見出し画像

渋谷109の後ろになんか生えてる。――渋谷スクラップアンドビルド&スロープ――


(2022年 7月22日)

そもそも、「渋谷」とは?

 一口に渋谷といっても、その範囲は文脈によって様々だ。

 まずは、渋谷区。東京23区の一つ。渋谷駅周辺を初めとして、代々木、恵比寿、広尾、笹塚といった有名な街も多い。

 次に、渋谷区渋谷。渋谷駅に、駅前の渋谷スクランブルスクエア、渋谷ヒカリエ、渋谷ストリームといった東急による再開発のビル群。少し離れて、全国婦人会館・ちふれビル、渋谷教育学園渋谷中高、渋谷城跡の金王八幡宮。

 ただ、渋谷といえば、渋谷。渋谷区渋谷はもちろん、時計回りにざっと桜丘町、道玄坂、松濤、宇田川町、神南を含む地域。これが、いわゆる「渋谷」である。
 「渋谷で5時」に待ち合わせて、恵比寿や代々木にいたら、きっと恋は始まらない。
 「シアタービル」が渋東シネタワー(TOHOシネマズ 渋谷)なら、住所は道玄坂
 「ざわめく交差点」はスクランブル交差点(渋谷駅前交差点)で間違いないだろう。こちらも、道玄坂。ちなみにハチ公も道玄坂。渋谷109も道玄坂。道玄坂、道玄坂……
 道玄坂に偏りすぎるので他の例を挙げれば、セルリアンタワーは桜丘町。東急本店、Bunkamuraは松濤。センター街やパルコ、公会堂、区役所は宇田川町。タワーレコードは神南
 最近は「広域渋谷圏」として、奥渋(宇田川町から、神山町、富ヶ谷)や原宿、青山、中目黒を含める用例もあるが、渋谷といえば、渋谷なのだ。原宿などは特に、やはり単体で十分なネームバリューを持つ街だろう。

山の手のランドマーク

 原宿といえば、最近になって象徴的な旧駅舎が取り壊され、近代的な駅舎に建て替えられた。駅は街の中心にあるものだが、駅そのものがランドマークになっていることは珍しい。

(2018年 2月)


 私にとって、山手線で駅舎の形をすぐに想起できるのは、上野駅、東京駅、新橋駅、高輪ゲートウェイ駅くらいで、とくに西側の駅で「駅そのものがランドマーク」といえるのは原宿くらいだった。
 その意味でも、旧原宿駅の取り壊しは、仕方のないこととはいえ残念に思ったものだ。

 では、山手線西側(山手地区、副都心地区)の街のランドマークとは何なのか?
 それは、駅前の建物が描くスカイラインそのものだ。
 新宿などは想像しやすい。都庁を含む西新宿の街並みを見れば、多くの人が新宿と分かるだろう(逆に新宿駅だけ見せられても、何駅か分からない人も多いはずだ)。
 渋谷ではどうなのか。やはり、それは渋谷スクランブル交差点から109方面を臨む風景だろう。

(from Wikimedia Commons photo by Kakidai 2018 CC BY-SA 4.0)

スクランブル交差点

 渋谷の目抜き通りはどこか、決めるのは難しいが、例えば道玄坂、文化村通り、センター街、公園通り、宮益坂。いずれもスクランブル交差点に集約する。
 こういう、主要な通りが一点に集中する街並み自体は、例えばパリではフォッシュ通り、イエナ通り、シャンゼリゼ通りが集約する凱旋門がそうであるように、そんなに珍しくもないかもしれない。
 しかし、渋谷のこの構造はパリのように緻密な計画によってなされたわけではない。渋谷の地形ゆえに、自然に形成されたものと考えるのが自然だ。

 まず、渋谷という地名だけあって、渋谷は谷である。
 そして、おおよその谷底がスクランブル交差点なのだ。

 渋谷の街は、谷底であるスクランブル交差点から登山道が四方に延びるように形成されている。

  ミニチュア渋谷にバケツをひっくり返したら、水は谷底であるスクランブル交差点に集中する。
 同じように、人の流れもスクランブル交差点に集中する。
 渋谷駅を降りて目抜き通りを歩きながら街に入っていくのは、いわばプチ登山だ。
 登山に疲れて、なにとなしに歩いていると、スクランブル交差点に行き着く。これは単純に高いところから低いところへ行く方が体力を消耗しないからだ。
 道に迷ってもスクランブル交差点。そもそもあなたはスクランブル交差点から街に入ったからだ。

変わりゆく? 渋谷のランドマーク


(2018年1月。既に歴史を感じる写真になっている。)

 さて、山の手のランドマークの話、それも渋谷のランドマークの話に戻そう。
 渋谷のランドマークは渋谷スクランブル交差点から109方面を臨む風景そのものである、というのは先に書いた通りだ。超高層ビルが立ち並んでも、それは変わらない。東京スカイツリーが建っても、東京といえば東京タワーであるように。
 なんというか、スクランブル交差点から109方面(あるいは、センター街方面)に歩いているのが一番、「渋谷」という感じがする。

 だから、109のロゴが変わった時はかなり衝撃的だった。やはり、109といえばあの赤くて掠れたような、かっこいいロゴ。あのロゴは平成とともに消えてしまった。

 それでも、スカイラインは変わらなかった。建物の間に建つ109。背後には空。それが、変わろうとしている。
 いや、変わってしまった。

(2022年 7月18日)

109の後ろに、なんか、生えてる。
 最近、夏真っ盛り。路地にいつのまにか知らない植物が生えてきて、「あれ?こんなところに生えてたっけ?」って思うこと多々あり。それと全く同じ気持ち。
 気づいたのは5月。私は気になって「なんか生えてきた」ビルを見に行った。

(2022年5月)

(仮称)渋谷区道玄坂二丁目開発計画……

 事業主はPPIH。ドン・キホーテだ。ちょうど向かいがMEGAドン・キホーテ 渋谷本店にあたる場所だ。
 店舗、事務所、ホテル等が入る、120mほどの高さのビルになるらしい。ドンキの向かいにビルが建つことは知っていたけれど、109の背後の空を侵食するほどの規模とは想像していなかった。ちなみに109の高さは約50メートル。倍以上だ。

 109は「とお」「きゅう」。東急の持ち物である。渋谷の超高層ビル開発でブイブイ言わせる東急だが、ランドマークを崩されて東急も不憫だな……
 と思ったら設計と事業協力に東急が入っている。スクラップアンドビルド。街並みは変わってゆく。それでも、坂を登っても下りても東急。やっぱり渋谷は、東急の街。Oh,Baby…(オチ)

【追記・8月16日】

(2022年 8月14日)

 先日、新宿駅前からアルタ方面に歩いた。するとおなじみのアルタの後ろにも「なんか生えてる」ではないか。こちらもビルが建ちつつあることは知っていたけれど、アルタの後ろでこんなに目立つほどになるとは思っていなかった。
 この日は通りすがりだったため、わざわざビルの足元まで行くことはしていない。後日Googleマップで確認する。
 驚いた。東急歌舞伎町タワーだ。
 やっぱり新宿も、東急の街。Oh,Baby…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?