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一勝を当たり前の物に。2022年東大野球部の振り返りと最下位奪出への展望。~野手編~

こんにちは、シュバルベですᕙ( ˙-˙ )ᕗ

11月6日で2022年の東京六大学野球がシーズンを終えました。今年は明治大学が春秋連覇。神宮大会でも優勝を果たし、東京六大学野球の強さを全国に再度知らしめてくれました。

そんな東京六大学野球連盟において、異質な存在である東京大学。昨年2勝を挙げその先端的な取り組みにも注目があつめられましたが、今年も1勝3分を記録することができました。

春と秋の順位表はこちら。

春・秋ともに結果を見ると、最下位脱出には勝ち点1が最低限求められます。春5位の早大が3勝、秋5位の法大が4勝していることからも、1カードに2勝+残り4カードで1勝以上、これが現実的な最下位脱出の条件となります。

本noteでは前回の投手編に続いて、2022東大野球部の戦いを振り返るとともに、チーム2023が最下位から「奪出」するために何が必要なのか、考えてみたいと思います。

※投手編はこちらよりご覧ください。


1.東大の野手を他大学と比較する

野手も投手と同じように他大学との比較から行っていきましょう。

2022シーズン、東大は打率・出塁率・長打率のいわゆるスラッシュラインでいずれも最下位。三振が多い一方、四死球は9.7BB%で優勝した明治大学を上回りました。35盗塁はリーグ2位で、犠打は最少の17個となっています。

直近3年間の東大の各シーズンとの比較はこちら。

打率は毎年.150~.190の間で、2022年もその中に収まりました。春季リーグでの出塁率.266は21年秋に続いて好成績を残しましたが、秋季リーグで.030近く下げてしまいました。本塁打が春に2本、秋に4本出たのは非常にポジティブな結果で、盗塁は21春を境に恒常的に20個前後記録出来ています。

野球の試合に勝つためには相手より多くの点を取ることが必要です。

ランナーを貯めること、三振を減らすことはそのための重要な手段であり、22年春のリーグ戦で12.5BB%と他の5大学レベルに四死球を選び三振を20.3K%まで減らせたアプローチの改善は目を見張るものがありました。

しかし、秋には他大学の対策や早打ち傾向で三振が増えてしまい、逆に四死球は大きく減少してしまいました。アプローチ手法の継続性はこれからの課題になってきそうです。


一方で、投手編でも書いた内容ですが、ここまで出してきた数値は確立や平均値として算出されるもので、数字を良化させることはあくまでも手段に過ぎないことを念頭に置く必要があります。

東大が目指すべきもの=最下位脱出をするという目的だとするならば、数値が悪くなろうとも同一カードで2勝して勝ち点を取ればよいのです。

とはいえ、やはり目安は欲しいですよね?野球は9回を終わった時点で相手チームよりも多くの点数を取っているチームが勝つというルールです。2022年、東大が経験した24試合の得点と失点は次の通り。

春季リーグでは、1試合の平均得点2.1点に対し、平均失点は8.3点。
秋季リーグでは、1試合の平均得点2.4点に対し、平均失点は6.9点。

得失点差を均すとマイナス5.375点という大きなギャップが生まれてしまいます。

しかし、上記の試合内容の通り、慶大戦の20失点や春の16失点×2なども平均値の中には入っています。ここで見るべきは中央値(順位が中央である値)で、この中央値を上回る得点と下回る失点でゲームを作れれば「いい試合」が出来るようになるはずです。

東大の得失点 平均値と中央値
<春季リーグ>

得点:平均値2.1点 / 中央値2点
失点:平均値8.3点 / 中央値8点
<秋季リーグ>
・得点:平均値2.4点 / 中央値2点
・失点:平均値6.9点 / 中央値4.5点

春季リーグでは中央値は軒並み平均値に近く勝利まで遠かった一方で、秋季リーグでは失点の中央値が4.5点。平均値とは2.4点の乖離が出てきています。

東大の勝利を増やすために取るべき点数と、抑えるべき点数。それを考えると次の結論に至ります。

  • 投手は1試合で3点以内に抑える試合を増やすこと

  • 野手は1試合で5点以上を取れる試合を増やすこと

どちらもハードルは非常に高いことは間違いないのですが、実際に投手が3点以内に抑えた試合では1勝3敗2分(敗戦はいずれも1点差)、野手が5点以上取った試合では0勝2敗1分。

勝利または引き分けの試合はいずれもこのどちらかの条件を満たしており、今後の東大を見て行くに際しても有効な目線の一つになるのではないかと考えています。

今回は野手編なので、どうすれば1試合で5点を取ることが出来るかという観点も含みつつ以下の文章を書いていきます。


2.2022年の東大野手陣を振り返る:個のパワーと変化した打撃アプローチ

この章では2022年の東大野手陣の個々の成績を振り返っていきましょう。

1打席以上出場した28名の年間成績は以下の通りです。

全24試合に出場したのは阿久津怜生選手(宇都宮④)、中井徹哉選手(土浦一④)、梅林浩大選手(静岡③)、別府洸太朗選手(東筑③)、松岡泰希選手(東京都市大付④)の5名でした。

例年と大きく異なる点の一つは、なんといってもホームランの数です。

阿久津選手がなんと春1本・秋2本で合計3本放ったほか、中井選手、浦田晃佑選手(金沢泉丘④)が1本ずつ秋にホームランを放ちました。投手である井澤選手も春に左翼スタンドへ入れており、チームで4人6本塁打

2019年秋季リーグを最後に4シーズン出ていなかったとは思えないほど、個のパワーを感じさせる強く引っ張ったホームランが見られたのはとても嬉しかったです。

分かりやすい指標であるOPSが高い選手を紹介していきましょう。

年間で最もOPSが高かったのは浦田晃佑選手の.669

ホームランを放ちポーズを決める浦田晃介選手

この数字は法大・立大の平均OPSよりも高く、特に春のリーグ戦では打率/出塁率/長打率が.269/.321/.385と打力を発揮しました。三振を恐れず強く振るバッティングが結実したのがあの法政大学の篠木健太郎投手からのホームランでした。

次点はやはりホームランを放った阿久津怜生選手の.659

第一号ホームランを放った阿久津怜生選手

打率.200ながら出塁率は3割近くで出塁能力の高さを見せた上、3本塁打に4二塁打と長打を多く放ったことで長打率.363。

秋季リーグで疲れやコンディション部分で終盤は下位打線に回ることもありましたが、身体能力の高さはチームナンバー1というところを見せつける1年になりました。

浦田選手・阿久津選手は長打率でOPSを伸ばしましたが、チーム断トツの.357という高出塁率でOPSを.625に乗せたのが宮﨑湧選手(開成④)です。

グータッチの宮﨑湧選手

卒業後も社会人の名門、日本通運で硬式野球部を継続することが決まっている宮﨑選手は年間でチームトップの13四死球をもぎ取り、主に一番打者としてチームを牽引。

1年生の秋季リーグから出場を重ねた「開成1000年に一度の逸材」は、通算56試合での出塁率.304であることを考えると、この1年、ゾーン管理面で打席アプローチを改善し結果に繋げた選手だと言えます。

盗塁も年間7個はチームTOPで、出塁から盗塁で二塁打1本に等しい効力をあげた、東大野球部が目指す姿をある種体現したと言って良い働きでした。

同じく明治安田生命で硬式野球部を継続するキャプテンの松岡泰希選手は、打撃面では春・秋共に打率1割台。秋は四球も1つと守備やチーム作りでの負担の大きさを感じさせる結果となってしまいました。

勝利をあげた慶大戦での松岡泰希選手

3年時は2シーズンとも打率2割以上をマークしていただけに、この1年はつらかったと思いますが、それでも明大戦では蒔田稔投手からタイムリーを放つなど勝負強さを見せてくれました。

4年生の二遊間コンビはともに印象的な一打を放っています。

ショートの中井徹哉選手は今年の全5打点のうち4打点が秋季リーグで記録されたもので、特に立大2回戦での9回表ツーアウトの場面、抑えの沖投手からの同点タイムリーは印象深いです。結果的にその裏にサヨナラ負けを喫してしまいますが、勝利への執念を強く感じさせる一打に痺れました。

タイムリーを放つ中井徹哉選手

セカンドの林遼平選手(甲陽学院④)はその二塁守備の方が多くの人の記憶に残っているかと思いますが、打撃面でも春打率.056から秋打率.225とジャンプアップ。今年唯一の勝ち星を挙げた慶大1回戦で、外丸東眞投手から貴重な追加点となるタイムリーを放ち勝利に貢献しました。

ポジションに向かう林遼平選手と中井徹哉選手

これからを担う3年生以下でも打力に長けた選手が活躍しました。

秋に主に4番に座った別府洸太朗選手はシーズン6打点。チャンスに強く、外野の頭を超すパワーも備わっていて、年間で3本の二塁打と1本の三塁打を放っています。盗塁も年間4つ決めており、またセンターの守備も投手を何度も助けてきました。

23年チームのキャプテンに就任する梅林浩大選手はこの1年打率が上がらず苦しみましたが、12三振に対して12四死球とゾーン管理能力の高さを見せています。野手の正面を突くゴロやライナーが多く、あと少し打球角度が上がれば一気に数字は上がっていくと思っています。

秋季リーグで代打を中心に10打数4安打の打率.400を記録、宮﨑選手がコロナで出場できなかった秋の明大戦でスタメン出場を果たした大井温登選手(小松③)も非凡な打撃センスを発揮しました。

1年生で唯一リーグ戦出場を飾ったのが酒井捷選手(仙台二①)。初打席の明大戦でライトへの鋭いライナーを放ち(結果は右直)高い打撃センスを感じさせましたが、それは秋のフレッシュリーグで存分に発揮されることになります。

例年と比べホームランが出て、アプローチの改善も果たした1年でしたが、それでもチーム平均得点は2点台。六大学野球の投手のレベルの高さはどうしても感じますし、勝ち点を奪うまでの道のりは険しいものです。

次の章では2022年の打撃内容を、データの観点から見ていきましょう。


3.東大野球部の野手陣を分析する:OPSとBB/K編

2022年春季リーグは東大野球部の歴史の中でも一つエポックメイキングな年になったと位置付けてもいいものだと思っています。

こちらは過去7年間の東大野球部のシーズン別、OPSとBB/Kをグラフ化したものです。

青線がチームOPS、オレンジ色の線がBB/Kです。

一つずつより具体的に見ていきましょう。

まずチームOPSですが、これは勝ち点を最後に挙げた2017年秋季リーグが飛びぬけて良くチームOPS.681。このチームOPSは同シーズンにおいて6大学中4位とリーグで見ても十分他大学と渡り合える数値です。

この2017年秋季リーグはNPB入りした宮台康平投手にクローズアップされがちですが、田口耕蔵選手や楠田創選手ら中軸打者が本塁打を複数本放ち、1試合平均4.5点を取る超強力打線で打ち勝ってきたシーズンです。

このシーズン並みに打てること=1試合平均で5点を奪うことになるわけですが、歴代でも飛びぬけて高いOPSを誇るシーズン並みに数値を高めることは簡単ではありません。

この翌年の2018年春以降、東大野球部のチームOPSは2020春を除き毎年.500を下回っています。近年の他大学の投手陣を鑑みても、チームOPS.500前後に今後も収束し続ける可能性は高いと考えられるでしょう。

OPSは出塁率+長打率で求められる数値です。OPSは分かりやすい一方で、確率と期待値の足し算であり、チームや選手の傾向を把握するには出塁率/長打率の値にも注意を払うべきです。

改めて出塁率と長打率の数式を掲載しておきます。

出塁率=(安打数+四球+死球)÷(打数+四球+死球+犠飛)
長打率=塁打数÷打数

出塁率はバッターが何割の確率で出塁できるかを示し、長打率は打数当たりの塁打数の期待値を示しています。

その2つの数字に細分化したのがこちら。

当然ですが2017年秋の数値はとびぬけて高く、出塁率.327/長打率.355はいずれも過去7年間でトップの数字です。

2017年秋で打の主力選手が抜け18春~19秋と4シーズンにかけて出塁率・長打率ともに.250を下回りましたが、2020年に監督が井手監督に交代しコロナの影響を多大に受けることになった20春から出塁率は安定して.250を超えるようになりました。

一方、長打率は17秋以降、20春の1シーズンを除いて常に.250を下回っています。22秋は本塁打が4本出て19春以来となる長打率>出塁率となったシーズンでしたが、それでも長打率.238。

年間のチーム打率.167というヒットの割合の少なさがやはり響いており、塁打数を増やしていくことの難しさを痛感するシーズンとなりました。


次にチームBB/Kもみていきましょう。

この数値は2022年春に0.62。歴代でも屈指の好成績となっています。あの2017秋でも0.43で、この春は四球が多く三振が少ない、打撃アプローチとして最も良い状態であったことが分かります。

BB/Kは四球の数を三振の数で割った数値ですが、四球率(BB%)と三振率(K%)の7年間の推移は次の通り。

やはり22年春はBB%が高く、K%が低いことが分かります。

22年秋にその数値はまた悪化してしまうのですが、上記のグラフの通り21春~22秋にかけて少しずつK%もBB%も良化の兆しをみせており、東大野球部の努力の方向性は少なからず見えてきます。

なお、20春以降、春季リーグより秋季リーグの方がK%が高いという現象が3年続けて発生していますが、これは他大学による対策によるものなのでしょうか。16春~19秋にかけての4年間は逆に春季リーグの方がK%が高く、20春からの監督交代による影響は細部まで出ているように感じられます。

ただ、四球率には限度があり、直近7年間で最高の22春の12.5BB%は最大値に近しいと考えられます(他の5大学でも20~22シーズンで9.0BB%~13.0BB%の中に収まっています)。

一方で、三振率は他大学との乖離が大きくなっています。

こちらは六大学のK%をグラフ化したものですが、東大が多くのシーズンで25K%以上を喫してしまっているのに対し、他大学は15~20K%で大方推移しています。

強く狙いを絞ってスイングをかけることと三振が増えることはトレードオフとはいえ、チーム全体として三振が少ないに越したことはないと考えます。後述する足を使った野球を軸の一つに据えていることも考えると、三振を減らすことは得点機会を増やすことに直結する可能性があるからです。



長打率を上げる=安打を増やす+塁打数を増やすこと、そして四球を増やすことも三振を減らすことも、相手投手の力量に左右される部分が大きいので簡単ではありません。

安打を増やすには打球速度を上げることが必要で、それにはスイングスピードを上げる必要がありますし、ゾーン管理能力を上げるにはレベルの高い投手を相手とした実践の数をこなす必要も出てきます。

東大はホームラン≒長打が少ないから出塁率を上げる方向にシフトすべきと考えたくなる一方で、22年秋に6本塁打を年間で放ったことを考えると、トレーニングのメソッドも年々上がっていく中で長打を狙っていくフェーズに入っても良いかもしれません。

2023年体制でこれらの数値がどう推移するか楽しみにしたいですね。


4.東大野球部の野手陣を分析する:打順編

この章では個のスタッツとは関係ないですが、東大の打撃陣の打順について見ていきましょう。

プロ野球の世界でも2番最強打者論など打順についての議論は盛んにおこなわれていますが、年間143試合行われるプロ野球以上にリーグ戦20試合超で終わってしまう大学野球において打順は試合の結果に直結します。

私としては打順の考え方はシンプルで、打席数の多く回る上位打線に出塁能力の高い選手を順番に配置することが最も重要だと考えています。

2022年、年間で組まれた東大野球部の打順別の結果はこちら。

球=四死球、PH=代打、途=途中出場者。なお、本来の出塁率の算出には死球と犠牲フライを除く必要があるが、今回は四死球とし、犠飛は計算から除いた疑似的な数値。

上位打線から見ていきましょう。

1番打者が出塁率.313と最も高く、2番.283、3番.277、4番.245と段々下がっていきます。1番~5番打者まではまさに出塁率が高い順に配置されており、さすがデータ分析もアナリスト部門を設けているだけあるなと感じました。

打点は2番と3番が9打点ずつで最も高く、出塁能力の高い1番バッターを2番~3番で返すというのが東大の得点パターンだったと言えそうです。

逆に4番が5打点、5番は0打点と打線の真ん中に入る打者が走者を返す役割を果たせていなかったことが課題となっています。その後を打つ6番打者がチーム最高の出塁率.313で打点も8あることを考えると、いわゆる中軸の打順組みの面では検討・改善の余地があったと言えるでしょう。

7番以降の下位打線は出塁率が.115~.216と低く、代打・途中出場の選手もやはり低打率・低出塁率で、比較的スタッツの良い上位打線にチャンスでまわす場面が少なかったことも得点が伸びなかった要因となっています。

チーム全体の打力の向上、特に22年の年間チーム出塁率.250に近しいところまで下位打線でも出塁能力を上げていくことができれば、得点数も上がっていくことが見込まれます

もっとも、毎年卒業していく大学野球なのでメンバーも大きく変わっていきますが、梅林選手・別府選手と中軸を担っていた選手が4年生で残るので、この2人を軸とした得点を取れる打線の構築に期待したいと思います。


5.東大野球部の野手陣を分析する:盗塁・犠打編

この2年間、東大野球部における大きな変化の一つが盗塁数の増加です。

2021年の年間43盗塁は直近7年間のリーグ戦で最多であり、東大が東京六大学野球においてトップを走れるカテゴリーとなっています。

逆に、犠打数は減ったようなイメージがあるかと思いますが、実際に過去7年間の盗塁数と犠打数の推移はこちらです。

盗塁数は21年春を転機に安定して毎シーズン15以上。過去と比べても非常に多くの盗塁を決めています。

犠打数については各シーズンでの変動は少なく、多くのシーズンで5~10個の間に収まっています。

ともにランナーが一つ進塁するイベントですが、盗塁はアウトと引き換えにしない分、より得点に直結しやすいという長所があります。

盗塁のリスクとして、失敗するとアウトカウントが一つ増えランナーが一つ減るということはありますが、東大野球部は直近2年間の4シーズン中、21年春・21年秋・22年秋の3シーズンで盗塁成功率8割を超えており、22年春も7割は超えています。

盗塁を試みる宮﨑湧選手

21年度の東大野球部アナリストで、現在はソフトバンクホークスに所属する斎藤周氏が書いているように、盗塁は得点確率を上げることで評価されるべきものです。

高い盗塁成功率を誇る東大野球部ならば、これだけ盗塁数が増えているのに(決して多くはないとはいえ)犠打の数が過去と同じなのは少し勿体なく感じます。

一方、他大学のマークは年々厳しくなっているのは間違いありません。22年で言えば、21年のオフを経て早大の印出選手や法大の村上選手に盗塁を刺されるケースが目立ちました。早大の加藤投手などはクイックが速いうえに牽制もトップクラスに上手く、チームとして東大の盗塁封じに臨んでいると感じています。

他の大学と東大、盗塁と犠打の数を比べてみましょう。

ここ2年間の東大の盗塁の数の多さ、20年までと比べた時の突出度はリーグで見てもとびぬけていることが分かります。

一方、犠打の数は東大が毎年最も少なくなっています。年間で5位のチームとも10個程度差があり、リーグ内で東大は盗塁が多く犠打が少ないという位置づけになります。

東大と同じように21年シーズンから盗塁数を増やしてきたのが明治大学。同チームは22年に春・秋連覇を達成していますが、ともにリーグ2位の出塁率と長打率に加えてこれだけ盗塁を多く決める走力があるので得点効率を高くすることが出来ています。

明治大学は盗塁が多く、犠打も多いという位置づけで、年間60個ものアウトを犠打で差し出すのは勿体ないのではないかと個人的には思ってしまいます。

まとめると、リーグで見ても東大の盗塁の数は非常に多く、盗塁は東大にとっての強みだと言えます。

長打の少なさを補うのが盗塁であり、特にノーアウト一塁からノーアウト二塁にできれば得点確率は20%上がることを考えると絶対的にトライすべきイベントでしょう。

同じノーアウト一塁から盗塁が成功した場合と、犠打が成功した場合の得点確率について、『セイバーメトリクス入門』の確率表では次のようになります。

盗塁:無死一塁40.2% → 無死二塁60.3%(+20.1%)
犠打:無死一塁40.2% → 一死二塁39.4%(-0.8%)

今の東大の盗塁成功率からすれば、8割の確率で得点確率を+20%上げられると考えると絶対に盗塁を選択すべきです。

さらに、盗塁には相手投手に打者との勝負以外の部分でのケアを増やし、打者にとっては球種も絞りやすくなるというメリットも生じます。

この2年、東大野球部でエンドランのサインはあまり出ていなかったと思いますが、盗塁のイメージが強くなるほど打撃も連動した作戦は効力を高めていく可能性があります。

暴投間に本塁突入する阿久津選手

東大が他大学を上回る強みを見つけたのですから、あとはカルチャーとして年単位でも安定して盗塁数を維持できるようにすることが大切です。勿論、失敗はあるかもしれませんが、私たちファンレベルでも盗塁という得点確率を上げるチャレンジに対して前向きに後押ししてあげる必要があるでしょう。


6.来季へ向けて:1試合5得点を取るためには

2023年シーズン、どうすれば同一カードで2勝できるのか。どうすれば1試合5点を取れるのか。野手の考察のまとめとして、この章では来年の事を少し考えてみましょう。

打の中心になるのは先述した通り、梅林浩大選手別府洸太朗選手の二人。

新チームの主将・梅林選手はスイングスピードの速さに伴う打球スピードの速さが持ち味で、あとは打球に角度が付くだけです。3番~4番に座りランナーを返す役割を任せたい選手でしょう。

タイムリーを放つ梅林選手

別府選手は既に打球角度をつけることに長けており、走者としても22年に4盗塁を決めるなど高い身体能力を見せています。1番バッターも視野に、上位打線で長打または盗塁を絡めてチャンスを作る・ランナーを返すの両方の役割を果たしてほしいと思います。

打席に入る別府洸太朗選手

出塁能力で言えば、2章で名前を挙げた3年生の大井温登選手と、キャッチャーの和田泰晟選手(海城③)は既に今年の打者陣の中で比べても平均を上回っています。今年と同様、打順を組む際に出塁率を重視するならば彼らが上位打線に入ってくるのが自然でしょう。

秋季リーグで初ヒットと2盗塁を決めている近藤悟選手(県立浦和③)も上背があるのでこのオフにパワーもつけば打線の中軸に入ってくる実力を持っています。

打席に入る近藤悟選手

1試合5点以上取って試合を優位に運ぶこと、これを実際にやって見せたのが秋のフレッシュトーナメントでした。

11月8日に行われた慶大戦で16-6と大量点差でコールド勝ちを収め、フレッシュトーナメント優勝チームである明大戦でも6-13と打ち合いを演じた今年の下級生メンバーは来年のチームでも中心選手に加わる選手が出てきそうです。

特に1・2番の上位打線を組んだ酒井捷選手西前颯真選手(彦根東②)はフレッシュトーナメントで大当たり。酒井選手は2試合7打数6安打4盗塁、西前選手は2試合9打数6安打と抜群の結果を残し、打力と盗塁で相手チームを倒す強い東大野球部の姿を体現しました。

試合前ノックに入る西前颯真選手

フレッシュトーナメントのキャプテンは高校時代2年連続で東東京大会決勝まで進んだ代の小山台高校のメンバーだった山口真之介選手(小山台②)で、彼も2試合7打数4安打2盗塁。まだリーグ戦の経験はありませんが、内野の守備にも定評があり次年度のチームでの活躍が期待されます。

22年秋開幕戦からサードスタメン出場の藤田峻也選手(岡山大安寺中等②)と、22年春に6打席貰った内田開智選手(開成②)も当然23年のレギュラークラスに入ってくるでしょうし、フレッシュトーナメントで本塁打を放っている松原周稔選手(土佐②)と杉浦海大選手(湘南①)も長打力を買われているはずです。

各代に打力も走力も守備も備わった選手が点在し、23年はまた楽しい試合が多くみられるシーズンになるのではないかと期待が高まります。チームスローガンの「奪出」目指してこのオフ更なる進化を果たしてください。


7.さいごに

長くなりましたが、以上が東大野球部の野手編です。

22年秋の明大戦であの明治大学としっかりと打力で勝負を出来たのが東大野球部で、盗塁とヒットで点を重ねていく野球は観ていてもエキサイティングなものでした。

勝ち点をリーグ戦で奪取するにはやはり個々のスケールアップが必要ですし、打席でのアプローチも精度を上げていく必要があります。

データの力も、外部の力もどんどん使って、2023年の秋が終わったところで今年は最下位から脱出できた歴史的なシーズンだったねと言えることを願っています。

そして、改めて4年生はお疲れ様でした。毎週末楽しい思いをさせてくれて感謝しかありません。

各々野球を続けたり、サラリーマンとして働いたり、大学院に進学したり、もう一年学部生を延長したりと様々だと思いますが、新たな道でも多くのチャレンジをして幸多き道のりを歩んでほしいなと思います。

投手編と同様、末尾に4年生野手陣と主務・学生コーチ陣の写真を掲載してこのnoteの締めとしたいと思います。

お読みいただきありがとうございました🙇‍♂️

#1 宮﨑湧

#2 中井徹哉

#4 守屋大地

#5 浦田晃佑

#6 阿久津怜生

#7 林遼平

#8 伊藤翔吾

#10 松岡泰希

#24 清永浩司


#25 伊藤和人

#32 赤井東

#33 佐藤有為

#44 片岡朋也

#46 林英佑

#主務 田中平祐

#50 小野悠太郎 学生コーチ

#51 島袋祐奨 学生コーチ


■出典

『セイバーメトリクス入門:脱常識で野球を科学する』
(蛭川皓平著、2021年5月29日発刊)


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