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書評「私はあなたの瞳の林檎」

けっこう厳しめの内容だったせいか、原稿が没になったのでここに収録しておく。有料マガジン買ってる人だけに限定公開ということで。


 00年代。舞城王太郎のデビュー作『煙か土か食い物』は圧倒的にヤバかった。
 特異で饒舌な口語文体と異様なテンション……すべてが尖りまくっていて、信者はそれに痺れまくり、絶賛して褒めまくっていた。
 むろん懐疑的な人や拒否反応を示す人はいたが(大塚英志がチクッと苦言を呈していたのを覚えている)、それすら信者にとっては、
「なぜこれがわからないのだ!」
 というもどかしさも相まって信念を強固にする要因となっていた。
 ぼくももちろん同じように「スゲエ!」と思っていた信者の一人なわけだが、同時に、
「あれ? 石丸元章が別名で小説を書き始めたのかな?」
 という邪推をしたのも確かだった。
 説明しておくと、石丸元章は90年代を代表するゴンゾライターであり、自らの覚醒剤体験を尋常ならざる精神状態で綴った傑作『SPEED』の著者である。
 小説とルポという表現形態こそ違えど”特異で饒舌な口語文体と異様なテンション”そのものには既視感があったのだ。
 ぼくは、石丸元章と舞城王太郎の文章にどこか似た匂いを感じた。覆面作家というところも「ああ、石丸さんっぽいなあ」と思っていたのだが、あれから10年以上が経って、それは二つの意味で間違いだったことに気づかされた。
 そのことについては後述するとして、今回の作品集『私はあなたの瞳の林檎』、『されど私の可愛い檸檬』の二作を読んで、今ぼくはすごく複雑な気分になっている。

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