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【産地訪問 尾州①】 蘇る羊毛と、その現場

現場に行ってわかること
尾州の再生羊毛と、人の営み

うなぎの寝床に入り、日本各地のものづくりや産地、文化に触れ、知れば知るほど、自分が生まれ育った身近な地域のことほど、案外よく知らないものだなと実感しています。

愛知県一宮市一帯の尾州産地は、全国一の生産規模を誇る毛織物産地。制服やスーツ、コート地などを手がけ、世界のハイブランドにも技術力が認められて生地を供給しています。私は愛知県で長らく暮らしてきましたが、そんなすごい産地が身近にあるとは、まるで知りませんでした。私だけが例外ではなく、地元住民にさえ尾州産地があまり知られていない現状があり、それを「なんとかしよう!」と活動しているのが大鹿株式会社のデザイナー・彦坂雄大さんです。

尾州では、新しい羊毛から生地をつくるだけでなく、羊の原毛が高価で希少なため、ウール素材の衣服の古着や工場から出る余剰生地を砕いて、繊維に戻し、糸に再生する反毛(はんもう)文化が50年以上前から根付いてきました。彦坂さんは、反毛でできる再生羊毛(リサイクルウール)の生地に価値を見出し、テキスタイルブランド「毛七」を立ち上げ、産地を伝える活動に取り組まれています。

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うなぎの寝床では尾州の「毛七」を伝えるもんぺを発売し、新色も展開を広げています。今回、彦坂さんに再生羊毛の生産現場を工程順に案内していただく機会に恵まれたので、現地で見聞きしてきたことをお伝えしたいと思います。

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宝の山を見つめて半世紀

全国からトラックで運び込まれる、何トンもの古着の山。ここは、一般家庭や企業から集まったウールの古着や残反を分類する、シンコー繊維。反毛の最初の工程を担う生地の仕分け工場です。

倉庫に広がる雑然とした光景に圧倒されていると、ハサミを握る社長の姿がありました。戦後、物資も仕事も不足していた中でこの仕事をはじめたことや、ガチャ万景気と呼ばれた最盛期の黄金時代、今に至るまでの波瀾万丈のお話を伺いました。

おもしろいなと思ったのが、集まってくる古着の状態が時代や地域性を映しているという話です。好景気の時には高価な服が集まり、最近はファストファッションの安価な物が多く簡単に服が手放されるようになっている。また、流行の移り変わりの早い都市部や温暖な地域から集まる古着はあまり着られないので状態が良く、地方や寒い地域から来た物は使い込まれている傾向にあると。古着を見て、人々の生活ぶりまで読み解けるのは、長年仕分けの現場から産地の変遷をずっと見つめてこられた方ならではです。

作業は想像以上にアナログで、1着ずつ手作業でウールと化学繊維のものを分類し、ボタンや洗濯ネームなど生地以外の部分をハサミでカットして35~6の色系統に分けていくというもの。

おもむろに、彦坂さんの服に触れて「綿鹿の子っぽく見えるけど、これもウール」と指先の感覚だけで素材を当ててみせてくださりました。試しにいくつか生地に触れてみたものの、私にはまるで違いがわかりません。センサーのような指先で、触れた生地をポイポイと軽やかに仕分けていかれるので、経験を積めば、指先の感覚はここまで研ぎ澄まされるのか…!と度肝を抜かれました。

ちなみに再生羊毛にできないものは、フェルト原料になって、車の断熱材などに生まれ変わります。自分達が活動する久留米絣の産地でも、ハギレや染色の際にできる糸の再活用を行おうとしています。一方、尾州の場合は自動車産業の盛んな土地柄で用途が産業用にまですでに広がり資源活用の流れが当たり前にあることに底知れぬ産地のスケールの大きさを感じます。

仕事の苦労を尋ねたら「タダみたいなものが、やったらやった分だけ金になる。まるで宝探し。こんないい仕事はない」と話された社長の表情は底抜けに明るく、無邪気に見えました。長年仕分け作業をとことん突き詰めて、仕事に楽しみを見出し、誇りを持って続けてこられたことの凄みを感じます。

尾州の再生羊毛文化が、持続可能性の側面で見直される向きもありますが、実際に産地でさまざまな時代を見てきた方のお話を聞いて、生きるための手段として必然に起こり、続いてきた文化なのだと思いました。

品質本位のプライド

次に向かったのは、仕分け工場で分けられた生地を砕く工程を行うビサイ整毛。繊維をほぐす反毛工場と聞いていたので、埃っぽい環境なのかと思いきや、整然と床は綺麗に掃き清められ、生地をカットする刃がピカピカに磨き上げられています。

職人気質な社長は、御歳80歳を超えてもなお、現役バリバリ。元機屋で、婦人服や紳士服など最終製品の生地を織っていた時代もあるからこそ原料の品質の大切さを知り「うちは他の反毛屋とは感覚が違う」と繰り返しながら、各工程の要のポイントをひとつずつ教えてくださりました。

まず、仕分け工場から納品された原料を入念にチェックし、生地を細かく切断します。

そこに繊維を柔らかくする作用のある油をかけてまんべんなく丁寧に行き渡らせます。すると、反毛の繊維が切れにくくふんわりと仕上がります。その後、化学繊維を細かく砕きながら混ぜて繊維の強度を足しながら、刃がびっしりついたローラーで整えたら糸の原料の完成です。

出来立ての反毛のわたを触らせてもらったら、ふわり、柔らかさがありました。前述の工程が不充分だと、良いものができません。原料の良し悪しが最終製品の品質も左右するため、たとえ見えない部分の工程でも、次の工程のことを考えて妥協せず品質を守ってきた方々がいたこと、また携わるひとりひとりが産地の仕事に誇りを持ち、継承されてきたことで、尾州の再生羊毛文化は50年以上も続いてきたことが、産地を訪れてはじめてわかりました。

意外と、手間がかかるのが機械の掃除です。繊維クズはローラーに溜まりやすく、こまめな掃除が欠かせないものの、身体が巻き込まれないよう細心の注意を払う必要があり、大きな危険を伴います。

「誰かやってくれるならいつでも辞めたいけど、この人が辞めさせてくれない(笑)」と彦坂さんを指す社長。「いつでも辞めたい」という言葉を目の前で聞いて、後継者不足が現実味を帯びて見えました。彦坂さんによると尾州産地の職人の高齢化の進行は深刻な課題で、前述の仕分け工場、反毛工場をはじめさまざまな工程の職人が不足しています。今後、産地が続いていくためにはどうしたらいいか?その模索は続いています。

田中

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