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9月5日 火曜日

阿部健一

9月6日をすぎて7日に入ったところだけど、9月5日のことを書く。

この日は朝から高松に行き、いくつか確かめたいことがあったけど、寝坊してしまい、しばらく家のことをやっていたらお昼の出発になった。前日の晩に作っておいたじゃがいもとにんじんと玉ねぎをブイヨンで炒めたドライポトフのようなものと生姜のしょうゆ漬けを詰めたおにぎりを持って自転車で高松にいく。家から高松までは自転車で30分弱。帰りは35分くらいかかる。それは春日町から豊島園に向かう上り坂のせいだと思う。涼しいと思って出発しても30分も自転車をこいでると汗ばんでくる。豊島園までは近所だと思えるけど、春日町はやや遠い。自転車20分と30分のあいだにはやや大きな隔たりがある。武蔵野音大の脇を通って、江古田と桜台を結ぶ裏道を行き、練馬に出る。練馬駅の近くには警察官が立っていた。文化センターの裏を回って、白山神社の谷を越え、豊島園へ。そのまま直進して、春日町通りをいく。豊島園と春日町を結ぶ通りはちょっと趣深い。何があるという訳ではないけど、懐かしい気がする。そこを越えると練馬春日町駅につく。環八沿いに左に折れてしばらく行くと、高松の入り口、めだかと野菜のさつき園に着く。30分の道のりの中で、一番大きく空が広がっている。

自転車を止める。ミンミンゼミがそこらじゅうで鳴いている。小学生くらいの男の子たちが、自転車にのって何かを叫びながらみやもとファームの通りを通過する。同時に、環八の方からパトカーのサイレンが聞こえてくる。「そこの車、左車線に入りなさい」と何度も繰り返していた。

公園で一人、持ってきたお弁当を食べる。公園には小さい子供と若いお母さんたち。あと青い作業着を着た男性。いつも通り通行人は少ない。30匹くらいのクロアリが力を合わせて足元で芋虫の死骸を運んでいる。あっという間に3箇所蚊に刺される。

今まで通ったことのない道を、地図を見ずに歩いてみる。行き止まりが見えている小道には足を踏み入れないという当然のことを感じる。どこかに通り抜けられる道しかよそ者は歩かない。行き止まりを計画的に作る都市デザインが、確かアメリカで考えられたというのを聞いたなぁと思い出す。車も通り抜けないその公共空間は、パブリックというよりコモンスペース。高松のまちに感じる「安全さ」は、行き止まりの多さも関わっている気がする。

今まで人がいるのを見たことのない畑で作業しているおじさんを見つけた。畑の端で草むしりをしている。「こんにちは。突然すみません、ここの畑をやられている方ですか?」「違うよ」「あ、そうですか、失礼しました」ちがった。じゃああの人はなんだったんだろう。

その場所を通過して、旧道近くの直売所に行く。どのロッカーにもじゃがいもが入っている。と、その裏の畑にも作業しているおじさんがいた。苗を見たりして、さりげなく時間を潰しながら遠くからゆっくり肥料をまいてこっちに来るおじさんを待つ。近くに着た時に話しかけた。「こんにちは。あの、次に出る野菜ってどういうのなんですか」「次は11月くらい。今は何にもないよ。夏野菜が終わったから。じゃがいもくらいしかない。今植えてるやつが11月くらいからね、2月くらいまでかな」「冬野菜ってことですか」「そうだね」「それは、何が取れるんですか」「キャベツとか、カリフラワーとか。あとうちは葉牡丹とか」「葉牡丹?」「ほら観賞用の。紫色の」「ああ、紫色のキャベツみたいな」「そう」「そうですか。この苗はなんですか」「それはキャベツ。あっちがカリフラワー」「ああ」同じような話を別の畑の農家さんともする。この日はどの直売所もじゃがいもばかりだった。環八に一番近い直売所では、いつもおじさんが座ってテレビを見ている椅子に猫が寝ていた。気の遠くなるような、のどかな光景。前までものすごいたくさんはえてたコキアが半分刈られていた。わきに積んであったから、多分ほうき草にするのかな。蝶の楽園は半壊した。

高松ラビリンスを抜けて、環八に戻る。めだかを販売しているさつき園に入ってみる。そこの畑にも人が。「すみません。めだか見たいんですけど、あっちですか?」「左」「ありがとうございます」一通りめだかと金魚を見る。と大きな犬が歩いてきた。犬はうねうねと歩いて家のほうに消えていった。

「すみません。金魚を買いたいんですけど、いつならやってますか」「いつでもやってるよ」「いつでも」「俺がいるときはな」「明後日っていらっしゃいますか」「明後日はいない。明後日はダメだ」「そうですか。そしたらまた都合のいいときに寄りますね」

3時。高松を後にする。元来た道を帰る。桜台で廃品回収の車がそばを通った。「・・・壊れていても、かまいません、無料にて、お引き取りいたしております、テレビ、エアコン、冷蔵庫・・・」というよく聞くフレーズが、聞いことのないジャンルの音楽にのって流れている。桜台の町に強烈な違和感を生んでいた。

16時。研究室関係のプロジェクトのポスター発表のため松戸に向かう。地下鉄、山手線、常磐線、どれも座れない。平日、夕方から松戸に向かうとこうなる。緑化、景観改善に関するポスター発表を聞き、議論し、みんなで中華料理を食べて解散。

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