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「売上を、減らそう」刊行記念トークイベントレポート(佰食屋)

「会社は売上は伸ばすのが当たり前」
というビジネスの世界において、

「売上を減らそう」

という、衝撃的なキャッチコピーから始まる本を書かれたのは、「1日100食限定」のステーキレストランを経営されている、佰食屋の中村朱美さん。

飲食店を4店舗経営し、年商1億7000万円を達成されながらも、ご自身、そして従業員30人全員が、

「残業ゼロ」
「18時までに全員が帰れる」

という働き方を実現されておられます。

働き方改革にライフ・ワークとして取り組んでいる自分としては、「どういった仕組みでそれが実現されているのか、めちゃくちゃ気になります。

一度、気になるとトコトン追求するタチなので、Amazonで本を購入し、ガイアの夜明けを視聴し、ビジネスモデル図解をし、そして今日、中村さんのトークイベントに参加してきました。

登壇者紹介

・佰食屋 中村朱美さん

京都市内で、1日100食限定の「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」、「すき焼き」、「肉寿司」の専門店を経営。
「どれだけ売れても1日100食限定」「営業わずか3時間半」「飲食店でも残業ゼロ」というビジネスモデル、シングルマザーや高齢者・障害者など、多様な人材の雇用を促進するなど、 ワークライフバランスを意識した取り組みが評価され、「日経WOMANウーマン・オブ・ザ・イヤー2019大賞」、「新・ダイバーシティ 経営企業100選」など、数々の賞を受賞。
2019年6月には、1日50食限定の「佰食屋1/2」をオープンし、「夫婦2人で1日6時間働いて、月収50万円」という働き方のフランチャイズ展開実現に向けた挑戦を開始。

・モデレーター NewsPicksアカデミア編集長 野村高文さん

佰食屋のビジネスモデル

佰食屋のビジネスモデルで一番の特徴はやはり、

1日100食限定(売上に上限を設けている)

という点にあります。

普通の会社であれば、家賃等の固定費は営業してもしなくても発生するため、ディナー営業や、お酒の提供などを行い、少しでも利益を稼ごうとします。
しかしながら、佰食屋は「1日100食」という制約をあえて課すことで、様々な創意工夫を生み出し、「1日100食」でも利益が出る仕組みをつくりだしています。

具体的には、

・商品、素材に徹底的にこだわり、常識破りの原価率でも「佰食屋でしか食べられない味」を実現することで、他社が真似できない、お客様が並んででも食べたい魅力のある店に
・100食分しか食材を仕入れず、食材を徹底してその日のうちに使い切ることで「フードロスほぼゼロ」を達成し、経費削減
・「1日100食」売り切ることが目標であるため、マーケティングや経営コンサルティング費用は不要

などです。
フードロスが発生しないため、なんとお店には冷凍庫がないそうです。
学生時代、焼肉屋でアルバイトしていたことがありますが、肉を保存するための業務用冷凍庫は非常に大きいもので、電気代も相当かかるはずのものなので、「1日100食」にすることで、そうした費用を削り、利益が出る仕組みを作ったというところに、中村さんの経営センスを感じました。

佰食屋のビジネスモデルについて気になった方は、書籍に詳しく書かれていますので、そちらをご確認いただくか、こちらの読書メモ(個人的なものなのでキレイにまとまっていません)をご覧ください。

トークイベント感想

中村さんのお話から感じたのは、

・お客様の幸せのために会社があること
・従業員の幸せのために会社があること
・それが持続的に継続できるだけの売上・利益があれば、それでいい

という、会社経営に対する中村さんの強いポリシーです。

「ギリギリの所で生活している、普通の人をサポートしたい」

という思いを実現するために、見栄を捨て、化粧をやめ、これまでになかった「仕組み」の実現に取り組まれている点に非常に共感しました。


「そもそも、お金ってそんなにたくさん必要ですか?」
「お金は必要な分、あればいいじゃないですか」

会社の業績を拡大するためにお金を稼ぐのではなく、

・美味しい料理をお客様に継続的に提供していくため
・従業員の雇用を守るため
・成長した従業員に相応しい場を提供するため

であると、常識にとらわれず、会社というものの本質を追求し、自らの経営哲学を持たれている中村さん。

私は、働き方改革の本質は、

「企業の文化改革」×「個人の生き方改革」

だと思っています。

働き方改革に取り組む会社や組織において、(特にトップ層が)中村さんのように「自社の存在意義」を考え、しっかり定義すること。
さらに、そこで働く個人ひとりひとりが、

「なんのために働くのか?」

を考え、会社側の取り組みと両輪になって動いて初めて、働き方改革は成功すると考えています。
会社としてそれをブレずに実行している中村さんと、従業員がそれを理解した上で働いている佰食屋という会社は、改めて素晴らしい会社だなと思いました。


前置き(まとめ?)が長くなってしまいましたが、ここからがトークイベントのレポート(メモ)です。

1.トークイベントオープニング

会場はほぼ満席でした。
男女比率は若干、女性の方が多いように見えましたが、大体、半分くらいだったと思います。
年齢層は30~40代の方が比較的多かったと思います。
子育てや介護など、働き方に思いがある方が多かったのでしょうか。
実際、最後の質疑応答では、お子さんに障害があり、中村さんの考えに大変共感され、静岡から来場された方もいらっしゃいました。

本を読まれていない方もいるということで、まずは動画による佰食屋の紹介からスタートしました。

2.佰食屋の特徴

・お店の特徴は「ランチ営業のみ」
・夜の営業をやめてお昼の営業に集中したことで、いろんな人が働けるようになり、色々なところで取り上げられるようになった
・簡単で、かつ儲かるのはアルコールだが、それをやめて「食」だけで勝負

3.なぜ、お昼の営業だけで成り立つのか?

・昼だけでやっていくためには工夫が必要
・自分たちのビジネスモデルが間違っていないか試行錯誤した
・Appleのような圧倒的な商品力を目指した
・Appleは商品数少ないが、圧倒的な商品力がある。Appleほどの商品力があれば、宣伝をしなくてもお客様がきてくれると考えた
・その商品力があれば、お昼の営業だけでもやっていける
・そのために商品力を磨き込んだ

4.佰食屋の商品力とは?

<ステーキソース>

・佰食屋のステーキソースは他の店には真似ができない
・お醤油とワインの選定がコア
・ワインはお店で飲まれるようなものを惜しげもなく使っている
・お醤油はこだわり抜いたものを選んでいる
・無数の組み合わせの中から研究し、最もよい組み合わせを見つけた
・レシピは知っているため、一度、実家にある「醤油とワイン」でステーキ丼を作ってみたが、美味しく作れなかった
・レシピは元々、旦那さんが出会ったことから持っていたもの
・旦那さんは、料理が趣味でトコトン突き詰めていた

<お肉>

・ランチタイムに食べるのに「最適なお肉」を選んだ
・A5ランクのお肉はお酒を飲みながら少し食べるにはいいが、たくさんは食べられない
・お肉屋さんで効き肉をして、最も美味しいと思った肉を選んだ
・消費者向けには流通していないお肉で、赤身中心で、ヘルシーで美味しい

5.ターゲットは誰を想定している?

・ソース、お肉のどれをとっても、家では再現できない味
ターゲットと食べるシーンを明確にイメージしたからこそ、生み出すことができた
・自分をターゲットにしている
・自分がお金を出しても食べたいかどうか
・消費者の目線でチェックするときは、経営者の視点は捨てる
・商品開発をするのは夫なので、自分が一番厳しい消費者になれる
・本当に美味しいものを世の中に出すことが、世の中のためになると考えている
・だから、商品開発の時は原価計算をしない
・本当に美味しいものを作ったあとで、採算を合わせるため、原価を減らすことを考える
・6月にオープンした佰食屋1/2はまだ原価計算をしていない
・美味しいと思ったものをまず店に出してみて、1ヶ月間実際に営業してみた上で評価する

6.佰食屋の働き方はどのように生まれたのか?

・自分の父親は帰りが遅く、両親からは「飲食店だけはあかん」と言われていた
・食べるのが好きで、夫ともよく外食をしていたが、働いている人がしんどそうに見えた
自分の好きなものが、しんどい思いをして働いている人で成り立っているのは嫌だと思ったのが原体験
・サラリーマンとして働いていたとき、理不尽なことがどうしてもあり、モヤモヤした気持ちを抱えていた
・自分が会社をやるなら、従業員にそんな思いをさせたくないと思った

7.佰食屋の働き方について

・正社員の場合、始業は9時以降でいくつかの選択肢から選ぶ
・退勤も同じく、自分で選ぶ
自己決定権があるのがポイント
・たまに9時より早く来る人がいるが、そうした人がいないか定期的にチェックしており、見つけたら叱る
・やる気は買うが、そうした一人の行動が周りの他の人にプレッシャーを与えてしまうので
・そのやる気は違うところで発揮してもらう

8.売上の上限を決めたことで捨てたものは?

他人に対する「見栄」を捨てた
・色々な社長さんともお付き合いがあるが、自分の会社の年商を大きく見せようと見栄を張る人が多い
・会社のスケールが大きいと偉いような気がするからだと思うが、自分にとってはどうてもいい
・自分に大事なのは、中で働いている人がどう働いているか
・18年度決算では、会社としての売上高が1億7千万。(不動産業もあるので、)飲食業だけだと1億2千万
・本当は1億円くらいにしたい
・それくらいが自分にとって心地いい数値

・見栄をなくすと、儲かりたい気持ちがなくなる
・そもそもお金はなんのために必要?大きい家、高いバッグ、高い車はなんのために必要なのか?
・自分にとって本当に必要なお金とは?
・自分が満ち足りていることに気づけばお金はそれ以上必要ない
・やりたいこととお金が比例するのが一番いい
・「足るを知る」

9.店舗を増やしている理由は?

・自分たちがお金は必要な分だけあればいいということと、従業員のベースアップは別
・佰食屋の今年のベースアップは5千円。優秀なメンバーは1万円
・その財源を確保するために、ゆるやかに店舗を増やしている
・とはいえ、今回はあんまりスケールしたくないと思い、「佰食屋1/2」にした
・ゆるやかに店舗を増やすのは、優秀なメンバーの店長というポジションをつくるためでもある
・従業員が成長した結果、その人に任せたい場所を用意したいと思った
・肉寿司をつくったのは、店長を任せたいと思った人が、元々寿司屋に働いていたから
・「君の店になるんだから」ということで一緒に店づくりした

10.7年前に事業を始める際に捨てたもの

・すべてのスキンケアをやめた
・ファンデーション、マスカラ、乳液、化粧水、何もかも全部捨てた
・事業を始めるにあたり、覚悟を持って取り組むため
・化粧に充てる時間を潔く捨て、事業に取り組んだ
・髪型も同じ、服も青い服と決めることで、生活が単純に
・周りの声に左右されたくないので、Twitterもやらない

11.事業で新しいことをしたくならないのか?

・これやったら儲かるなというアイデアはある
・が、儲かることはやりたくない
・「儲かる」という表現が嫌い
・儲かるということは、利益を取りすぎているのではないか?お客様のためになっていないのではないか?
・打ち上げ花火のように一瞬で終わってしまうのではないかと、自分の中でストッパーがかかる

12.事業に波は起こさない

・例えばタピオカドリンクが流行っているが、ブームはいつか去る
・そのとき、働いていた人はどこにいくのか?
・ブームが終わったら仕事がなくなるというような、人が不幸になる波は作りたくない
・だからこそ、ブームになりそうな山をならし、1日100食という上限を決め、安定した事業ができるようにしている

13.消費者の嗜好の変化に不安にならないのか?

・レシピ、材料は開業時から何も変わっていないし、季節商品も扱っていない
・一般的な商品のプロモーションとしては間違っているかもしれないが、「変わらない」ことも大事だと思っている
・新しいものを追い求める心と、安定を追い求める心は人の中に半々であるのではないか
・新しいものを出す方が楽。安定した商品を腰を据えて提供する方が難しい

・正直、不安はある
・忘れ去られる不安、新しいものに流れていってしまうのではという不安
・そこで、唯一の広報担当である、自分の実力が試されていると思っている
・忘れられないように、思い出してもらえるように努力しようと思っている
・世間の前に出るのはいい事ばかりではないが、自分が選んだ道なので覚悟を持ってやろうと思っている
・自分は、「家族、従業員を守らないといけない、お客様のため」にという使命感が怖さを上回っている

14.世の中の働き方について

・社長にもっと言えばいいのにと思う
・休みの取り方や残業の仕方が気になる
・例えば好きなアーティストのコンサートでも、「チケットが取れたから休む」であなく、「休みが取れたから行く」という点
・佰食屋では、「チケットは先に取りなさない」と言っている
・取れた日に休み申請したら、絶対休みをとってもらう
・全国の社長にも言いたい

15.佰食屋での職場の雰囲気づくり

・働きやすい雰囲気、休みがとりやすい雰囲気づくりをするように各店長に言っている
・自分も介入するようにしている
・例えば休みでも、従業員同士だと、どうしてもギクシャクしてしまう

「自主的に頑張ってくれる人はリーダーにとって楽だが、周りの人にとってはプレッシャーになったりしますよね」by野村さん

・うまく働けない従業員もいるので、適度な距離感でフラットに働ける雰囲気づくりは、管理職、経営の仕事だと思っている
全従業員のことをお客様だと思っている
・みんなが気持ちよく働けるように「おもてなし」を心がけているし、各店長にもそう言っている
・例えば、タイムカードの真横に休暇申請書を大量に用意し、いつも業務で触る袋に入れてもらうようにしている
・休暇申請書を出すという行為がいつもの業務の延長線上で行えるように
・「休みをとる」という行為の心理的ハードルを下げている

16.今後、佰食屋をどうしていきたい?

・座右の銘は「朝令暮改」なので、今後変わるかもしれない
・いまの時点での考えは、
 ー子どもに継がせるつもりはまったくない
 ー本店は自分たちの目が届く間だけ経営する
 ーフランチャイズをどうしようかはまだ決めていない

・思いを持って始めたものは、人に伝えると思いは半減する
・だから、終わりを見据えて営業している
・また、今の事業を譲って、その時代に合わせた新しい事業を始めるかもしれない
・自分はゼロイチのしごとが好き、面白い
・なかったものを生み出したときの世間へのインパクト、反発された後に、その評価を覆していくところが面白い
・夫はお肉以外にも和食などもできるので、今、3メニューくらい開発進んでいる
・また、自分がパティシエの資格を持っているので、もしかするとスイーツもあるかもしれない

17.質疑応答

たくさんの質疑応答がありましたが、その中で印象に残ったものを

①働いている人は全員、正社員なのか?
・お店は、お客様100人を5人で回すという設計をしている
・正社員3人アルバイト2人という割合
・従業員構成は、正社員15人アルバイト15人
・佰食屋で働きたいという人から連絡をもらうことが多いが、電話してきた時点で、電話できるほどの積極性があるということでお断りしている
「今、働いている従業員に合うか?」というのを重要視している
・積極的な人、成功してきた人が入ると、今いるメンバーのテンションが下がってしまうので、その積極性は他で活かしてもらうようお伝えしている

②今の日本の働き方改革をどう思うか?
働き方改革は従業員が進めるものではない、会社のトップが進めるもの
・残業や休みなどはトップが決めるものであり、どこまでしっかりやるかはトップ次第

③従業員が働いているうちに主体性や積極性が出てきたらどうしている?
・店長といったポジションも用意しているが、佰食屋の枠に収まらなくなったら、卒業してもらうのが最善だと思っている
・従業員にも、「席を空けられる人は空けてください」といっている
・退職金等、そのための応援もしている
・必要な人が働けるように、うまく循環させていければと思っている

④自分も障害のある子どもがいる。障害者のための雇用を増やすのにこのビジネスモデルが有効だと思うがどう思うか?
・障害者を家族に持つ人からの問い合わせが多い
・自分たちがフランチャイズをパッケージ化して展開できるのは、もう少し先になる
・もしかするとできないかもしれない
・なので、(佰食屋の)アイデアを真似してやってくれる人がいれば、ぜひやって欲しい
・自分は、「何の支援もない普通の人を支援したい」、「ギリギリの所で生きている人を支援したい」
・とガイアの夜明けでも言ったがカットされてしまった・・・

⑤従業員のモチベーション管理の仕方は?
・元々高校の教師を目指していたこともあり、1クラス30名の担任という意識
・なので、従業員から連絡があると、すべての仕事を差し置いて、30分で駆けつける
どんなの仕事よりも従業員が楽しく働くことに重きをおいている
・お店に顔を出す際は、お菓子を必ずもっていく、会話のキッカケになればいい
・お菓子を挟んで会話することで、従業員同士の間も柔らかくなる
・お店で従業員に会ったとき、その人に合わせて褒めるようにしている
・1人1人に声をかけたら10分で店を出るという距離感を心がけている
「会社のために頑張ろうではなく、楽しいから頑張ろう」と思ってもらえるようにしている

さいごに

改めて、「お客様のため」というのはもちろんのこと、

「従業員の幸せ」

を、とてもに大事にされている方だなと思いました。
そしてそれを、著書にも書かれているとおり、「仕組み化」に向けて取り組んでおられる。

自分が嫌なことは従業員にもさせたくない、自分が働きたい会社にしたい、「頑張れ」なんて言いたくない、仕組みで人を幸せにしたい・・・

そんな中村さんの思いに触れ、私も自分の働き方、そしてライフ・ワークの「働き方改革」について、

「なにが幸せなのか?」「どうなれば幸せなのか?」

を意識し、今後、取り組んでいきたいと思いました。

とりあえず、今度、京都に行った際は佰食屋でステーキ丼を食べたいと思います!!!
(中村さんによると、Facebookで整理券の配布状況や、たまに整理券なしで食べられる時間帯の案内があるそうです)

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