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技術解説:D.P. –脱走兵追跡官–

究極のディフュージョン効果?!脱走兵追跡官たちの活動を通して、韓国の軍組織の不条理や社会問題を描いた、話題の Netflix ドラマ『D.P.』の撮影技術を解説していきます。

当記事は、動画制作のオンラインサロン UMU TOKYO で公開されたものです。限定公開を目的に有料化をしています。公開日:2023.8.4
https://community.camp-fire.jp/projects/view/231393

2021 年に Season 1(全6話)が公開された Netflix 製作の韓国ドラマ『D.P. -脱走兵追跡官-』は、APAN Star Award、Baeksang Arts Award など、韓国国内の数々の賞を受賞する話題作で、2023 年に Season 2(全6話)が公開されています。

D.P. 2 - Official Trailer

1. ARRI ALEXA Mini LF

この作品の映像表現の中で、とりわけ目を引くのがハイライトが溶ろけるような クリーミーな質感 です。その独特なディフュージョン効果については記事の後半で触れますが、まずはカメラまわりの機材構成について、簡単に見ていきたいと思います。

D.P. 2 - Now Streaming

2022 年、ARRI の最新モデル ALEXA 35 が、Netflix Approved の認証を得たことで、Netflix オリジナル作品でも使用できるようになりましたが、本作は 2020 年に撮影を開始していることもあり、カメラは 35mm フルサイズ規格の ARRI ALEXA Mini LF が使用されています。

D.P. 2 Check Point: Inside Look

カメラ設定に関しては、あまり特筆すべき点が見当たりませんが、意図的にカメラの感度を変える Exposure Index 的なアプローチもなく、シャッター開角度が常に 180° に設定されているなど、昔ながらの映画撮影のメソッドが徹底されている点は、逆に新鮮な印象があります。

同じデジタルシネマ作品と言えど、たとえば、CM や MV の撮影では、カメラや被写体の動きが激しい場面で、動きのキレをよくするためにシャッタースピードを上げることがありますが、作品への “没入感” が重要となる映画作品では、場面ごとに動きのブレ感が変わると違和感が生まれるため、基本的に シャッター開角度(Shutter Speed)は一定にする、というセオリーがあります。

本作では、アクションシーンがたびたび登場しますが、Behind The Scenes 映像を見るかぎり、そうした動きの激しい場面でもシャッタースピードを上げることなく、180° を維持したまま撮影されている印象があります。

D.P. 2 Check Point: Inside Look

また Behind the Scenes 映像で、カメラのビューファインダー画面を拡大して見てみると、モノクロ映像のところどころに極彩色が表示された、False Color の機能が使用されている様子が見られます。

D.P. Behind The Scenes

ALEXA シリーズの False Color 機能は、18% Gray を 緑色、白飛びする手前のハイライトを 赤・黄色、黒潰れする手前のシャドウを 青・紫色 で表示する仕様になっており、露出管理をする上で最低限の情報がリアルタイムに確認できるようになっています。

ARRI Tech Talk: ALEXA 35 Workflows - LogC4 Tonal Curve, False Color, Exposure

続いて、その特徴的なディフュージョン効果について、Behind The Scenes 映像を見ながら分析をしていきたいと思います。


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