見出し画像

いつかランウェイで刃を

これさえあればどんなことが起こっても絶対最高!なんてものは存在しない。
それはモテない芸人が一流女優と結婚してもそうだ。
私も懐がマントルより深い郵便屋さんという伴侶を得ても「報われたい」「幸せになりたい」などとつい口にしてしまうのである。

よくある話だが、常に誰かを目の敵にしていないと気が済まない女に目をつけられている。
その女と同じ時間帯は重力が1.5倍になったように体が重く感じる。この原理を上手く使えば精神と時の部屋が実現できるかもしれない。
しかし現状、彼女のいる場で過ごしたところで私が強くなれる訳ではなく、シンプルにただひたすら嫌な思いをするだけである。
彼女はめちゃくちゃ太っているのだが、おかげで世の中のデブへのヘイトが3割増しになってしまった。
痩せたいと言いながら深夜にコーラを飲むデブを私は応援できない。

昨日はミスとも言えないような些細なことでデブに怒鳴られてしまった。
私は「人に怒鳴る」ということを出来る人がまず凄いと思っていて、私にはやりたくても出来ないことだから少し羨ましくもある。
それだけ自分が世間に受け入れられているという自信がないと出来ないことだと思うからだ。
彼女の声はあまりにも鋭くその場を支配していた。
勇ましくて浅ましい。
声の刃が心をかすめて、切れた部分から液体がポロポロと止まらなくなってしまった。
泣いていることを悟られまいと気丈に振る舞ったつもりだったが、私の声は冬のため息のように頼りなく大気に解けていった。

その日の夜、色々な人に会って気持ちを切り替えたつもりだった私の夢の中に彼女が出てきた。
同じように彼女の刃が私に突きつけられる。私は夢の中でも変わらず冬の吐息だ。
無力。あまりにも無力。
目を覚ました時には深夜の2:30だった。
幽霊が最も活発な時間帯である。
この世のものでないものよりこの世のものの方が怖かった私は、そこから何時間も寝つけなかった。

「寝れないの?」
私が本を読む為につけた光が漏れて郵便屋さんを起こしてしまった。
本を畳んで懐に入りこむと、事情を知る郵便屋さんが強く抱きしめてくれる。
「偉いね」「頑張ってるね」「かわいいね」「凄いね」
考えつく限りの褒め言葉をかけてくれる。
郵便屋さんの言葉はティンカーベルの魔法の粉の如く、心の鉛をふわりと浮かばせた。

これさえあれば大丈夫だ、とは思わない。
郵便屋さんが居てもダメになることだってきっとある。
でも、だからこそ私は私の日々をしっかりとした足取りで歩んでいきたいと思う。


ADHDや発達障害を自称する女が彼氏や旦那の話題を持ち出すのは「女の発達障害者は男に助けてもらえるから楽だ」という印象をつけかねないからやめろ、という意見を度々目にする。
深く傷つく。
本当にそうなのかもしれない。
デブの女とは違った刃を背中に感じながら胸の張り方を探している。
もしも私をランウェイで見かけたら、フラッシュを当てて向けられた刃をも輝かせて欲しい。
光る刃物って実は凄く綺麗だから。

いただいたご支援は執筆にかかる費用に使わせていただきます。よろしければ是非!