妊娠という奇跡と、流産という現実の話 3/6
46歳で初めての妊娠と流産を経験した話。今回は3回目の健診で流産がわかった時のことと、その後の心の動きと、夫と揉めた話などについて。やはり、いつもよりは情緒不安定でした。
9週の壁
2週間後の健診の日、前日の晩から喉を痛めて、朝から熱っぽかったけど、いつも通り少しドキドキしながらエコーを受ける。毎回の質問、つわりはどうですか?全く無いです。と言いながら。
今回は少し時間がかかる。いろんな角度から胎芽の様子を見て写真を撮ろうとしている。写りが悪いのかなと思いながら見つめていると、「2週間前から余り大きくなってない。」「動いてないでしょ」「大きさ的には8週後半の大きさだから、そこから育ってないんだと思う」と、医者が暗めのトーンで口にした。
ダメだと言われることを構えていた今までと違って、今回は大丈夫、と言われるような気がしていたから、心構えができていなかった。
「心拍も無いですか?」「無いですね・・・。」
ダメになることはずっと想定していたつもりだったけど、やっぱりショック。色々な高齢妊娠の体験談を見ていた中で、妊娠9週の壁と言う言葉がずっと引っかかっていた。けど、出血もないし自覚症状もなかったし、前回の健診で初めて元気だと思えたし、大丈夫だと無意識に信じていたみたいだった。今週で10週目になるから、胎芽から胎児だな、なんて、ほんのりと楽しみに思っていただけに。
「すぐには心の整理がつかないと思うから、来週もう一度確認してからどうするか決めましょう」と言われた。
処置の場合、医療費無料の補助は受けられないから、通常の健康保険診療になります。保険証を持ってきてねと言われる。なるほどそうよねと、ちょっとへこむ。
とりあえずその次の週の予約を入れて帰る。「もしそれまでに大量の出血があれば昼間なら来ていいから電話してね。だいたい週末とか夜に起こることが多いような気がするんだけど。」と言う言葉に少し不安を煽られる。
帰宅して、夫に話す。「ダメだった。心拍が確認できなかった。やっぱり染色体異常があったんだと思う。」何度も想定していた内容だったから、冷静に報告できた。そうかと、しばらくの間黙った夫は「あなたは実際のところ、どう思ってるの?」と聞いてきた。
あまり内面を外に出さないタイプだから、驚いていても悲しんでいても、人にはあまり伝わらない。でも今回はショックは受けているけど感情がまだ追いついていない部分があった。
「実際のところ、わからない。ずっと、妊娠が継続したらいいとは思っていたけど、その先を想像することを無意識にセーブしていた。そのためか、ダメだったことへのショックと残念だと言う気持ちはあるけど、それ以上のイメージが今はできていない。」そう夫には答えた。
この時は、想定していた可能性の高いシナリオが現実になってしまった。でも仕方がない、としか言えなかった。頭で考えていたことが先に立ち、感情にまで落ちてきていなかった。
実際、気持ち的にこたえてくるのはこの後だった。
この日は、元同僚たちとの同窓会に行く予定だった。でも朝の時点で風邪もあって参加を見送る旨を連絡していた。夫も仲良くしていたメンバーだったから、欠席の自分の代わりに楽しんできてと送り出した。
家で一人でご飯を食べていると、なんとなく気が沈む。欠席した同僚たちと、次の集まりの相談をするためにLINEビデオで打ち合わせをする。
熱が上がってきたので打ち合わせを切り上げた後、早々に布団に入った。その夜は熱が上がってしんどくて、なんだかとても嫌な夢をたくさん見た。
ジワジワ募るショックと夫とのいざこざ
翌日の朝には熱も下がって仕事に行った。熱はないけどだるいし喉は痛いし鼻水も出る。普通に働いて、同僚といつも通りに談笑して、ご飯も食べて、家に帰った。でも常に頭の片隅から、命が消えてしまった胎児がのことが離れない。まだお腹の中にいる事実は変わらないのに、体感も変わらないのに、その子は死んでしまっているという事実がジワジワと堪えてくる感じだった。
家に帰ってからは、とりとめもなく今の状況に近い人の体験談を検索して読みあさる。夫からの連絡も無いから帰るかどうかもわからなかったが、体調も悪いので早々に就寝した。
その翌日は打ち合わせで外出。14時ごろに前日帰らなかった夫から、昨日は仕事で寝落ちして連絡できなかったと初めての連絡。私が好きな美味しいパン屋さんのパンを買えましたとの写真付き。
このタイミングで連絡なしの無断外泊は無いだろうと怒る私。夜2時ごろに帰れない旨のメッセージを送ったつもりだったんだけど寝落ちして送れていなかったとの言い訳を聞いて、さらに怒りを募らせてしまう。
夫はとても人が良くて正直で、浮気もできない人だから、その面に関しては何も疑っていない。感情的で感覚的で、目の前のことですぐいっぱいいっぱいになってしまう人だということは知っているから、仕事で精一杯だったんだろうということはわかっている。わかってるけど、今の私には許容できない。いつもは仕方がないと流すところでも、今回に関しては流せない。
今の私が風邪をひいて体調的にも精神的にもしんどいことは知っていると思う。そもそも以前から、できるなら一緒に晩御飯は食べたい、食べられないなら連絡が欲しい、帰れないなら事前に連絡が欲しいし、会社に泊まりは基本ないと思うという要望は何年にもわたって何度もしている。
なのに、今、このタイミングで何の連絡もなしでの無断外泊をした上で翌日昼過ぎに連絡っていうのは今まで私が言っていたことを何も聞いていないし、今の状況を何も考えていないとしか思えない。その上での今回の件は、あなたが自分しか見ていないと思ってしまうし、どうかと思う。私のことがあまりにも考えられていないと感じる。気にしているなら寝落ちする前、帰れないと思う前の時点で、連絡すると思う。そうする必要を感じずに、自分の状況を言い訳にするところがあまりにも酷いと感じる。今、私のお腹の中には死んだ子がいるんだよ。そのことに関してどう思うの?と、怒りを隠せなかった。話しているうちに情けなくなって泣きたくなってきた。
その時、突然夫の目から涙が吹き出して驚いた。子供の事はかわいそうで考えないようにしていたんだと、掠れた声で話して嗚咽する夫を目の前にして、怒りが引っ込んでしまった。
考えないようにして逃避するのもどうかと思うけど、言われて初めてそのことを考えた事でショックを受けて泣いている姿を見ると、もう良いやという気持ちになった。その後は落ち着いた夫と、私だって辛いことを理解して、自分の事だけにならずにもっと気遣ってくれという話をして終了した。そんな話をしている事はちょっと悲しかったけど、本当に気付いてないだけなんだなあと思った。
知りたかったことや話したかったことがたくさんあった。でも内容がプライベートすぎて、逆に自分に近い人には知られたくなかった。その上で話をする場が欲しかった。そんな内容です。