい! と感じました。

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出展:ラングマン人体発生学第11版、ギルバート発生生物学

《終わり》

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