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【TIFFレポ③】“胸キュン”の先にある恋愛のリアル――『愛がなんだ』『月極オトコトモダチ』

少々日にちが空いてしまいました。更新のない間も、各自素晴らしい作品やクリエイターとの出会いがあったU-NEXT映画部です。が、それはまたの機会に書かせていただくとして。

新たな才能との出会いを求めて通った東京国際映画祭(TIFF・10月25日から11月3日まで開催)レポートシリーズの続編を、映画部・宮嶋がお送りします。

【TIFFレポ①】また会いたくなる、あの子。『アマンダ(原題)』(東京グランプリ&脚本賞W受賞作)
【TIFFレポ②】中村文則のほの暗さと、表現者・村上虹郎。『銃』(日本映画スプラッシュ監督賞 受賞作)

第3回は、日本の恋愛映画2本にフィーチャーしてみます。どちらも、まったくキラキラしていない(笑)恋の物語です。

『愛がなんだ』(コンペティション部門)、『月極オトコトモダチ』(日本映画スプラッシュ部門)。どちらも、男女の温度差を違うかたちで描いた恋愛映画です。


温度差に気づかないフリをするという選択―今泉力哉監督『愛がなんだ』

《あらすじ》
「私はただ、ずっと彼のそばにはりついていたいのだ。」
28歳のテルコはマモルに一目惚れした5か月前から、生活すべてがマモルを中心に動いている。仕事中でも、真夜中でも、マモルからの電話が常に最優先。彼がそばにいてくれるだけで、テルコは幸せなのだ。
しかし、マモルにとっては、テルコはただ都合のいい女でしかなかった。
ある日、マモルの家に泊まったことから2人は急接近。ついに恋人に昇格できる!と有頂天になったテルコは、頼まれてもいない家事やお世話に勤しみ、その結果、マモルからの連絡が突然途絶えてしまう。
それから3か月後、マモルから久々に呼び出されると、彼の隣には年上の女性、すみれさんがいた…。


恋愛のリアルな一面のうち、大きな要素のひとつが、「ハッピーエンドの後もハッピーとは限らない」という事実ではないでしょうか。焦がれるような片思いを実らせて恋人同士になったとしても、想いの重さは均等じゃない。好きあって付きあっているつもりでも、片方は惰性だったり、打算だったりするのはよくある話。

また、なまじ大人なだけに大人の関係はあるのに、これまたなまじ大人だからこそ「私たち付きあってるんだよね?」なんてストレートに訊けなくて、そのままズルズル続く関係性…これもまた、よくある話。

そんな恋愛のリアルに、真っ向から「とことん曖昧な関係性の恋愛映画」という形で問いかけてきたのが本作だったりします。

岸井ゆきのさん演じる主人公テルコの、成田凌さん演じるマモルへの愛と献身は、ひたむきで不器用で、でもどう考えてもズレきっていて、痛々しさを通り越してもう、愛おしい。

一方のマモルくんはデザイン系の会社員ですが、「33歳になったら象の飼育員になりたい」なんて言っちゃう、どう見ても三十路モラトリアムな男性で。テルコを拒絶もしないし、受け入れもしない。

でも彼女だって本当は、この温度差に気づいていないわけはないのです。この温度差を、自分のなかでどう処理するか。そして、大好きなマモルの“大好きな人”である年上の女性・すみれさんが登場した時、自分の想いをどう整理していくのか。

みっともない恋をしているのはテルコだけでなくて。テルコには輝いて見えるマモルも、マモルが憧れるすみれさんも、テルコの親友とその後輩も、キラキラしていない想いを抱えていたり、不毛な恋をしていたり、その温度差を認めることができなかったりしていることが、人間くさくてとてもイイ!

“ダメ恋愛映画の旗手”と称される今泉力哉監督は、そういう恋愛の生々しい姿を魅力的な人物たちに乗せて、長回しを多用したあくまで抑え気味のタッチで、でも鋭く、描いてくれています。

原作と異なるラストシーンも、なかなかスパイシー!冒頭のシーンとラストシーンの岸井さんの表情、名演だと思います。

2019年春に劇場公開予定とのこと。ご期待ください!


自分で決めて自分でモヤモヤの恋愛あるある―穐山茉由監督『月極オトコトモダチ』

《あらすじ》
大人になると異性の友達ってなかなかできない。男女の間に友情は本当に存在しないの? WEBマガジン編集者の望月那沙は、あるきっかけで「男女関係にならないスイッチ」を持つと語る柳瀬草太に出会う。実は、彼は依頼主に雇われた「レンタル友達」だった。那沙は柳瀬をレンタルし、ある検証を試みようとするが…。一方、那沙のルームメイトである珠希は音楽を通じて柳瀬と距離を縮めていく。


こちらの作品のヒロイン・那沙は、『愛がなんだ』のテルコさんとは逆に、ある意味で堅実で自制派。仕事もちゃんと頑張っていて、自分の生活のリズムや、自分なりの楽しみもあって、だからこそ恋愛で面倒なことになるのは嫌で、でも、異性の友だちも「いないよりはいたほうがいい」って、なんとなく漠然と思ってる。

いやしかし、大人になると、この「異性の友だちもいたほうが…」が、厄介になってくるんですよね~。これもまた、温度差が生まれやすいところだったりして。

お互い「そんなつもりじゃないのに」でモメてしまって、気の合う友だちを失うくらいなら、「そんなつもりじゃないです」が前提の関係だったら楽チンなのに…という彼女の願望が、この物語の出発点。

わからなくもなかったりするけれど、ドライすぎる関係はやっぱり少し寂しくもあり。結局割り切れなくて、だんだん自分が「前提」と「本音」のあいだでモヤモヤし始めるのだから、男女関係は面白いもの。

しかし、自分で「前提」を決めて関係を作っちゃうと、ややこしい。その奥に「本音」が生まれた時、「本音と建前」よりもっともっとややこしい葛藤が生まれるわけで。自分で決めたから、ますますドツボにハマっていくわけで。この作品の“レンタル友達”ほどドラスティックでなくても、こういうことって往々にしてあるような気がします。

本作は、そんなヒロインのモヤモヤ、葛藤、奮闘ぶりに、思い切り気持ちを寄せて楽しみたい1本です!

現在開催中の「MOOSIC LAB.2018」で観られるので、東京近郊にお住いのかたはぜひご覧ください。


数年前、いわゆる“胸キュンもの”といわれる少女漫画原作の映画が10代20代の女性たちに大流行しましたが、そんな夢みる胸キュン映画で育った女性たちも、おそらく現実世界で恋愛のリアルをひたひたと味わうお年頃。この2作品のような、等身大のヒリヒリ感を共有できる恋愛映画、おススメします!


©️2019映画「愛がなんだ」製作委員会/©2018 MAYU AKIYAMA / MOOSIC LAB