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(お蔵入りコント)『親父ギャグ売り~TIME OVER~』

『親父ギャグ売り~TIME OVER~』

アチャ:砂井波亜子。笑介の小説から生まれた女スナイパー。指ピストルが撃てる。
モネ:稿井笑介。売れない小説家。

舞台上、道具なし。1人板付き。(モネ、舞台中央)

■サス照明、明転
□CDトラック 「親父ギャグ売りナレーション1」再生

ナレ「彼は自称・”不遇の天才小説家”稿井笑介。今から22年前、彼は悪魔との契約で自らの小説の登場人物、」

アチャ、舞台下手袖から登場しサスの中に入る。

ナレ「砂井波亜子を現実世界に生み出し、そして結婚。更にはその年のうちに、」

アチャ、赤ん坊の人形を取り出す。

ナレ「第一子が生まれた。」

アチャ「展開も手も早いっちゃ!」

モネ「せっかちなもんで。へへへ。」

アチャ「名前はどうするっちゃ?」

モネ「爆笑の『笑』に『太』いで『笑太』だ!」

アチャ「役所に提出したっちゃ!受理されたっちゃ!」

モネ「この世界のお役所、仕事早ぇー!!!」

アチャ「普通のお役所はそんなに仕事早くないっちゃか?」

モネ「お役所仕事は遅いのが、この世界のおヤクショくってな!」

アチャ「クソつまんないっちゃ!!!」

□CDトラック 「笑太の笑い声」再生

ナレ「エヘヘヘヘ。」

アチャ「笑太が笑ったっちゃ!」

モネ「なんだ笑太!お前、親父ギャグが好きなのか?それにしても生後3ヶ月でもう親父ギャグが理解出来るなんて、成長が早いなぁ!一体、誰に似たんだか。」

アチャ、舞台下手袖にはける。

モネ「そして、その翌年。俺と波亜子の結婚一周年の記念日に”あの事件”は起こった。その日、俺と波亜子は俺の学生時代の後輩に笑太を預け、久しぶりに二人きりでデートをしていた。」

■サス照明から全体明転へ

アチャ、舞台下手袖から登場。

アチャ「しっかりうんちして来たっちゃ!」

モネ「そういうのはあんまりハッキリ言わない方がいいぞ、波亜子。」

アチャ「了解っちゃ!」

モネ「よし、じゃあ映画館に向かうとするか。」

アチャ「波亜子、映画初めてだから楽しみっちゃ!」

モネ「(語り)映画館に到着し、お目当ての映画のチケットを買おうと窓口に行くと、運悪くちょうど良い時間の回のチケットが完売してしまっていた。仕方なく俺たちは次の回のチケットを買い、適当に時間を潰すことにした。」

モネ「…あ、波亜子。ちょっと本屋に寄っていいか?」

アチャ「いいっちゃよ!うちも世界の機密文書の立ち読みしたいっちゃ!」

モネ「そんなもの本屋に置いてねぇよ!」

アチャ「残念っちゃ!」

モネ「(語り)町の小さな寂れた本屋。その昔ながらの雰囲気に惹かれて俺たちは店内に足を踏み入れた。しかし、それがあの悲劇の始まりだった。」

モネ「…ふ~ん、結構マニアックな本が置いてあるな。店主、なかなか良い趣味してるぜ。」

アチャ「ねぇねぇ笑介。」

モネ「どうした?波亜子。」

アチャ「なんか店の人が誰かと揉めてるみたいっちゃ。」

モネ「え?あ、ホントだ。」

□CDトラック 「親父ギャグ売りナレーション2」再生

ナレ(店主の声)「も、もう少し!もう少し待ってはもらえませんか!」

ナレ(厳つい男の声)「そう言ってもう何ヶ月経つねん!ええ加減に払うモン払うか、この店畳むか、腹括らんかい!ジジイ!」

モネ「借金の取り立てか何かか?」

ナレ(店主の声)「この店は私の夢、私の全てなんです!まだ畳むワケにはいかんのです!」

ナレ(厳つい男の声)「せやったら、きっちりと耳揃えて、払うモン払わんかい!大体なんやねん、この店の品揃えは?よう知らん、おもんなさそうな本ばっか揃えよってからに!ジジイ、ホンマに本売る気あるんか?」

ナレ(店主の声)「ありますとも!確かにこの店の棚に並んでいる本は、他の本屋では置いていないような、マニアックなものばかりかも知れません。しかし、全て店主のこの私がこの目で読み、『面白い!』『是非とも他の人たちにも読んで欲しい!』と思ったものなんです!」

ナレ(厳つい男の声)「ほな試しに読んでみたろやないか…え~っと何や?『指ピストルスナイパー砂井波亜子の使命(ミッション)』?おもんなさそ~!!!」

モネ「…俺の本だ。自費出版して最初は1冊も売れなかったけれど、3ヶ月前に遂に注文が入って…買ってくれたのあのジイさんだったのか…。」

ナレ(厳つい男の声)「…くそつまんねぇ~!!!なんやこの子どもだましみたいな小説は!指からピストルの弾が出るて!指ピストラーて!こんな幼稚なもん、誰が金払って読むねん!」

モネ、怒りが込み上げてきて目を見開き拳を握る。

ナレ(店主の声)「そんなことは無い!これは、今の文芸界に失われつつ在る、夢と浪漫溢れる最高の小説じゃ!」

モネ「ジイさん…。」

ナレ(厳つい男の声)「どこが最高やねん!最低の間違いやろ?こんな幼稚なモン読んでるから、ジジイの頭の中も幼稚園児レベルやねん!こんなクソ小説、誰が買うかボケェ!(本を床に叩き付けて、足で踏みつけるSE)」

ナレ(店主の声)「やめろ!!!大切な本を汚い足で踏みつけるんじゃない!!!」

モネ「アイツ!!!」

ナレ(厳つい男の声)「うっさいクソじじい!今度はお前の顔面を踏みつけたるさかいな!」

アチャ「そこまでっちゃ!!!」

アチャ、正面に指ピストルを構える。

モネ「波亜子!!!」

アチャ「さっきから黙って聞いてりゃ、うちの笑介さんが書いた本を、よくもバカにしてくれたっちゃね!!!」

モネ「波亜子、よせ!!!撃つな!!!」

□CDトラック 「親父ギャグ売りナレーション3」再生

ナレ(厳つい男の声)「あぁん?なんや、その構え?まさか、指からピストルの弾が出るって言い出すんちゃうやろな?」

アチャ「そのとおりっちゃ!!!」

ナレ(厳つい男の声)「ぎゃ~っはっはっは!!!こいつぁ傑作や!!!お前、頭おかしいんけ?ぎゃ~っはっはっは!!!」

アチャ「バカにするなっちゃ!!!」

モネ「やめろ!!!波亜子、絶対に撃つな!!!」

ナレ(厳つい男の声)「撃てるもんなら撃ってみい!!!ほら?撃ってみんかいこの女(アマ)ぁ!!!」

アチャ「お望み通りにしてあげるっちゃ…」

モネ「やめろ!!!」

アチャ「アンタの心臓(ハート)を…」

モネ「波亜子、よせ!!!」

アチャ「狙い撃ち、だっちゃ…!!!」

□CDトラック 「親父ギャグ売りナレーション3」F.O.

アチャ、指ピストルを撃つ仕草。

アチャ「BANG!!!」

□CDトラック 「銃声からのパトカー」再生

SE「エコーのかかった銃声」

モネ「波亜子――――――――ッ!!!」

■暗転

アチャ、モネ、舞台下手袖にはける。

SE「パトカーのサイレンの音」

ナレ「撃たれた相手の男はその場で息を引き取り、波亜子は現行犯逮捕された。裁判にかけられた波亜子には無期懲役の判決が下った。俺は波亜子の無実を訴えたが、その声は届かなかった――。波亜子を失った俺の心は日に日に荒んでいった。そんな俺の様子を見かねて声を掛けてくれたのが、あの日笑太を預かってくれていた学生時代のミステリ研究会の後輩、羽似神笑美(はにかみえみ)だった。彼女は笑太を我が子のように世話してくれて、そんな彼女の優しさに徐々に惹かれていき、いつしか付き合うようになった。そして14年前のある日、絵美と俺の間に女の子が生まれた。俺たちはその娘に『麗亜』と名付けた。」

(ナレーションの終盤でアチャ、舞台上に板付き。)

■明転

アチャ「笑介クズ過ぎるっちゃーーーー!!!うちというものがありながら、他の女と子ども作るなんてどうかしてるっちゃ!!!特定の人物の行動を遠距離からでも観測出来る特殊能力を使ってその情報を知ったうちは怒り爆発っちゃ!!!すぐに刑務所を脱獄して笑介のもとに向かったっちゃ!!!」

アチャ、舞台下手袖にはける。

数秒後に手を挙げた状態のモネ、指ピストルを構えたアチャ、下手袖から登場。

モネ「ごめんごめんごめんごめんごめん…」

アチャ「ゆるさないっちゃゆるさないっちゃゆるさないっちゃ!!!」

モネ「べ、別に波亜子のことを忘れたワケじゃないんだ!なんていうか、魔が差したっていうか…。」

アチャ「それはうちにも、(モネの横を指さして)その女の人にも失礼だっちゃ!!!」

モネ「あーごめんごめんごめん!!!」

アチャ「私を生み出してくれた人がこんなクズ男だったなんて!!!最低っちゃ!!!」

モネ「波亜子、許してくれ!!!この通りだ!!!」

アチャ「許さないっちゃ!!!天罰っちゃ!!!」

アチャ、指ピストルを撃つ仕草。

アチャ「BANG!!!」

□CDトラック 「銃声(エコー)」再生
SE「銃声」

モネ「…!!?笑美ッ!!?」

アチャ「なんで…なんでそんな最低な男を庇うっちゃ…。」

モネ「笑美!!!しっかりしろ!!!笑美!!!」

アチャ「知らないっちゃ…もう知らないっちゃ…全部…全部、笑介が悪いんだっちゃ…。」

モネ「笑美…息をしてくれ!!!笑美…、嘘だろ…。」

アチャ「フフフフフフ…ハーッハッハッハッハ!!!」

モネ「何を、笑ってるんだ?」

アチャ「うちも何を笑ってるのかわからないっちゃ!!!でもこれだけはハッキリしているっちゃ!!!うちは笑介、アンタを地獄に落としてやるっちゃ!!!」

モネ「俺を撃ち殺すのか?」

アチャ「いいや、殺さないっちゃ。アンタには生き地獄を味わってもらうっちゃ!うちはこれからこの指ピストルでこの世界を恐怖に陥れ、アンタはその罪の意識に死ぬまで苛まれ続けるっちゃ!!!」

モネ「やめろ!!!関係ない人間たちを巻き込まないでくれ!!!」

アチャ「要求は飲めないっちゃ!!!うちを止めたかったら、その手で止めてみせろっちゃ!!!あーっはっはっはっは!あーーーはっはっはっは!!!」

アチャ、スキップしながら上手袖にはけてゆく。

モネ「待て!!!待ってくれ、波亜子!!!最悪だ…全部、全部の俺の所為で…。」

モネ「(語り)そして俺はまだ生まれて間もない麗亜を裁判所で知り合った錬太郞さんに預け、その時8歳になっていた笑介も知人の施設に預け、波亜子を止める為に独り奔走した。しかし、波亜子を探し出すことが出来ないまま、12年の月日が流れた。」

モネ「…ちくしょう…波亜子は…波亜子はどこだ…。」

アチャ、舞台上手袖から登場。

アチャ「随分と老けたっちゃね。」

モネ「ぱ、波亜子!!!」

アチャ「お別れを言いに来たっちゃ。」

モネ「え?まさか俺を殺しに?」

アチャ「その必要はないっちゃ。もう時間切れなんだっちゃ。」

モネ「時間切れ?まさか!!!」

アチャ「3分の2を失った笑介の寿命。」

モネ「そうか。タイムリミットが、来ちまったか。お前は特殊能力を使ってそれを知り、俺の前に現われたってことか。ははは…我ながら波亜子には都合のいい特殊能力を与え過ぎてしまったな…。」

アチャ「5、4、3、2、1。さよなら、先生。」

モネ、倒れる。

アチャ「さあ、あとはあの子との決着をつけるっちゃね。我が息子、稿井笑太。」

■暗転