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妊娠という奇跡と、流産という現実の話 1/6

46歳の夏、初めて妊娠して流産した。結婚してから12年目の衝撃だった。高齢での妊娠だったから、リスクばかりを想像して、うっかり期待してしまわないようにすごく心にブレーキをかけた。ダメになる可能性を考えると、夫以外には友達にも親にも、誰にも言えなかった。結局誰にも言わないままで、全てが終了した。誰にも言えなかったから、事の経緯の中で起こった色々が消化しきれなくて、モヤモヤした気持ちが拭えない。モヤモヤを昇華させるために、事の顛末を書いてみることにした。この思いがけない妊娠から流産までの経緯の中で、私が得た情報や経験が、少しでも誰かに役立てばいいと思う。

まさかの妊娠発覚

この期に及んで妊娠するなんて想像もしていなかった。生理が遅れても、そろそろ閉経かなーなんて思ってた。でもなんとなく変だと感じて念のために検査薬で調べたら陽性反応が出た。出会い頭の事故ぐらいびっくりした。それでも婦人科で検査するまでは信じていなかった。エコーで赤ちゃんが入っている胎嚢が見えると言われた時には愕然とした。私が喜んでいないように見えたのか、医者は私に結婚してるのかと聞いた。「してるけど、歳が歳なので驚いて」「何歳だっけ?」「46歳」と答えると、「え、そんなに...?」と、少し慌てたようにカルテを見返した。

その時点での週数は推定で5〜6週目ぐらい。「胎嚢は見えるけど赤ちゃんの姿が確認できない。排卵が遅れていたらまだ小さくて見えない可能性もあるけど・・・」「高齢での妊娠は初期流産の可能性がとても高いから」と、言葉を選ぶように伝えられる。

恐らくはダメである可能性が高いのだろうと思いつつ、1週間後に受診予約をして帰った。

とりあえず初めてのエコー写真を持って家に帰り、夫に見せて話をした。

夫もとても驚いていた。

でも、まだどうなるか本当にわからないから、人には言わないでねと口止めする。

そしてむやみな希望も悲観も持たないように、現状に近い人の体験談などを検索して、これから起こりうることや可能性を考えた。



心拍が聴こえた!

次の受診は1週間と3日後だった。エコーで見ると、胎嚢は大きくなっていた。その中に赤ちゃんになる胎芽が見えた。「心拍ありますね」と、ドコドコと鳴る音を聞かされた。

「やっぱりダメだった。」というセリフを聞かされると思い込んでいたので、心の底から驚いた。心拍って。。と。

心拍が確認できたから、次の受診までに母子手帳をもらいに行くよう指示された。次の受診で妊婦検診をするから区役所でもらうチケットを持ってきてね。受診費用は無料になるからと。

そんな仕組みだったのか〜と、今までの人生で無縁だった医療費免除に驚いた。妊婦には保険が効かないと聞いたことがあったから、最初は自費診療、自治体への事後申請でキャッシュバックになるようなイメージを持っていた。この制度ように最初から補助してくれた方が楽でいいなと思った。

それにしても心拍の音はとても衝撃だった。エコーに映し出された胎芽の姿と合わせて聞くと、とても感慨深かった。

母子手帳をもらいに

母子手帳を受け取っても、すぐにダメになる可能性を考えてしまうと本当にもらいに行っていいのか躊躇する気持ちがあった。それでもスケジュールの空きを見て、3日後そろりと区役所へ行ってみた。

転居や印鑑証明、住民票、戸籍、保険その他諸々日常生活の手続き窓口なら知ってるけど、母子手帳ってどこでもらうんだ?と、おずおずと係員の人に聞いてみる。なんか高齢なのにすみませんという気持ち。普段の生活では年齢なんて、あまり気にしたこともないのに。妊婦とか母子とか言う場所では何故こんなにも気が引けて、年齢を気にしてしまうのか。

窓口で母子手帳をもらいにきた旨を伝えるとフレンドリーな若い女性の係員が手続きをしてくれた。なんかまたすみませんな気持ちで書類に記入して印鑑押して手帳を受け取って終わり。

かと思っていたら、それだけではなく色々なアンケートやヒアリングがあることに驚く。しかもプライベートにグイグイと踏み込んでくるような内容。同居の家族はいますか?親は手伝ってくれますか?相談できる人はいますか?思いがけない妊娠ですか?パートナーは喜んでいますか?不安感はありますか?

はい。はい。はい。はい。はい。はい。

思いがけなかったの?どうして?何が不安? 

高齢だし今までの経緯から子供ができることは無いと思ってた。

うーん。こんなによく知らない人から、ここまでプライベートな話にグイグイ踏み込んで来られることは今まで無かった。事前に育てることが難しい人を把握しておくことで、虐待やトラブルを防ぐ目的なんだろうなあと、考えればわかるんだけれど、とにかく面食らった。係員の人からは、親身になって話を聞こうと言う気持ちが伝わってくるから嫌な気持ちにはならない。けれど、自分の中の一線を超えて踏み込んでこられているような感覚を覚えて戸惑った。

手帳をもらって、妊娠出産の心得冊子や出産後の注意事項や子育てについてやその他諸々出産後に使うような試供品まで大量の配布物をもらって帰途につく。正直、今の段階で出産後の試供品をもらう事には抵抗があった。年齢が若いと不安も少なくて、単純に嬉しいんだろうなと思いながら持ち帰り、同居している親の目に触れない場所にそっと隠した。私も高齢なら親も高齢。できるならなるべくがっかりさせたくないので、親にはギリギリまで言うつもりはなかった。

知りたかったことや話したかったことがたくさんあった。でも内容がプライベートすぎて、逆に自分に近い人には知られたくなかった。その上で話をする場が欲しかった。そんな内容です。