ドーントレス・シティ


 過去は全て焼き払われ、すべては改められた。それがこの街の全てだ。ウハラは何度もリフレインした。

 ウハラは企業傭兵として数々の非合法活動に関与してきた。潜り抜けてきた修羅場は両手では足りない数に経験している手練れの傭兵だ。端末に企業連の一角、シマヅ・エレクトロニクスから仕事依頼が届いたのは数日前のことであった。
 メールに記された打合せ先は傭兵の巣として有名なバー『ブリガンダイン』であった。そうでなければアルコールを受け付けない重サイバネボディで足を運ぶ理由はないのだ。
(この街はいつも変わらない。街を焼き払われたのは昨日のことに見えてくる……)
 一人ごちながら、ノンアルコールドリンクを飲んでいると、「あなたが、ウハラさんですね?」とミラーシェードグラスをしたサラリーマン風の男が声をかけてきた。

「あんたがシマヅ・エレクトロニクスのエージェントか?」
 ミラーシェードグラスのサラリーマンはうなずくと名刺を差し出した。ウハラはサイバネカメラですかさず名刺をスキャンしたサイバネカメラ視界には〈シマヅ・エレクトロニクス 人事部渉外課 エンド・コータ〉と出てきた。

「ウハラさんの腕を見込んで頼みたいことがあるのです。ちょっとしたボディーガードなのですが弊社の重役がサッポロの企業連会議に出席することになりましてそれに同行してほしいのです」
「まぁ、俺は別に構わないが、何故企業連の兵隊を使わないのか?」
「ここだけの話なのですがブランシュタイン社絡みのきな臭い動きがありまして、獅子身中の虫を避けたいのです」
「なるほど企業連の内部政治は複雑怪奇ということか。報酬は勉強させてもらおう」
「まぁ今回の依頼は、いざというときの保険のようなものですので、報酬は相応に出しますよ」
「契約成立ということだな。エンドさん今夜は俺が奢ろう。酒を飲むがいい」
 二人はうなずき合った。


【続く】

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