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それならそれでユートピア12(モテそうでモテない男)

朝8時を過ぎた頃、三ツ矢の電話が鳴った。

二日酔いをまだひきづってた状態で電話を受けると声の主は
「おはよー、三ツ矢ちゃん」
とテンションの高い声で漲っていた。

「あー、おはようございます・・・」
声にならない声で三ツ矢が答えると
「だめじゃない、朝からそんなテンション低いなんて」
「いや、朝だから低いんですよ」
「いやいや、朝から元気でいないと幸せが寄って来ないよ、ボクちゃん、いま幸せの絶頂期」
「はいはい。らしいですね。年下の彼女が出来てテンションが高いってみんな言ってましたよ」
三ツ矢はみんな迷惑してますよ、と言おうとしたが咄嗟にやめて言葉を言い換えた。

「三ツ矢ちゃん、また彼女と別れたんだって」
「そうっすよ。昨日はやけ酒ですよ」
「いかんよ、いかん。やけ酒はお肌に悪いから」
「やっぱりお肌のケアをしないと若い子にはモテないっすか?」
三ツ矢がわざと嗾すと
「よくわかったね。お肌のケアはね、、」
と案の定乗っかってきたので、話を遮って
「で、朝っぱらからなんなんですか??」
「そうそう、また怪しいのを見つけたからちょっと追いかけてほしいんだわ」
「場所はどこですか?」
「新宮」
「あー、了解です」
「今からそいつらの様子を言うからメモって」

三ツ矢はパソコンを立ち上げ特徴を書き始めた。

「ということだから、ひとつよろしくちゃんねー、ボクちゃん、これからデートだからなんかあったらLINEしといてねー、ちゃおー」

朝から地獄のような時間だった。

三ツ矢はメモをしたパソコンを閉じて珈琲を飲みながら、昨晩の様子を思い出そうとした。
しかし、出てくる思い出は曖昧ながらどれもあまりいい気分のものではなかった。なんであんなこと言ってしまったんだろうか?
なんであんなことやってしまったのだろうか?

ムカムカする胃袋と珈琲の相性はあまりよくない。
電子たばこを吸おうにも、充電をし忘れたようだった。

「あー」

三ツ矢はため息を吐きながらソファに座り込んで時計をみた。
こっから新宮だと現地でスタッフを集めるとなると、実際明日の夕方からの作業になる。

「ダルっ。しかもオレの手柄って少ないんだよなぁ」

だけど、なんでフラれちゃったんだろうか?
ルックスだってそんなに悪くないし、金だってある。友達も多いはず。
実際、結構モテるし。

だけど、彼女になると長続きしないんだよなぁ。
なんでも言うことを聞いてあげているしのになぁ。

三ツ矢は誰が見てても本当にいいやつで、見た目もカッコよく、実直で年齢に関係なく人気があった。
そして彼の周りには人が集まっていて、いつも賑やかだった。

しかし、特定の恋人となると、なぜか長続きしなかった。
彼は優しく、さらに恋人の言うことならなんでも聞いてあげる包容力もあった。
全部の願いを叶えてくれる王子様なのにも関わらず、付き合った相手はみんな途中でその優しさに飽きてしまう。
優しさが当たり前過ぎて刺激がなくなってしまうのだろうか。
直球ばかりで緩急がなく刺激がないのかもしれないが、それは相手のわがままなのだろうか。

釈然としないまま、三ツ矢はシャワーを浴びた。

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