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本を読め #1 塩狩峠

本を読まないまま、27年間生きてきてきた。

父親にはよく「本を読め」「もっと本を読め」と言われた。それでも読まないで生きてきてしまった。

本棚もあるし、話題になる本、小説は読んだ(映画化されたものや勧められたものなど)。しかし、毎日友人と一緒にいるのが好きだったし、携帯小説?やSNSが流行りはじめてからはなおさら、本を手に取らなくなってしまった。

結婚して、フルタイムで働くことをやめてからはしたいことをたくさんした。本を読もう!と思ったのもその一つ。

主人はとても本を読む人だった。人と群れることを好まない。一人の時間が好きで、本を読むのも好きだったらしい。そんな主人が勧めてくれる本から読み始めようと思ったのが、私の読書の始まり。

主人に勧められて何冊か読んできたが、この「塩狩峠」は新鮮な気持ちにさせてくれた。文中にもあるが、本当に叩きのめされるほどの感動があった。

小説背表紙の内容紹介の最後の文が印象的だ。

結納のために札幌に向かった鉄道員永野信夫の乗った列車が、塩狩峠の頂上に差し掛かった時、突然客車が離れ、暴走しはじめた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた……。明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う長編小説。

愛と信仰に貫かれた生涯、とあるように本当に美しい物語になっている。実際にあった事故がモデルであり、読みはじめから引き込まれるものがある。

ただの綺麗事が並べられている小説ではない。怒りや憎しみを感じる主人公の姿や、周囲の人間の心情が、まるで現在の世の中にも当たり前に見られる身近な様子なのだから、なおさら読み入ってしまう。

小説の終盤、主人公の母の手紙にこんなことが書かれている。

「…信夫の死は母親として悲しゅうございます。けれどもまた、こんなにうれしいことはございません。この世の人は、やがて、誰も彼も死んで参ります。しかしその多くの死の中で、信夫の死ほど祝福された死は、少ないのではないでしょうか。…」

この文を目にした時に、なんてこった、私にはこんな考えなんてなかったぞ。とすっかり参った。これも親の愛なのか、と思い知らされた。

もちろん全文を読んで感じて欲しいが、主人公が死んだということの悲しみだけではなく、主人公を讃える、誇りに思う周囲の姿をよく描いている。結婚相手の気持ちになると絶望でしかない。やはり悲しい。

ちょっと話は逸れてしまうが、私は現代の人間関係はとても冷ややかだと思っていた。家族や友人といった、愛している人たちとの間に感じる温かさ以外にあったはずの、他人同士で生まれる温かさを近頃は感じない。会社や、地域でもまったく感じない。それどころか、人が人を傷つけ、人間は自ら命を絶つようになってしまった。隣近所の付き合いも希薄になり、慈悲の心というものは感じなくなってしまった。見返りを求めるようになった、ような気すらする。

この本を手にし、読み切るまでは、現代って生きづらいんだ。環境が悪くなったからこんなに世知辛くなったんだ。とぼんやり思っていた。しかしそれは違うかもしれない、と思わせてくれた。

出会いや発見からの、気付きで人は変われるし、気がつかなければ人は変われない。誰かに変えてもらうことも、変えてあげることもできない。

なにより、私がそうだった、ということに気づかされた。私が世間から離れ、居心地が悪い気持ちを、自分のせいではなく環境のせいにしていたのだ。確かにひと昔より人の繋がりは希薄になったかもしれない、だがそれは私次第で変わるのではないか?と思うことができた。

いつか私も主人も死んでいく、子供に見守られながらなのか、一人なのかはわからないが、その時は全てに感謝しながら死にたいものだ。そしてまた、誰かに感謝されながら逝くことができたらそれ以上嬉しいことはないだろう。

でもそれは、私の生き方にかかっている。誰のなんのせいでもなく、この環境でどう生きていくかを考え、実践する自分にかかっているのだと、この本から感じた。

本を読むということは出会いであり、気付きである。さっそく学びがあった。お父さん、ありがとう。間違いなく遅いスタートだが、これからもたくさん本を読みたいと思う。

主人にも感謝を伝え、次へ次へと進んでいきたい。




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