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忍殺TRPG小説風ソロリプレイ【ホーム・スイート・ホーム】

アイサツ

ドーモ、海中劣と申します。こちらの記事はニンジャスレイヤーTRPGの小説風リプレイとなっております。ニンジャスレイヤーTRPGについては下記の記事をご覧ください。

なお本記事はニンジャスレイヤーの二次創作小説でありニンジャスレイヤー本編及び実在の人物・団体とは関係ございません。

今回挑戦させていただいたのは三笠屋さん作成のソロアドシナリオ【ニンジャのチュートリアル】です。詳細は下記の記事をご覧ください!

※なお、リプレイにあたりシナリオの描写を一部改変させていただいております。ご了承ください。

先日ダイスを振っていたら面白いニンジャが生まれました。それがこちらのニンジャです!

【性別】:女
【カラテ】:5
【ニューロン】:5
【ワザマエ】:4(5)
【ジツ】:1(カトン・ジツ)
【体力】:5/5
【精神力】:7/7
【脚力】:3
【万札】:0
【DKK】:0
【名声】:0
【アイテム】:なし
【サイバネ】:なし
【装備品】 :生成装束(伝統的ニンジャ装束【回避ダイス+1】)と
       生成メンポ(パーソナルメンポ【精神力+1】)
【生い立ち】:○未覚醒のアーチ級ニンジャソウル憑依者
【スキル】:★★★共振装束生成 このニンジャの【ジツ】値が1以上の場合、効果は以下の通り。
      ・生成メンポ:ベースとなる防具効果に追加で【精神力】+1
      ・生成装束:ベースとなる防具効果に追加で【精神力】+1
      ★カトン・ウェポン生成(未熟、発動時【精神力】更に+1必要) 「難易度:NORMAL」で判定
       『素手』および『バイオサイバネ』で繰り出したダメージ全てに、
       炎による+1の修正が入る。さらに『近接攻撃』時のダイスが+1個される。
【ソウルの闇】:ワザマエ+1 破壊衝動(【DKK】積極取得 抵抗【精神力】2消費)

生い立ちでまさかの未覚醒のアーチ級ニンジャソウル憑依者を引いたのでこれは是非とも記事にしたいと思いました。性別ダイスやニンジャソウルの闇ダイスなどからキャラクターが見えてきたのでこのニンジャの物語を始めてみたいと思います!


1.

「ツク、いつまで拗ねてるの?」仏頂面でタクシーの窓の外を流れる景色を眺めていた少女は隣に座る母の声にますます機嫌を悪くした。「拗ねてない」「嘘」否定の言葉をすぐに否定されて少女は口を尖らせる。「だって…」「お父さんは仕事なんだから」「誕生日なのに!」

「仕方ないでしょ、偉い人が急に視察に来ることになったんだから」「ナンデあたしの誕生日に…」ツクと呼ばれた少女はぶつぶつと文句を言った。今日は彼女の誕生日。ニルヴァーナ・トーフ社で働く父は今日だけは早く帰って一緒に食事に行く筈だった。

しかし当日になって急遽その予定をキャンセルさせてほしいと父から連絡が入った。なんでも社長ですら頭を下げるような偉い人物が工場視察に訪れるため中間管理職である父もその対応に追われることになってしまったとのことだった。今日という日を楽しみにしていたツクが不機嫌になるのも仕方がない。

「マルノウチ・スゴイタカイビルで買い物してさ…ウナギ食べようって…」「ウナギは無理だけど、『ゆけ二』のカツ・ドンもオイシイじゃない」「『ゆけ二』は今日じゃなくても行けるじゃん!」「怒らないの」「怒るよ!」「エート、そろそろ着きますよ」運転手が困った愛想笑いを浮かべながら言った。

「スミマセン、ほら、ツク」母が強化PVCで作られたLED傘を差し出してきた。少しもったいぶるような動きをしてからひったくるように傘を取る。母は溜息を吐いた。その後二人はタクシーから降りて料金を払い、父の勤務先であるニルヴァーナ・トーフ社のトーフ工場敷地へと入っていく。

「そろそろ帰れるってお父さんから連絡が入ったからね」携帯IRCを確認しながら母が言った。「…フンだ」ツクの機嫌はまだ直らなかった。「もう、いい加減にしなさい」母が少々強めの口調で言った。カワイソウだとは思うが、このまま不機嫌で誕生日を終えて欲しくない。だがその親心はツクには理解されなかった。

「あたし工場見学してくる」ツクは「一般見学者」の看板が吊り下げられた通路へ歩いていく。「ちょっと、ツク!今日は偉い人が来てるって!」「すぐ戻るから!」ツクは走って通路の方へ行ってしまった。彼女の足は早く母には止める暇も無かった。

◆◆◆

「ちぇっ…」通路をいくつか曲がったところでツクは立ち止まった。「何やってんだろ、あたし」廊下には「清潔が重点」「心の身だしなみ」「毛髪は根絶」といった文言の張り紙と壁に貼り付けられた姿見があった。鏡に映るのは当然自分だ。白い肌にショートの黒い髪。服装は学校指定のブレザーだが出来る範囲で精いっぱいのオシャレをしてきた。彼女のバストは標準的だった。

「お母さん、怒ってるかな…」むしろ悲しんでいるだろう。母はそういう人だ。ツクは急に母に対する申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。「戻ろう…謝らなきゃ…」ツクはもともと父も母も嫌いではない。家族として大切に思っている。ツクは来た道を戻ろうとする。


……結論から言うと、ツクは戻れなかった。


ブガー!ブガー!「アイエッ!?」突如廊下の警報ボンボリが「危険です」の表示に切り替わり、レッドアラートを鳴らす!緊急事態!更に!「ウオオーーッ!」「アイエエエ!」「アバーッ!」怒号!悲鳴!断末魔!BLAMBLAM!KRAAASH!銃声!破壊音!一体何が!?

「アイエエエ!?お父さん!お母さん!」ツクは悲鳴を上げてとにかく走った!…その時!「ドドド、ドーモ、モーターヤブは休憩を取らせます」「アイエッ!?」警備用ロボニンジャ・モーターヤブだ!威圧的な「4」の字が赤くペイントされている!不吉!外部ハッキングを受けているのか暴走してマシンガンを乱射している!

「アイエエエ!お父さん!お母さん!助け…」ツクはヤブに背中を向けて逃走する!…だが!「休憩を取ってください」ヤブがマシンガンの銃口をツクへ向け…銃弾が吐き出され…おお、ナムアミダブツ…ナムアミダブツ…!

全身から夥しい血を流し、クツロ・ツクは死んだ。

◆◆◆

2.

「ウオオーーッ!」「アバーッ!」怒号、悲鳴、断末魔。そうした不協和音の交響曲でツクは目が覚めた。しばらくして意識がはっきりしてくる。ここはジゴクだろうか。「アッヘ!まだ生きてるゥー!」どうやらジゴクで合っていたようだ。ヨダレを垂らしたモヒカンがツクにチャカ・ガンを向けている。

「撃っちゃうよォー!」BLAM!ツクが何をする間もなく銃弾は放たれた。またあの撃たれる感覚を味わわなくてはならないのか。銃弾がやけに遅い。いっそ早く撃ち抜いてくれないものか。…いや、妙だ。ツクは銃弾の動きを完璧に捉えている。あまりにも遅すぎる。

銃弾回避:6d6>=2 = (2,2,2,6,5,2 :成功数:6) = 6

「イヤーッ!」うつ伏せで寝た姿勢からツクは腕の力だけで宙返りした!銃弾はツクの寝ていた床を跳ねる!「アイエッ!?」驚愕するモヒカンの前に降り立つ!そして「イヤーッ!」「グワーッ!?」強烈な肘打ち!モヒカンは吹き飛んで壁に叩きつけられる!「グワーッ!?」

「何…これ」ツクは自分の起こした現象が理解できなかった。銃弾を避けて、モヒカンに肘打ちしたらモヒカンが吹き飛んだ?これではまるで…ツクはフラフラとした足取りで鏡面加工された工場機械に近づく。

映っていたのは褐色の肌にショートの赤い髪、服装は袖の無いニンジャ装束。何かが足りない気がする。ツクがそう思うと口の周りに熱を感じた。炎が舞ってあっという間に装束と同じカワラめいた色の布となり、ツクの口元に吸い付いた。それはメンポだった。

「アバッ…アイエエエ…ニンジャナンデ…!?」ツクは苦痛と恐怖に呻くモヒカンを見る。モヒカンは自分を見ていた。「ニンジャ…?あたしが…?」もう一度機械に移った自分を見る。その時、ツクの両目が赤熱したかのように真っ赤に染まり輝いた。ツクは驚いて鏡越しに自分の両目を見る。

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「……」「え?」その時、ツクのニューロンに何かが語り掛けてきた。目の輝きが増す。視界いっぱいに赤が広がっていく。気が付くとツクはトーフ工場ではなく、地平線まで続く赤熱した大地に立っていた。目の前に誰かが居る。それは超自然的にアイサツした。(((ドーモ、レンガ・ニンジャです)))

「…ドーモ…クツロ・ツクです」ツクもアイサツを返した。そうしなければいけない気がした。レンガ・ニンジャと名乗ったそれはツクのアイサツを聞いてグルグルと喉を鳴らして笑った。シツレイだ。(((その名前は捨てろ)))レンガ・ニンジャは当然のように命令した。(((お前はもうお前ではない)))

「ンアーッ!?」ツクのニューロンに突如激痛が走る!その場に蹲る!(((これからの…お前の苦痛が……)))ニンジャは邪悪な笑みで眺めている。「ンアーッ!」(((楽しみだぞ…)))ツクの意識が遠のいていく…

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…気が付くとツクはトーフ工場に居た。壁に叩きつけられて失禁したモヒカンが呻いている。見ると手足があらぬ方向に曲がっている。折れたのだろう。ツクは涙と鼻水で顔を汚したモヒカンに歩み寄る。「ア、アイエ?」右手で無造作にモヒカンの顔面を掴む。「ア、アイエエ!殺さないで!」力を籠める。


選択肢2:見逃す(精神力2使用)残り精神力5

ツクはハッと何かに気づいた表情になり、モヒカンの顔面から手を離した。「グワーッ!」解放されたモヒカンが床に倒れる。ツクは恐ろしい物を見るような目で自分の右手を見た。自分は今、何をしようとした?「あいつ…あたしが…あたしじゃないって…」先ほどのビジョンは夢ではない!ツクは逃げるようにその場から走り出した。

◆◆◆

3.

「ハーッ!ハーッ!」ツクは息を切らせて必死に駆けた。肉体的な疲労は感じていない。精神的な疲労だ。「ウオオーーッ!」「グワーッ!」どこもかしこも火の手が上がり、銃を乱射する男や角材で他人に殴りかかる男、それらに殺された従業員の死体だらけだ。「…!ハーッ!ハーッ!」その時ツクが感じたものは恐怖ではない。何も感じなかったのだ。ツクは何も感じない己に恐怖した。

その時ツクのニューロンで何かが弾けた。背後から何かが迫っている。見なくてもそのことが分かった。背後にはケミカル物質を貯蔵したタンク。タンクに火の手が迫り…KABOOOM!爆発して破片が飛び散った!破片が目の前に迫る!

破片回避:6d6>=4 = (5,3,2,3,5,6 :成功数:3) = 3

「…イヤーッ!」ツクが両腕を激しく振り動かすと…ゴウランガ!彼女の両手に大小いくつもの破片が握られている!「イヤーッ!」両手に力を籠めると手の中の温度が異常上昇し、破片は全て溶けて消えた!「ア、アイエエ…」ツクは自分の起こした超常現象に恐怖し、再び走る!このジゴクから抜け出すため、父と母の無事を確認するため!

だが!『火災感知につき防火隔壁作動ドスエ。カラダニキヲツケテネ』マイコ音声が鳴り響き廊下に隔壁が下りてくる!後ろは火の海、戻ることは出来ぬ。万事休すか!?否!ツクはスピードを緩めず走る!「イヤーッ!」

隔壁破壊:5d6>=5 = (6,5,1,5,5 :成功数:4) = 4

KRAAASH!!強烈なケリ・キックが頑丈な防火隔壁を一撃で粉砕!後ろから迫る火の手を置き去りにしてツクは走り続ける!

◆◆◆

「アイエエエエ助けてーッ!私には家庭があり家のローンもまだまだ残っていてもうすぐカイシャで出世できそうなのでここで死ぬわけにはいかないんだーッ!」走り続けるツクの耳に中年男性の叫びが聞こえてきた。声の元へ行くと倒れた棚に足を挟まれ立ちあがれないサラリマンが床に這いつくばっていた。

普段のツクならばどうしただろうか。ネオサイタマでは善意が必ずしも報われるとは限らない。それでも直接手を貸さずとも助けを呼ぶくらいのことはしただろう。だが今の彼女はニンジャだ。倒れている重そうな棚くらい簡単に持ち上げてサラリマンを助けることが出来るだろう。だが今の彼女はニンジャだ。

このサラリマンを助けて何になるだろう。無様な後頭部を踏みつぶしてしまおうか。あるいは棚を持ち上げて助けてやると見せかけてそのまま棚を振り下ろして…ツクは激しく首を横に振った。

選択肢1:サラリマンを助ける(精神力2使用)残り精神力3

「ダイジョブですか!」「アイエエエ!」少女が重そうな棚を片手でどかすというショッキングな画を見たサラリマンは驚愕!「ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」ツクのメンポとニンジャ装束を見て失禁!ニンジャリアリティショック(NRS)だ!ツクはサラリマンの反応を見て悲しい気持ちになった。

しかし「アイエ…ニンジャナンデ…アリガトゴザイマス…ニンジャナンデ…」NRSを発症しながらも感謝の言葉を述べたサラリマンにツクは暗く沈んだ気持ちが少しだけ救われた気になった。ペコペコとオジギしながら離れていくサラリマンを見送りツクは工場の出口へと進んでいく。

◆◆◆

4.

やがてツクは工場の出口付近へと到着した。だがその時、聞き覚えのある電子音声と銃撃音が聞こえてきた。「ドドドドーモ、モーターヤブはかかか賢く休憩を取らせます」BRATATATA!そのヤブには「4」の字が赤くペイントしてあった。不吉!間違いなくツクを殺したあのロボニンジャだ。

「アイエエエ助けて!」「休憩休憩休憩だ!」「アバーッ!」逃げようとする労働者たちがマシンガンやサスマタによって無残に虐殺されていく。あのヤブは出口をふさいでいるのだ。脱出するためにはヤブをやり過ごさなくてはならない。……やり過ごす?何をバカな。

あんなポンコツは壊してしまえば良い。鉄クズ風情が誰に対して何をしでかしたのか。そのスクラップめいた電子頭脳に叩きこんでやる。ツクの目が赤熱して輝くと彼女の両腕に火炎が走り、見る見るうちに装束と同じ色の美しいガントレットが生成され、彼女の拳から肘までかけて装着される。

カトン・ウェポン生成発動:6d6>=4 = (2,4,6,2,1,6 :成功数:3) = 3(精神力2使用)残り精神力1

「ハーッ…ハーッ…アハハ」ニューロンを酷使したことによる重い精神疲労がツクを襲ったが彼女は笑っていた。何に対して?思う存分破壊衝動を満たせることにだ。「休憩重点な!」ヤブがマシンガンをツクに向ける。遅い!それよりもはるかに速くツクはヤブの足元へと接近していた!振り上げた拳を握るとガントレットは獲物に喰らいつく興奮を抑えきれぬかのように赤熱した!

ヤブへ近接攻撃:6d6>=4 = (2,1,5,4,2,6 :成功数:3) = 3
ヤブの体力1

「イヤーッ!」「ピガガーーッ!?」ガントレットの重い一撃!ヤブの巨体が揺れ脚部が一部融解する!これぞ彼女に宿ったニンジャの力、カトン・ウェポン!だがヤブはまだ倒れぬ!「休憩休憩休憩だ!」ヤブがサスマタを振り回す!

サスマタ回避:6d6>=3 = (2,1,1,6,4,4 :成功数:3) = 3

「イヤーッ!」ツクはサスマタを…受け止めた!片手で!「ピガッ!?」ありえない事象を前にヤブが電子的に驚愕する!サスマタを戻そうとするが離れぬ!ツクが腕に装着したガントレットが赤熱し、サスマタの一部が融解し癒着しているのだ!「イィィ…」サスマタを片手で固定したままツクは空いた手を弓めいて引き絞り…「…イヤーーーッ!」解き放った!

ヤブへ近接攻撃:5d6>=4 = (4,3,2,2,3 :成功数:1) = 1
ヤブの体力0

「ピガガガガーッ!」正面から強烈なパンチを受けてヤブが大破!機械の残骸が土砂降りめいて降り注ぎ、床一面に広がった労働者たちの血がバシャバシャと跳ねてツクの顔にかかった。「アハハハハハ…」何と素晴らしき光景であろうか。ツクは枷が外れたような快感を感じて高笑いした。「アハハハハハ!」

ツクは悠々とした足取りで出口へと歩いていく。ここにはもう死体しかない。外だ。外へ行けば玩具はいくらでもある。玩具はいくらあってもいい。早く玩具で遊びたい。外に出て最初に目についた玩具で遊ぼう。どうやって遊ぼうか。ツクはとうとうスキップし始めた。工場の出口から出て辺りを見回す。父と母。

「ア…」父は怪我をしていた。それでも遅れてやってきたマッポに対して何かを必死に訴えかけている。母は泣きながら周囲の人間に何かを聞いて回っている。「お父さ…」声を掛けようとして、自分の姿を思い返す。褐色の肌にショートの赤い髪、服装は袖の無いニンジャ装束。「あ…」

口元には装束と同じ色のメンポ。腕には美しいガントレット。それらは労働者たちの赤い血で汚れている。「あああ」そして今、自分は何を考えていた?何をしようとしていた?「アアアーーーーッ!!」ツクはその場から逃げ出した。…ツクは戻れなかった。家族のもとへ。

◆◆◆

呆然としたままツクは当てもなく歩いていた。これからどうすればいいのだろう。自分の中のこの暗い衝動をいつまで抑えていられる?分からない。もう何も分からない。「ウウウ…」零れる涙を手で拭こうとして、ガントレットを着けたままにしていたことに気が付く。どう外そうかとツクが思案していた時。

「ドーモ」後ろから急に声を掛けられ、ツクは慌てて振り向いた。いつからそこにいたのか、二人の男が立ってアイサツをしている。「トラッフルホッグです」「ナンバーテンです」二人の男のニンジャ装束にはクロスカタナの意匠。ツクもアイサツを返さねばならないと思った。だが出来なかった。

「アイサツせぬか、小娘」豚めいたメンポをつけた小太りの男がツクを責め立てた。もう一人の男は腕組をしたままこちらを見据えている。ツクは…本名を名乗る気になれなかった。自分が名乗ってはいけない気がした。ではどうする?ツクは必死で考え、一つの単語が頭に浮かび、それを名乗った。

「…ドーモ、……ホームシック、です」ツクは…ホームシックはアイサツをした。「ではホームシック=サン。話をしよう。単刀直入に言えばスカウトだ」トラッフルホッグが鼻を鳴らしながら言った。「我々はソウカイ・シンジケート。ネオサイタマの裏社会を支配するニンジャの組織だ」トラッフルホッグは誇らしげだった。

「ニンジャの…組織?」「我々もニンジャだ」ホームシックは混乱していた。ニンジャは何人もいるのか?裏社会を支配?そこにスカウト?…なぜかひどく魅力的な提案のように思えた。そこでなら思う存分遊ぶことが…ツクは頭に浮かんだ考えを振り払う。そして絞り出すような声で言った。「…いやだ」「何?」

「そんな組織入りたくない!いやだ!」ホームシックは涙を流して誘いを拒絶した。「愚か者め!ならばここで死ね小娘!イヤーッ!」「イヤーッ!」「アバーッ!?」トラッフルホッグのケリ・キックが入るより早くホームシックの正拳突きが鳩尾にクリーンヒット!「アバーッ!」赤熱したガントレットの一撃を受けたトラッフルホッグは悶絶!

(いける!)先ほどのヤブよりは速い、だが自分の方が速い!ホームシックはもう一人の男に殴りかかる!ガントレット全体が激しく赤熱する!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「…エ」…ホームシックの一撃は簡単に受け止められた。男は…ナンバーテンは腕組の姿勢から右腕の肘から先だけを動かしてホームシックの拳を止めた。

「イ、イヤーッ!」ホームシックが腕に力を籠めるとそれに応えるようにガントレットが赤熱するが「イヤーッ!」ナンバーテンが何かをすると太陽が宇宙の無限の闇に飲み込まれるようにガントレットの熱があっさりと消えた。「イヤーッ!」「ンアーッ!?」ナンバーテンの前蹴りがホームシックを吹き飛ばした。まったく見えなかった。ホームシックはゴロゴロと地面に転がった。

「アーチ級ソウルの憑依者か」ナンバーテンが拳を受け止めた右手を見ながら言った。「とっとと立てトラッフルホッグ=サン、わざわざスカウトを手伝ってやってるんだ」「アバッ、ヨ、ヨロコンデー!」トラッフルホッグがふらつきながら立ち上がった。「さて、娘」ナンバーテンがホームシックに近づく。「もう一度だけ聞こう。そしてお前に拒否権は無い。わかるな」

ホームシックはしばらく横になったままだったがやがて口を開いた。「………シンジケートに……入る」彼女はそう答えるしかなかった。

選択肢1:なる
◆◆◆

…数日後、NSTVのニュースでニルヴァーナ・トーフ社に対するアナキスト集団の襲撃事件が放映され、死者の名前が実名報道された。その中にはクツロ・ツクの名前もあった。だが彼女の両親は娘の生存を信じていた。遺体が見つからなかったからだ。火に飲まれて灰になったのだと言う者もいたが、ツクの両親は娘の帰りを、誕生日のお祝いをするのを待ち続けた。

……ホームシックは自分がかつて住んでいたマンションの玄関を物陰から眺めた。愛しの我が家を。その中では両親が自分の帰りを待っている。だが彼女は帰れない。帰れば、自分は両親に何をするか分からない。それが何よりも恐ろしかった。

やがてホームシックはその場を離れた。戻らなければならない。戻りたくもない組織の元へ。ホームシックは途中で何度も何度もマンションの方へ振り向いた。変わらぬ我が家がそこにあるばかりだった。彼女は涙を堪えて走り出した。こうして、クツロ・ツクは死に、ホームシックが生まれ、彼女の人生は大きく変わった。


……そして、彼女の人生をもう一度大きく変える出会いは、もうしばらく後のことだった。